作詞家をはじめ、音楽プロデューサー、ミュージシャン、詩人、などなど【作詞】を行う“言葉の達人”たちが独自の作詞論・作詞術を語るこのコーナー。歌詞愛好家のあなたも、プロの作詞家を目指すあなたも、是非ご堪能あれ! 今回は、株式会社MAGES.代表取締役会長であり、数々のアーティストへの楽曲提供とプロデュースをはじめ、様々な分野で活躍をしている「志倉千代丸」さんをゲストにお迎え…!
志倉千代丸
代表作
オルゴールとピアノと」/水樹奈々 (※ゲーム『MemoriesOff 2nd』ED主題歌)
嘆きノ森」/彩音 (※ゲーム『ひぐらしのなく頃に祭』OP主題歌)
Hacking to the Gate」/いとうかなこ
(※TVアニメ『STEINS;GATE』OP主題歌)
Open your eyes」/亜咲花 (※TVアニメ『Occultic;Nine』ED主題歌)
純情スペクトラ」/Zwei (※TVアニメ『ROBOTICS;NOTES』OP主題歌)
いつもこの場所で」/彩音
(※劇場アニメ『劇場版 STEINS;GATE 負荷領域のデジャヴ』ED主題歌)
F.D.D.」/いとうかなこ (※TVアニメ『CHAOS;HEAD』OP主題歌)
ミス・ラビット」/エラバレシ
(※TVアニメ『タイムトラベル少女~マリ・ワカと8人の科学者たち~』ED主題歌)
永遠ラブリン(∂∇<)/」/小倉優子
ニーハイ・エゴイスト」/アフィリア・サーガ
作詞論
あえてその作品の代表的なキーワードを集めない
アニメやゲームなど作品タイアップが多い中「あえてその作品の代表的なキーワードを集めない」というひねくれた根性ですかねぇ…。作品の裏側に隠された秘密の全てを一旦自分の中で咀嚼し、詞の中の文節全てが物語の伏線になっている形がベストだと思っています。僕の歌詞は、最初は何を伝えたい歌なのか分からないものが多いのですが、作品を観てもらうほどに隠された伏線が回収されていくという構図は、TVアニメのように毎週同じ曲が流れるような場合にとても有効的で、物語が進むにつれ楽曲もまたシナリオの一部になっていく感覚がタイアップ楽曲の理想なんじゃないか?と、模索中です。
[ 志倉千代丸さんに伺いました ]
  • Q1. 歌詞を書くことになった、最初のきっかけを教えてください。

    埼玉だったせいか(笑)、優等生かヤンキーか?という二択だった学生時代。どっちつかずな上、そんな偏見に充ち満ちていた僕の瞳に、もう一つの選択肢としてバンドマンという奇跡のような閃きが、まるでモーゼの海開きのようにハッキリとその道が見えたんです。そう、あれは紛れもない人生の分岐点でした。ただしこの分岐の通過には事前に二つのフラグ確保の必要性が在りました。しかしながらその条件はまたもや奇跡のごとく既に満たしていたんです。そのフラグとは「ピアノ」と「コンピュータ」。我が家にはアップライトピアノがあり、独学ながら学び、日頃から音楽に親しんでいました。もう一つのフラグは小6の時に親から買ってもらったコンピュータでプログラミングを学んでいた事。これらの過去事象が存在し、バタフライ効果のごとく今があるんだと思います。

    話を先ほどの分岐点のくだりに戻しますが、この二つのフラグがバンド活動に大きく貢献する事となったのです。当時はまだコンピュータで作られた音の塊と、実際のバンドサウンドを融合させたグループは少なかったんです。僕は作曲とコンピュータへの打ち込みに明け暮れ、これらが合体した時に奏でられるバンドだけでは叶えられなかった壮大なる世界を感じ、その可能性を夢見ていました。が、作詞をするメンバーが居ない…。そうなったらどうでしょう?もう生き急いでいた僕にとって、自分で書くという選択肢しかありませんでした。こうして僕は作詞・作曲・編曲を担当する事となり、以後全てのオリジナル楽曲をこの流れで作り込んでいきました。ただ、この時代の詞は酷いもんです。詞の内容よりも音の方にプライオリティが偏ってしまい「歌詞なんてノリっしょ!なんか歌っていればイイっしょ!」くらいにしか考えておらず…今は封印しています(笑)

  • Q2. 歌詞を書く時には、どんなところからインスピレーションを得ることが多いですか?

