ひらがなの<わたし>っていうのは、子どもだ!と思って。

「僕は君が好き」

「私は貴方が好き」

「俺はお前が好き」

「僕はあなたが好き」

「わたしはあなたが好き」

 英語にすれば「I LOVE YOU」で済むのに、日本語だといくつもパターンが思い浮かぶこの言葉。ただ「I」と「YOU」の表記を変えるだけでも、だいぶ印象が違いますよね。たとえば「僕は君が好き」と綴ると、中性的であり、男性目線でも女性目線でも捉えやすい気がします。また、相手の表記が「あなた」になると年上の方や両親を対象にしても違和感がありません。さらに「貴方」だと、より“敬意”が含まれるのではないでしょうか。

 「わたしはあなたが好き」なら、どこか柔らかい印象。「俺はお前が好き」なら、主人公の男らしさが強調される。このように、表記ひとつで伝わるものが変わってくるからこそ、アーティストたちは“歌詞”を書く際、人称にもこだわりを持つのです。さて、今日のうたコラムでは【前編】【中編】【後編】に分け、過去のインタビューをもとに『人称にまつわるこだわり』の回答をご紹介いたします!今回は【中編】をお届け…!

<I Don't Like Mondays.・YU>
(3rd Singleの収録曲「TONIGHT」「LIFE」「SING (electric version)」は、それぞれ“あなた”の表記の仕方が異なる) これは雰囲気なんですけど、「TONIGHT」は曲が明るくてアップテンポなので、漢字の<貴方>が耐えうるというか、逆にロマンチックだと思ったんです。

でも「LIFE」はどちらかというと曲が壮大でお堅いから、ここで<貴方>だと重すぎるかなぁと。聴きながら歌詞を読んでもらったときにスッと入ってくる表記にしたくて<あなた>とひらがなにしました。そういう表記の仕方をすごく考えながら言葉を選んでいますね。文字の並びが綺麗じゃないと僕の美的センスにそぐわないんです(笑)。


<MACO>
ちょっと前まで、<君>は“まだ実っていない片想い”のときに使って、自分の恋人とか本当に大切な相手には<あなた>を使う、とか決めていましたね。でもそういえば最近はその縛りがなくなってきたような気がします。

逆に、今はなんか<あなた>のほうが、まだよそよそしい関係に感じます。恋人にしては重たい呼び方というか。もしかしたら、付き合って大切なひとほど、距離感が近くて<君>ってサラッと言えるような曲が増えているのかもしれないですね。


<go!go!vanillas・牧達弥>
(楽曲「バイリンガール」は、相手をAメロでは<あなた>と、サビでは<お前>と呼んでいる女性目線のラブソング) その表記の違いも重要で、僕は“普遍性”がある音楽やメッセージ、言葉の使い方を大切にするんですけど、今のひとたちに響かなきゃ意味がないから、うまく混ぜ合わせようと思ったんです。

現代は、どんどん女性が主張できるようになってきたというか、立場としても強くなってきたんじゃないかなぁと。(中略) たとえば、フラれたりしたときもメソメソするんじゃなくて「あー!このやろー!」ってイラつくと思うんですよ。それをまたガールズトークにぶつけたり、そういうのが面白いし、めっちゃロックやなぁ!って感じます。

だから、悲しみを自分の中に閉じ込めて、独りで苦しむんじゃなくて、仲間内でもいいからちゃんとそれを1回吐き出して、前に進んでいる感覚を表現したかったんです。<あなた>から<お前>に変わっていくところは、自分でも歌っていて痛快だったりします。


<赤い公園・津野米咲>
歌詞を眺めていて思ったんですけど、2曲(「闇夜に提灯」と「放蕩」)とも間違いなく私は“女性”の気持ちで書いているんですよ。津野米咲として書いているんです。でも、歌の主人公を“男性”の<僕>にしたほうが、素直に書ける部分がある。より実際の自分の女性としての気持ちを落とし込めるような気がするんです。

…シャイだからですかね(笑)。あと異性の気持ちはわからないから。男性になったことがないからこそ、身勝手に自由に書けるのかもしれないです。(中略) でも「放蕩」は、女性の気持ちを<僕>として書いているんですけど、実際に曲の主人公を女性にして、男性へ向けて歌ったらだいぶ意味合いが違ってきますよね。浮気しても良いよ…みたいな。だから“男性目線”っていうのは、なるべくしてなる形なんだろうなぁと思います。


<ハジ→>
(<お前>と<君>の使い分けについて) 歌の世界観とキャラ設定によるけど、たとえば「for YOU。」で<僕についてこい>だと、ちょっとナヨナヨした感じになりますよね(笑)。だから絶対にここは<俺>なんですよ。とくにこの歌は“俺”と“お前”って言い合える二人の絆を意識して書いたんです。でも女子は結構「男性にお前って言われたくない」とか「何様だ!」って思う子も多いみたいで。

普段、ケンカしたときくらいしか“お前”なんて言わないもんね。だからこの歌にも「“お前”って言葉がイヤだ」という意見をかなりいただいて、たしかになぁ…って考えました。でも俺は「for YOU。」をこのままの形で愛しているし、それなら<お前>でイヤな気持ちになるひとにも寄り添いたいと思って「君と。」って歌を書きました。フレーズとかも<愛してる>じゃなくて<愛させてくれよ>って柔らかい言葉を選んだりして。


<吉澤嘉代子>
今までは大体、ひらがなで<わたし>にしていたんですよ。ちょっとレトロな曲だと漢字にすることもあったんですけど。でも実は、三枚目のアルバムを作ったあとからは全て漢字の<私>なんです。決めたんです。自分のなかで。

ひらがなの<わたし>っていうのは、子どもだ!と思って。これからは大人として漢字でいこうって。初めて言いましたけど、これは覚悟の<私>なんです。だから「残ってる」でも漢字にしているんですよね。やっぱり文字の表記は好きだなぁと思います。

【後編に続く!】
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