言葉の達人

SAKUSHIKA

 達人たちは1曲の詞を書くために、言葉を巧みに操り、その時代を象徴する言葉を探した。
その言葉は多くの老若男女の心をつかんで離さず、その歌は大ヒットした。
「孤独がつらく感じるとき」、「愛することがよくわからなくなったとき」いつも、
勇気と力を与えてくれた‥、作詞家は言葉の魔術師である。
そんなプロの「作詞家」の皆さんをゲストにお招きして、毎月、紹介していくこのコーナー、
今回のゲストは、「飛んでインスタンブール」庄野真代や、「Yes,My,Love」矢沢永吉の作詞で、お馴染みの「ちあき哲也」さんをお迎えいたしました。
矢沢永吉から美空ひばりまで作品を提供する守備範囲の広い「言葉の達人」から
美味しいお話をお聞きいたしました。

ちあき哲也

代表作

飛んでインスタンブールモンテカルロで乾杯(庄野真代)、
Yes,My,Love・ラハイナ(矢沢永吉)、ペガサスの朝(五十嵐浩晃)、
みれん酒(美空ひばり)、ヨイショッ!(近藤真彦)、
仮面舞踏会(少年隊)、薔薇のオルゴール(前川清)、
今ひとたびの〜Vaya Con Dios〜(都はるみ)、
冬のひまわり(チェウニ)など多数。

作詞論

作詞論や哲学などと呼べる立派な背骨はありませんが、“○は○である”といったイモ哲学風なものはいつも耳障りでない程度に中心に据えるように心がける癖はついています。その時の自分の感性や感覚、価値観にどの表現が一番フィットするか(実感に近いか)、言葉を探りつづけます。同時に“今”という空気感から逸れていないか(今その歌を産み出す意味が時代の中にきちんとあるか)を内診し、見極めつづけるのは勿論です。
もうひとつは書き始める前の「入口」です。この入口を間違えて入り込んでしまうと、 底なしのとんでもない目に遭いますから。この辺はぼくの場合、かなり動物的嗅覚を総動員するので、別の意味で緊張します。入口が正しいか間違えたかで、人の心に届く歌か何も残せない歌かにハッキリ分岐してしまいますから。この時点にかなり時間を割くことが多く、つまり周囲からは何もしないで遊んでいるように映る、損なステージです。入口から奥へ奥へと手探りをしながら、今正しいか間違いかをジャッジするのも自分の”感じ”しかないという、思えばかなりきわどい道中ですね。

ちあきさんに伺いました。
Q:
作詞家になったきっかけは?
A:
思えば書き始めた頃の宇崎竜童さんとの出遭いが大きかったような気がします。
後、当時の家の中の空気。父は官吏でしたが1年中小説を書いていました。その 空気が家中に充満・伝染していて、「書く」ことが当たり前の家風でした。
Q:
プロ、初作品について
A:
学生時代に書いた松崎しげるさんの「黄色い麦わら帽子」がプロとしてのデビュー曲と言えるかと思います。それはチョコレートのテレビCMでもありました。今のようにCMタイアップが当然ではなかった時代に、ある種の洗礼を受けた訳ですね。
Q:
作品を提供したいアーティスト
A:
どちらかと言うと今ジミな存在になっていらっしゃるアーティストの中に星の数ほどいらっしゃる。ちあきなおみさん、伊東ゆかりさん、・・羅列し切れません。言えることはどなたも本来の意味の(絶叫型ではない)“歌唱力”を持っていらっしゃる方々。
Q:
あまり売れなかったが、私の好きなこの歌
A:
石井明美さんの「JOY」。音の仕上がりもヒット曲の王道を行っていた割に、売上げはもうひとつでした。筒美さんもぼくも未だにこの歌が大好きです。誰かがベストなタイミングでカヴァーしてくださるのを楽しみにしています。
Q:
ロックから演歌まで、
幅広いアーティストに詞を提供するのに苦労する事は?
A:
差は何もありません。どのジャンルに向った時も、ぼくにはあくまで「日本の歌づくり」でしかありませんから。苦労はどの制作にもつきまといます。でも、ひとつひとつ、通過した後に、そんな苦労など比ではない、創作のドでかい喜びがやって来ます。
Q:
プロの作詞家になりたい人へのアドバイスを
A:
ご自分の言葉、ご自分の表現を何よりも大切に。“時流”のうわべに目が眩んで、捕われてはいけません。他の方の言葉に影響され過ぎるのも怖いことです。Be Yourself。アンテナの煤だけは常に掃って、後はご自分を信じてくださいす。
歌詞を見る YES MY LOVE愛はいつも 矢沢永吉

矢沢永吉さんとのレコーディング、秘話など

双子座の真骨頂。ぼくがもうひとりのぼくを楽しむ時間です。当人は矢沢さんが歌っていらっしゃるオトコ像をかけ離れて、ヤワ〜に生きていますので、生き損なったもうひとりの自分を、思い切り楽しんで書けます。それを彼があのセク シーな声と解釈で、想像の数百倍も膨らませて「形」にしてくださるのですか ら、こんな恵まれた作家もそうはいない、と感謝あるのみです。
秘話ですか。・・やはりワーナーの1作めの「PM9」です。願ったことでもないのに、当時ぼくの夢中だったリトル・フィート、ドゥ−ビー・ブラザーズ、アンドリュー・ゴールド、ニコレッタ・ラーソン、そしてTOTOのスティーヴ・ルカサーまでが、矢沢さんの熱意とカリスマ性に惹かれて、フルに録音に関係してくれたことです。自分の書いた言葉の狭間でスティーヴのギターが思い切り 泣いてくれたり、ニコレッタはぼくの日本語を延々とバック・コーラスしてくれたり、・・もう身震いしました。今までで一番ゴージャスな気分になれた瞬間です。他のアルバムではロバータ・フラックがぼくの怪しげな英語をそのまま歌ってくれたり、・・矢沢さんとの制作はぼくの世界を確実に広げてくれました。彼のように。 ぼくもカッコよく作家の道を全うしなくては、と自戒しています。(ちあき哲也 談)

PROFILE

横浜市立関東学院の学生時代に作詞した「黄色い麦わら帽子」(松崎しげる)がヒット。
その後、いとのりかずこ「女の旅路」のデビューに関わり、作曲家の筒美京平氏と知り合い
1979年「飛んでインスタンブール」、「モンテカルロで乾杯」(庄野真代)が大ヒット。
また、矢沢永吉の制作にも関わり数多くの作品を手がける。

[CDリリース情報]

「冬のひまわり」

◆2003.9.25/TECA-11602/¥1,048(税抜)/マキシシングル
◆2003.9.25/TEDA-10602/¥1,048(税抜)/CDシングル
◆2003.9.25/TESA-602/¥1,048(税抜)/シングルカセット
通算7枚目のシングル。チェウニの「歌の世界観」をベースに新しい切り口のオリジナル作品。
01:冬のひまわり 作詞:ちあき哲也/作曲:杉本眞人/編曲:萩田光雄
02:青空〜幸せの隣りへ〜 作詞:ちあき哲也/作曲:杉本眞人/編曲:萩田光雄

チェウニの「冬のひまわり」が今年書かせていただいた中で一番納得し、気に 入っている作品です。今年少しサボり過ぎたので、来年は頑張るぞ!と自分に気合を入れているところです。
[チュウニーのオフシャルページ]

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