中学1年生の僕はスタンド席からステージをじっと見つめていた。

 2020年3月11日に“松室政哉”が最新EP『ハジマリノ鐘』をリリース!つらく苦しい日常が続いても、今の人生を、今の自分を、今生きているこの世界を愛したい。主人公の苦悩と葛藤を綴った【ハジマリ】のラブソングとなっているタイトル曲「ハジマリノ鐘」他、全5曲が収録されております。

 さて、今日のうたコラムではそんな最新作を放つ“松室政哉”本人による歌詞エッセイを、3週に渡りお届け!第1弾に続く第2弾で綴っていただいたのは、今作の収録曲「My Hero」にまつわるお話。中学1年生の彼が初めて、憧れの存在“桑田佳祐”さんのライブを観たときの想いとは…。

~第2弾歌詞エッセイ「My Hero」~

 一曲目が始まった。中学1年生の僕はスタンド席からステージをじっと見つめていた。想像をはるかに超えた大きな音が足元からも振動になって身体に伝わってくる。まばゆい照明がステージの真ん中に立つ一人の男を照らしている。沸き立つ歓声。

“もうそれしかなかった”

 2002年11月、僕は家族と大阪から新幹線で名古屋へ向かっていた。ナゴヤドームで人生初めてのライブを観るためだった。それは小学生の頃から憧れの存在である桑田佳祐さんのソロライブだ。その年の9月に発売された『ROCK AND ROLL HERO』というオリジナルアルバムを引っ提げてのドームツアーが行われていた(ちなみにこのアルバムは未だに僕の中で人生の一枚である名盤だ)。僕が突然、親に桑田さんのライブに行きたいと言ったため大阪のチケットは取れなかった。しかし、その後に名古屋公演のチケットを手に入れてくれた。

 小学生の頃に親の影響でサザンオールスターズに出会い、そこから見よう見まねで作曲を始めた。ピアノもサザンの曲を今で言う耳コピをして、独学で練習した。歌詞も必要なので、桑田さんの曲に出てきそうな言葉をただ並べて歌った。作った曲を古いラジカセで録音して、完成したものを無理やり親に聞かせる。そんな子供時代を過ごしていた。まさに僕の音楽の原点であり、未だに音楽脳のほとんどがサザンオールスターズで埋め尽くされている。

 そんな桑田さんのソロライブがあると知り、親に頼み込んだのだ。親もファンではあるがライブには行ったことが無かったので、快く行こうと言ってくれた。

 当日は少し早めに名古屋へ到着し、少しだけ家族で観光した。名古屋城に行き、城内にある金のシャチホコの模型に乗って写真を撮った。ただ正直、その後のライブが楽しみすぎて気が気じゃなかった。名古屋城にはまたゆっくり訪れてみたい。

 そして、遂にナゴヤドームに到着した。会場に入るとその規模の大きさに驚いた。会場内に立ち込める薄いスモークが印象的だった。取れた席はスタンド席でステージからは遠く離れていた。こんなに遠くて本当に音が聞こえるのか心配になった。初めてという事もあり、ライブがどんなものなのか全くわかっていなかった。アルバムを出した後のライブだから収録曲順に歌うのかな?とか、どんな姿勢で見ればいいのか、とか少し不安もあった。

 しかし、始まるとそんな事を気にしている暇なんてなかった。約3時間ほどのライブだった記憶がある。映像でしか見たことのない桑田さんが遠くからではあるが確実に見えていた。ライブの間、僕はまばたきするのも惜しむように、全てを目に焼き付けようとしていた。アンコールが終わる頃には放心状態になっていた。観ている間、自分が笑っていたのか泣いていたのか覚えてない。ただ、心の中に広がりつつあった思いが確信に変わっていた。音楽で生きてみたい。どんな風に動けば出来るのかも、誰にお願いすれば良いのかもわからないが、音楽で生きたい。

 時が経ち、今僕はステージに立つ人間になった。誰かの憧れになりたいなんて大それた思いは無い。しかし、先日とあるライブで小学生の男の子が僕に手紙をくれた。そこには僕に憧れてギターを始めたと書いてあった。そしていつか一緒に歌いたい、と。自分の身体より大きいアコースティックギターを抱え、真剣な顔でギターを弾いている写真も同封されていた。

 まさにあの日の自分を見ているようで胸が熱くなった。それと同時に彼のために、同じように思ってくれる誰かのために、音楽に真摯に向き合う姿勢をしっかりと見せたいと改めて思えたのだ。

<松室政哉>

◆紹介曲「My Hero
作詞:松室政哉
作曲:松室政哉

◆EP『ハジマリノ鐘』
2020年3月11日発売
UMCA-10073 ¥3,300(税別)

<収録曲>
M1.ハジマリノ鐘
M2.にらめっこ
M3.My Hero
M4.どんな名前つけよう
M5.マーマレードジャム