    求められている状況にも寄りますが、まずはメロディにはめずに、表層で感じた事と深層で感じた事の両方を、脈絡もなくとにかく書き連ねます。作詞に向けたプロットのようなものですね。だいたい作詞の3倍くらいの文字の羅列になるんですが、僕はこれを「リリックノート」と呼んでいます。このノートにはタイアップ作品を象徴するダイレクトなキーワードも多く、ここから前述した通り、ひねくれた表現や言い回しを模索していきます。言葉の大海原から、まずはその楽曲に合いそうな、絡めそうで意味深な言葉をチョイスして、海を池くらいのサイズにして、そこから一気に本格的に音符に言葉を乗せていく行程に入ります。映画はもちろん、本も沢山読むので気付かないうちに影響を受けていたりするんでしょうが、インスピレーションというよりは、積み上げ型?なんだと思います。あ!でも夢の中で作詞や作曲をしてそれを採用した例も多くあるんですよ!それはまた別の機会に!

  • Q3. 普段、どのように歌詞を構成していきますか?

    リリックノートの中から、Aメロでもサビでもどこでも良いので、まずは音のハマリの良い順で言葉をはめていきます。だいたいはまった所で、今度は言葉のトレードが行われます。このトレードが意外と肝心な作業で、こうする事で強い言葉や伝えたい核心をサビに移動させていきます。トレードした際にどうしてもはまりが悪くなってしまった場合は、同じような意味を持つ言葉を類語辞典などで調べ、これらのトライ&エラーで一旦完成させ、2日ほど寝かせます。最後に出来るだけ客観的な目線で修正を加えつつ、締切まで自問自答を繰り返します。とにかく往生際が悪いんです(笑)。

  • Q4. お気に入りの仕事道具や、作詞の際に必要な環境、場所などがあれば教えてください。

    背もたれ付きのベッドとPC。あとはデジタルではなく紙で出来た、いくつかの辞典です。作詞はもちろんシナリオ執筆などもするので必須なんです。今の時代とてもユニークな発想から作られた辞典も多く、逆引きのように言葉を探し、突き当たった言葉をそのまま使うのではなく、そこからさらにヒントを得て一手間考えて落とし込んで行く感じでしょうか。

  • Q5. ご自身が手掛けた歌詞に関して、今だから言える裏話、エピソードはありますか?

    大抵の場合は作詞・作曲の両方を担当させてもらう事が多いのですが、時々やはり作詞のみという事もあり、このパターンだとちょっと苦労が増えます。まずはメロディの解釈から始まるんですが、これは音符の中に作曲者が意図したであろう句読点を探していくような行程です。例えば作曲者がつんく♂さんのような先輩の場合、もちろんいつもと同様に気を使うんですが、逆につんく♂さんほどの巨匠だと沢山の参考楽曲がある分、メロディの中にある句読点も読み解きやすいハズなんですが……意外と赤線(変更希望)付きで戻ってきたりします。

    正直「えー!そこはOKでしょー!!!!」みたいな事もあるんですが、そこが共同制作の面白さ。納得してもらえるまでのチャレンジが楽しかったりもします。ちなみにそんなつんく♂さんの口グセは「ちょいダサ。忘れたらあかんで?」です(笑)。ディスカッション形式で作品打ち合わせをしていると、もの凄い早さで言葉が出てくるんですよ。そこら中にある、あらゆるものからインスピレーションを受けて詞的な表現に変換出来るみたいなんですが、つんく♂さんのあのチカラは凄いですね。僕とは脳内の構造はもちろん、プロセスも全く違うんです。

  • Q6. 自分が思う「良い歌詞」とは?

