プロテストソング

鴨田潤

プロテストソング

作詞:鴨田潤
作曲:鴨田潤
発売日:2011/03/09
この曲の表示回数:3,349回

プロテストソング
三年ぶりに実家に帰るも
当然、居る場所も無くて
俺達兄弟の部屋だった所は
今では親父の部屋になってる

俺達、子供が
この家を出たことで
ようやく手に入れた念願の書斎で
いったい何をしてるんだろうか

三十年ぶりに親父が手に入れた自分の部屋には
押入れにしまっていた若い時の物がちらほらと
表に出てきて青春がタイムスリップしているから
冷やかし半分の好奇心であれこれ物色していると
色褪せたカセットテープが見つかる
ラベルにはボールペンで昔の曲と書いてあったから
若い頃何を聴いていたのか少し気になって
その隣に置いていたラジカセで再生してみた

ダビングした昭和のポップス、洋楽のロックもしくは
何かのラジオのエアチェックが入ってるのかと思いきや
線の細い生々しいフォークギターの音が鳴り出して
それに乗せてまさかの親父の歌声が聴こえて来た

親父の歌声は
今よりもずっと若くて
だからこその青さが
俺の様にダサかった

言葉の選び、言い回しからひょっとして察するに
若い頃に作ったと思われるオリジナルソングで
俺の知っている親父からは考えられないが
なかなかやる堂々としたプロテストソングだった
その時代の流れに沿って作られたのだろう
その当時歌っている姿も想像出来て
何となく鉛筆で歌詞を書きとめながら
メロディーをなぞって口ずさんでみた

ばかばかしいのは
気づいているのに
まだばかのふりしていて
やりすごそうとしている

可愛い顔だが
悲しい目をして
肩から崩れて
そのまま倒れた

誰かが怯えて
誰かを騙して
誰かを殺して
誰かが得した

本当は誰が殺して
本当は誰が得した
ほんのわずかな時でも
本当の事を伝えよ

愛しいあなたを
急いで抱きしめ
命の終わりを
体で感じた

本当は誰が殺して
本当は誰が得した
ほんのわずかな時でも
本当の事を伝えよ

くちづけしたいが
今では抱けない

笑えた話も
今では出来ない

ばかばかしいのは
気づいているのに
まだばかのふりしていて
やりすごそうとしている

夜も過ぎ、外から帰ってきたおれの親父は
台所でテレビを見ながら酒を飲んでいた
久々に会う事をやはり、補いたくて
ぎこちない距離感の挨拶で顔を見せた

軽く椅子に腰掛けて、がまんして酒に付きあうと
酔っ払って声のでかくなった親父と打ち解けてきて
何となく流れから、いけそうだったので
親父の部屋にあったカセットテープについて聞いてみた

なんとまあ驚いた事に、録音されたあの歌は
人前で一度たりとも歌った事が無いらしく
ましてや録音した頃には学生運動も反戦ソングも
下火になり忘れられかけていた頃らしくて

その当時、生活のため懸命に働いていた親父は
しかし、同い年のやつらのやっている事が気になって
ニュースやラジオでその動きを知らされながら
羨ましくも疎ましくも思っていたらしかった

結婚して一年後、おふくろが妊娠したので
俺が生まれたら今よりももっと忙しくなるだろうから
今のうちに何かしてみたかった事をやっておこうと
電気屋へ行って一番安いラジカセを買ったらしい

もともと歌詞はその当時、反戦歌に憧れ、見よう見まねで
作ってあって、ギターもほんの少しだがコードが弾けたので
毎日少しづつ寝る時間を削って一週間かけて
曲を作り、録音して残したらしい

親父の歌声は
今よりもずっと若くて
だからこその青さが
俺の様にダサかった

俺達、子供が
この家を出たことで
ようやく手に入れた念願の書斎で
親父は今も生きていた

親父の話にへえ~、と相槌を打ちながら
酒の勢いもあり「でもあれなかなか良かった」と言い切ると
親父は笑いながら安心した様に席を立ち
食器を流しに置いて「そうか」と喜んだ後

照れなのかなんなのか少し間をあけて
「でもあれ、あの曲、キスとか抱くとか歌っているが
詞を書いたあの頃、当時、実はまだ、童貞だった」と
つけ加えて親父は部屋に戻って行った

朝早く親父もおふくろも寝ている間に
申し訳ないが挨拶もせずに家を出た
曇り空だがこれから晴れそうな天気を見て
息を吸い昨日を受け入れて始まった

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