このフレーズは、子どもを生んでないと出てこなかっただろうなって。

 2020年1月22日に“阿部真央”がニューアルバム『まだいけます』をリリースしました。アルバムタイトル曲である「まだいけます」をはじめ「お前が求める私なんか全部壊してやる」や「どうにもなっちゃいけない貴方とどうにかなりたい夜」など、もう曲名から気になる楽曲揃い…!デビュー10周年を駆け抜けた彼女の“今”が詰まっております。
 
 そして今日のうたコラムでは、そんな阿部真央のインタビューを【前編】【中編】【後編】に分けてお届けいたします!読めばいっそうアルバムを楽しめる、濃厚なトーク内容となっておりますので、是非チェックを。【前編】に引き続き【中編】をご堪能ください!

― 4曲目「どうしますか、あなたなら」は、ドラマ『これは経費で落ちません!』の主題歌ですね。この歌はドラマとのリンクもあるかと思いますが、阿部真央さんの人生歌や応援歌には<良い自分>や<完璧な自分>であろうとする主人公像が浮かんでくることが多い気がします。やはりご自身も完璧主義な面が強いですか?

その通りですね。全然、完璧にはできないんですけど、完璧主義で。恥をかきたくないって言うほうが正しいかな。それは何故かというと、自分という人間に自信がないから。常に「失敗してないかな」キョロキョロ…みたいな感覚がありますね。でもそういうのって疲れますよね。

「良い自分」で居たいと思うほど 苦しい
こうあるべきだと ずっと信じてきた
大人になる度 間違えられなくて
甘えることなど もう忘れてた
どうしますか、あなたなら」/阿部真央 


それもね、2019年に大きく変わった部分でした。この曲のタイアップのお話をもらったのは、去年の春くらいで、ちょうどいろんな取材で「10周年いかがですか?」って訊かれたあとに思っていたこととリンクした作品だったんです。まず原作を読ませていただいたんですけど、この主人公・森若ちゃんはわりと最初のほう“私の生活はこれで完璧だ”と何度も自分自身に言い聞かせているような女の子で。

その完璧なルーティーンに縛られた生活の中、太陽くんという男の子に出逢ったことで、これまでのペースを崩されながらも、自由なほうに生きたい自分も出てきちゃたり。会社では「あんまり首を突っ込まなきゃいいのになぁ」と思いながらも、自分の本能や正義感がうずいて首を突っ込んでしまうというお話だったんですね。その主人公に私はすごく共感したんですよ。

カチッて日々の決めごとをして、それ以上考えないように制約を設けた方が楽なことってあるんですけど、本当にそれでいいのかな…って向き合う瞬間がやっぱりあって。完璧を目指すことは美しいけれど、そこにこだわりすぎちゃうとどこにも行けなくなる。冒険ができなくなる。私もそういうタイプの人間なので、それを変えたいと思って書いた曲ですね。だから、自分の曲ながら、たまに聴き返しても非常に励まされます。本当に<ダメな自分も愛せる>くらい命に自信を持ちたい。30年近く生きてきた私のコンプレックスみたいなものも反映されていますね。

― <ダメな自分を愛せる生き方>って、本当に難しいですよね。

難しい。だって、私たちは「ダメな自分を直しなさいね!」って教育されてきているから。「良いところを伸ばしなさいね」というより「できないことをできるようになりなさいね」って言われているから。だからすごく“ダメなところ”に目が向いちゃうんですよ。日本はとくにそうである気がする。それは良くないなって思っているんです。

― 真央さんは育児をなさっているからこそ、意識されることが多そうですね。

そう。本当に子どもを生んで余計にそう思う。あと、話が戻りますけど2曲目の「お前が求める私なんか全部壊してやる」は、自分の理想を押しつけすぎて本当の子どもの姿を見ていない親御さんに対する、お子さんの気持ちとかも当てはまると思うんですよね。教師に対しても。そう考えると、歌詞に書いていることは結構ガキっぽいのかも(笑)。でも、大人になっても見落としちゃいけない幼さっていうか。自分をもっと見てほしいし、作られた自分なんて壊してやるわ!という気持ちが、今の私に必要であり、表現者としてフォーカスすべき部分なのかなって思いますね。

― 5曲目「pharmacy」(読み:ファーマシー)は【薬局】という意味のタイトルですね。この曲はどのように生まれたのでしょうか。


これは「どうしますか、あなたなら」を提出するときに、もう1曲書いたものなんですよ。だから同じタイミングで、同じ作品からインスピレーションをもらった曲ですね。で「どうしますか、あなたなら」は“女の子(森若ちゃん)”目線、「pharmacy」のほうは“男の子(太陽くん)”目線で書きました。

誰にも愛されないなど 僕の前でまだ言うの?
どうせ好きだから 君が思うままにやればいいのさ
確かに踏み出す君を 僕だけは知ってるよ
傷ついた時はこの胸で強く抱き締めさせてよ

誰にも甘えず生きてきた それで良いと思っていた
でもその右手を 握り返したいと思ってしまった
確かに生きてた僕を 君だけは覚えててよ
傷ついたら その胸に強く抱きしめて欲しい
pharmacy」/阿部真央 