    つきなみですが、やっぱり「長く愛されるもの」なんだと思います。長く愛されるという事は、より多くの人と心の波長が合うという事ですよね?ピンポイントな層を狙いがちな僕にとって、永遠のテーマでもあり、チャンスがあれば僕も出来る限りチャレンジしていきたいと思っていますが、恐らく明確な答えは無いんだと思います。音楽は、自分の為に作るものではなく、誰かの為に作るもの。思考が停止するまで、この難解なテーマに取り組んで行きたいと思います。肩の力を抜いて。

  • Q7. 「やられた!」と思わされた1曲を教えてください。

    やられた!というより「流石すぎる!」に近いのですが、ピンクレディーさんの「サウスポー」ですかねぇ。楽曲の構成の中で、要所要所にある強気な面、弱気な面、伝わってくる緊迫感。構成と歌詞がリンクしているのはもちろん、言葉のハマリも流石の一言です。まるでミュージカルのようにドラマが見えてくる様は、楽曲という枠を越えた何か別ジャンルの作品にも思えます。

  • Q8. 歌詞を書く際、よく使う言葉、
         または、使わないように意識している言葉はありますか?

    よく使う言葉は「時」と「空」です。この世で起こりえる全ての物語には、事実として時間と空間が関係しているので、ついでにこれもよく使う「光」を加える事によって僕の歌詞は相対性理論における因果と切っても切れない関係にあるのかも知れません。でもその調和だけではつまらないと心のどこかで感じているようで、最近はアインシュタインに勝負を挑むべく相対性理論との不調和を意識的に描く機会が増えて来ているような気がします。

  • Q9. 言葉を届けるために、アーティスト、クリエイターに求められる資質とは?

    僕の中では、アーティストとクリエイターというのは微妙にニュアンスが違っていて、前者は自分の心を素直に表現するもの。後者は誰かの為に届けたい何かを模索するもの。どちらも聞き手が居てくれて初めて成立するわけですが、両者の見ている景色はやっぱり少し違う気がします。僕はアーティストを夢見てこの世界に入り、途中で諦めてクリエイターになりました。こう聞くとクリエイターの方が下に思われるかも知れませんが、どちらもプロである事には変わりありませんし、僕が今、生きて居る世界線には辿り着くべくしてそうなったと信じています。人生は気付かないうちに次々と分岐しています。後悔しないようにあえてチャレンジの世界線を選択する事が何よりベストだと思います。

  • Q10. 歌詞を書きたいと思っている人へのアドバイスをお願いします。

    書きたいと本気で思っている人は、恐らくもう何かしら書いていますよね?まだ書いた事がない人が作詞家を目指しているハズもなく。今はネットを使って様々な方法で発表出来る時代です。書き留めたその歌詞が、仮にありきたりな言葉の羅列であっても全然問題なし。一風変わった言葉なんかよりも、出来るだけ日常的に使われる言葉でいい。なんなら口語体だけの歌詞だって構わない。逆にその方が「イマドキ」かも知れません。とは言え僕も作詞家の端くれ。これで生活させてもらっているプロの1人です。最後は作詞家らしく詞的な言い回しでエールを送りたいと思います───

    「きっとやれるから!適度に頑張れー!」

    まぁプロなんてこんなもんですわ(笑)。

歌 手
冒険制作委員会
タイトル
ぼくの大冒険
これは『電人☆ゲッチャ!』というゲームをテーマにしたネット番組のEDソングです。父親を亡くしてしまった子供の視点で、本当は自分が泣いてしまいたいのに最後の最後まで強がっている、ちょっぴり悲しい歌です。曲調が極端に明るいのも強がりの現れ。作詞者のクレジットは、あえてオールスタッフと視聴者にしました。
株式会社MAGES.代表取締役会長。
ゲーム・アニメ・小説等マルチに展開する「CHAOS;HEAD」「STEINS;GATE」「ROBOTICS;NOTES」「CHAOS;CHILD」「B-PROJECT」などの企画・原作を手掛ける他、自身初の小説「オカルティック・ナイン」を執筆。さらにテーマレストラン「アフィリア魔法学院グループ」、アイドル育成型エンターテイメントカフェ「AKIHABARAバックステ↔ジpass」のプロデュースを務め、数々のアーティストへの楽曲提供とプロデュースも行う様々な分野で最先端のデジタルコンテンツを手掛けるマルチクリエイター。
INFORMATION
鈴木このみ
真理の鏡、剣乃ように
2019年5月8日発売
※TVアニメ『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』エンディングテーマ
アーティスト盤
USSW-166 ¥1,800(税別)
アニメ盤
USSW-167 ¥1,300(税別)

亜咲花
この世の果てで恋を唄う少女
2019年4月24日発売
※TVアニメ『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』オープニングテーマ
DVD付盤
USSW-168 ¥1,900(税別)
YU-NO盤
USSW-169 ¥1,500(税別)