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サザンオールスターズ ライヴレポート

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【サザンオールスターズ ライヴレポート】 『サザンオールスターズ 特別ライブ 2020 「Keep Smilin' ~皆さん、 ありがとうございます!!~」』 2020年6月25日 at 横浜アリーナ

2020年06月25日@横浜アリーナ

撮影:岸田哲平/取材:千々和香苗

2020.06.29

サザンオールスターズのデビュー42周年記念日である2020年6月25日、ライヴという他の何とも替えの利かない時間が世界中のファンに届けられた。横浜アリーナで開催されたバンド史上初の無観客リモートライヴ『サザンオールスターズ 特別ライブ 2020「Keep Smilin' ~皆さん、ありがとうございます!!~」』は、そのタイトル通りサザンがファンやライヴスタッフをはじめ、医療関係者などコロナ禍の中で日々尽力する全ての人への感謝を表して行なったもの。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、ライヴやイベントが中止・延期となる中、サザンが新たなかたちで立ち上がった歴史的瞬間だ。

当然のように誰もいない客席、しかも普段ならライヴに夢中で視野に入らないスタッフが丸見えで、最初は現状を改めて突きつけられたような寂しい気持ちにもなったが、5人がステージを去る頃にはこのガラガラの横浜アリーナがむしろ清々しく感じられた。

幕開けは「YOU」。《悲しいことも愛に変わるように》という一節を聴いてちょっと元気つけられるあたりから、すでにこのライヴが特別なものであることを実感した。MCで“スタンドー! アリーナー! センター! 画面越しの皆様ー!”と呼び掛けることも異様な光景だったが、何よりも驚いたのは2曲目の「ミス・ブランニュー・デイ(MISS BRAND-NEW DAY)」の演出だ。真赤に染まる横浜アリーナを天井、側面、正面とさまざまな角度から映し出し、引きでステージ全体を映したかと思えば、移動式カメラでグッとメンバーに迫っていく躍動感。会場いっぱいに広がるレーザーと、客席に落とした何本ものピンスポットが交差し、その全てを原 由子(Key&Vo)が鳴らすイントロが操っているような空間で、無観客であることをひとつのショーとしたこの日ならではの眺めだった。そんな豪華な演出の中でどっしりと鳴り響くサザンの音楽と、ライヴ特有の迫力も伝わってくる。

「Big Star Blues(ビッグスターの悲劇)」「フリフリ '65」とロックナンバーを立て続けに披露し、「海」「夕陽に別れを告げて〜メリーゴーランド」「シャ・ラ・ラ」の流れには日が暮れていく様子や季節の巡りをゆったりと感じる。滑らかに、時折メリハリをつけながら気分を上げていくセットリストも素晴らしい。この日は桑田がところどころで歌詞を変えて“ご苦労さま”“頑張っていこう”というメッセージを届けてくれたが、そもそも「YOU」で前述した通り、「シャ・ラ・ラ」の《Let me try to be back to this place any day》や、「東京VICTORY」の《みんな頑張って》をはじめ、歌詞を変えなくとも今までにない刺さり方をする言葉の数々に感動した。音楽は時にかたちを変え、いくつもの意味を重ねて心に宿るのだと思う。

突如シャンデリアが降り、ミラーボールを光らせ、ダンサーを迎えて始まったのは“サザン劇場”とも言えるゴージャスな「天井棧敷の怪人」「愛と欲望の日々」。そして、「Bye Bye My Love(U are the one)」からの後半戦も目まぐるしく、ハンドマイクでじっくり聴かせた「真夏の果実」では客席に置かれたオレンジ色のライトと、青に染まったステージがまるでひとつの景色のようで脳裏に焼きつく。会場の中心に聖火台を置き、延期となった東京オリンピックを思わせる演出と、メンバーとスタッフが掲げた握り拳が印象的だった「東京VICTORY」のパフォーマンスも特筆すべきところだろう。

そして、「匂艶(にじいろ) THE NIGHT CLUB」から終盤に掛けてはこの日一番の高揚感を掻き立てていく。活き活きと歌い上げた「エロティカ・セブン EROTICA SEVEN」、アマビエが乗り、“疫病退散!!”と書かれたカツラを被ってコミカルに披露した「マンピーのG★SPOT」、“我々の42年前のデビュー曲を謹んでお聴きください”と前振りしつつ、「勝手にシンドバッド」ではダンサーが客席で踊り、お祭りさながらのバカ騒ぎ! このご時世で積もりに積もった不安を一気にひっくり返したような、涙ぐむほどの痛快さがあった。

今回の配信ライヴはコロナ禍の中で行なわれたものであり、今後の音楽業界、エンタメ業界に大きな影響を与えたことは大前提にあるわけだが、その結びつくもの全てが取っ払われ、想定視聴50万人以上にもなる人々がただただ音楽の力を感じた時間だったと思う。サザンからもらった心強いエール、遊び心満載のパフォーマンス、おかしくて笑ってしまったひと幕や、この数カ月で忘れてしまっていた“こんな世の中でも捨てたもんじゃない”という心意気、そして彼らが一番に伝えたかったサザンを取り巻く全ての人への感謝の気持ち。この日のライヴで受け取った想いは“無観客だから”“コロナ禍だから”という前置きがなくてもシンプルに手放したくないものであり、今までもサザンが届けてきたものばかりだった。

終演後のエンドロールではメンバーと横浜アリーナに集まった400名を超えるスタッフの準備の様子が映し出された。事前に行なわれたミーティング、リハ、当日の会場入りの際にも検温と消毒をし、全員がマスクを着用してセッティング。いつも通りの最高のパフォーマンスを見せてくれたとはいえ、いつも以上に細心の注意を払って実施されたことを忘れてはいけない。配信ライヴの収益の一部はアミューズ募金を通じて医療機関のために役立てられる。最後に桑田が言った“やっぱりファンの皆様がいないと寂しいです”という言葉はライヴが終わってからも心にポツンと残り、お客の前ではしゃぎふざける姿をまたすぐに観たいと思った。

撮影:岸田哲平/取材:千々和香苗

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