『これは経費で落ちません』という作品の中で、森若ちゃんは太陽くんに出逢って、徐々に徐々に恋愛感情が目覚めていくわけですが、どちらかというと自分の人生に向き合っている感じだったから「どうしますか、あなたなら」は、自身のことをメインに書いたんですね。でも太陽くんは最初から森若ちゃんのことが「好き好き好きー!」という感じだったので「pharmacy」はラブ要素が強いんです。歌詞としては<旅に出なよ魂 君の腕の中は pharmacy>というフレーズを最初に思いついたので、そこからタイトルをつけました。あとこれは私の妄想ですけど、森若ちゃんと太陽くんが順調に恋人として支え合っているぐらいの関係に成熟したときをイメージした曲でもあります(笑)。

― そして、6曲目「どうにもなっちゃいけない貴方とどうにかなりたい夜」や7曲目「今夜は眠るまで」は濃厚なラブソングですねぇ…!昨年、真央さんはインタビューで「この年齢で感じるリアルを大事にしたラブソングを書いていきたい」とおっしゃっていましたが、まさにそんな2曲ではないでしょうか。

そう。本当にそう思います。まぁ曲自体はめちゃくちゃフィクションなんですけどね(笑)。でも私、こんな気持ちがわかるようになったんだぁ…って思いましたね。たとえば「今夜は眠るまで」は<貴方は私の子供じゃないんだから>ってフレーズを一番最初に思いついて、メロディーと歌詞が出来ていったんですけど、このフレーズは、子どもを生んでないと出てこなかっただろうなって。

貴方は私の子供じゃないんだから
なんなら歳上なんだから
こんな事じゃ困るのだけど
はぐらかす笑顔が可愛くて 愛しいから弱っちゃって
また抱き寄せてしまうの
今夜は眠るまで」/阿部真央


実際に子どもがいるから「なんか貴方、私の子供みたいだね」って思う瞬間があるわけで。まぁ一般的にも、女性の方が早熟だと言われているじゃないですか。男性は子供のような心をいつまでも持っていて、ゆっくりゆっくり大人になるって。すると、たしかに私が恋をしてきた男性は子どもっぽかったなと。うちの子は男の子なので尚更、感じますね。恋人に対して「うちの子とかわらないな」と(笑)。それはこの年になったからこそ、いろんなバックグラウンドがあるからからこその感覚なんだなって、なんか今思いました。

自由な貴方が好きだけど
たまにはここにも帰ってきて欲しい
明け方5時 玄関のドアを見る癖はもう抜けなくなった
今夜は眠るまで」/阿部真央


― この歌はところどころ、描かれているシーンがすごく具体的じゃないですか。これはどうやってイメージを膨らませたのでしょうか。

そこでしょ~? 最初に書いた<貴方は私の子供じゃないんだから>という1行から逆算していった感じだったかなぁ。まず、私は歳上が好きだから<なんなら歳上なんだから>と。で、その歳上の彼は私が「子どもだなぁ」と思うような言動をしていると。じゃあ今までの経験上、その言動って何?と。たとえば“連絡をしない”とか“言ってもわかんない”とか。じゃあそれはどうして?と、自問自答ですね。“ご飯はいらないってあんなに言っていたのに”…いや、これじゃオカンすぎる!とかも思ったり(笑)。

書きたいシチュエーションは山のようにあったんですよ。そこからどれを活かすか、ラブバラード向きのものを取捨選択をしていきました。朝、待てど暮らせど帰ってこない。私だったら、何時まで帰ってこなかったら「帰ってこない」って思うかな?…5時だな、とかそういう感じですね。フィクションとはいえ、自分のなかの経験を掘って掘って掘って引き出す、みたいな。だから、子どもがいることを含め、あらゆる経験が生きているんだろうなって思いますね。

― フィクションのなかのリアルですね。ちなみにラブソングにおける<貴方>像って、真央さんが好きになりがちなタイプだったりしますか?

やっぱりそうですね。まず歳上のひとが好きだし。かなりファザコンなので、10代の頃から「50代までイケるな」とか思っていました(笑)。まぁお付き合いした方、みんながみんなおじさんだったわけではないんですけどね。あと、フィクションに関しては、自分が男のひとに言われたいことを、男性目線で歌うっていうパターンもあるんですよ。そういうときはすっごい優しいひとを書きますね(笑)。

天使はいたんだ
僕を選んで舞い降りたの
羽を濡らして 涙を拭う場所を探して
腫れた瞼にキスしたいよ こっちへおいで
天使はいるんだ、今僕の腕の中
天使はいたんだ」/阿部真央 


たとえば、過去の『貴方を好きな私』ってアルバムに「天使はいたんだ」って曲があるんですけど、その歌詞はまさにそんな感じ。私がすごく複雑だから。当時は、恋愛をすると今よりもっと複雑だったんですよ。でも主人公の<僕>は、そんな私も諦めないくらい、想いに気合の入った男性(笑)。そして私の曲を聴いている女の子は、私のファンだから大体同じことを言われたいんですよ。ちょっと一癖ある女の子が多いから(笑)。だからやっぱり「天使はいたんだ」って曲は人気がありますね。そういう主人公の作り方もありますから、なんかいかに歌詞の世界が自由かわかりますよね。

【インタビュー後編に続く!】

(取材・文 / 井出美緒)

◆9thアルバム『まだいけます』
2020年1月22日発売
初回限定盤 PCCA-04885 ¥3,182+税
通常盤 PCCA-04886 ¥2,727+税

<収録曲>
01. dark side
02. お前が求める私なんか全部壊してやる
03. まだいけます
04. どうしますか、あなたなら
05. pharmacy
06. どうにもなっちゃいけない貴方とどうにかなりたい夜
07. 今夜は眠るまで
08. テンション
09. 答
10. 君の唄(キミノウタ)
11. おもしろい彼氏