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サザンオールスターズ ライヴレポート

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【サザンオールスターズ ライヴレポート】 『サザンオールスターズ LIVE TOUR 2019 「“キミは見てくれが悪いんだから、アホ丸出しでマイクを握ってろ!!” だと!? ふざけるな!!」』 2019年6月16日 at 東京ドーム

2019年06月16日@東京ドーム

撮影:西槇太一/取材:帆苅智之

2019.07.03

驚いたことはいくつかある。まず、アンコールを含めて全36曲という大ボリュームだったセットリスト。デビュー40周年という節目の公演だったとはいえ、他のアーティストのドーム公演はいいところ25曲前後。誰とは言わないが、20曲以下なんてケースもなくはない。演奏曲の多い少ないがその公演の良し悪しではないものの、それにしても演奏された楽曲数が圧倒的であった。

しかも、中盤でのメンバー紹介を除けば、MCらしいMCはM3「希望の轍」のあとの挨拶、新曲であるM17「愛はスローにちょっとずつ(仮)」の前に“いつか機会があれば世に出したい”と説明を加えたくらいで、お喋りでつなぐことなく、徹底的に楽曲で勝負しようとする姿勢がはっきりと見て取れた。サザンのコンサートではお馴染みのダンサーも随所で登場したし、スクリーンにイメージ映像が映し出された他(M23「DJ・コービーの伝説」では音源とは別の小林克也の曲紹介があった!)、各種演出もあるにはあったが、そこだけに目を奪われるような過度なものではなかったことも付け加えておきたい。当たり前のことだが、公演のド真ん中は演奏。真っ当なライヴであり、真っ当なコンサートであった。

量だけではない。その質にも驚いた。デビュー40周年イヤーで全国6大ドームツアーとなれば、ヒットパレード的セットリストとなると考えても不思議ではなかろう。いや、そう考えるのが普通だと思う。しかし、今回のサザンはそれをいい意味で裏切ってくれたと思う。本編の半分はアルバム収録曲とシングルのカップリング曲。通好みと言おうか、簡単に表現するならばマニアックな曲が並んでいたように思う。だが、それがすこぶる素晴らしかった。昭和歌謡で言うところの“エレジー”風のM8「青春番外地」とジャジーなM9「欲しくて欲しくてたまらない」から、隠れた名曲と言っていいミドルバラードM10「Moon Light Lover」、スパニッシュなM11「赤い炎の女」を経て、原由子が歌うM12「北鎌倉の思い出」につながる中盤までも良かったが、白眉はそこからメンバー紹介を兼ねたロングMCを挟んで以降の件であっただろう。

不思議なリズムでどこか神秘的な雰囲気のあるM13「古戦場で濡れん坊は昭和のHero」から、新曲であるM17「愛はスローにちょっとずつ(仮)」も聴きどころだったけれども、個人的に心を奪われたのはM19「CRY 哀 CRY」→M20「HAIR」の流れ。圧巻だった。観ている人を突き放すかのようなヘヴィなロックチューン「CRY 哀 CRY」で呆気にとられ、「HAIR」に移って一旦、桑田佳祐(Vo&Gu)の歌とアコギとで空気が落ち着いたと思ったら、楽曲が進行するに従ってサイケデリックロックに展開。各パートが密集して行きつつ、得も言えぬスリリングさを醸しながら、後半のサビ《醜悪な音楽よストップ!!》でブレイク! これぞロックバンドだ。完全に持っていかれた。

サザンは“国民的ロックバンド”などと形容されるものだから、勝手に“国民的”に重きを置いてしまい、ついつい親しみやすいだけの存在だと思っていた。もちろん、それはそれで間違いでもないのだろう(聞けば、この日のアンコールで披露した「勝手にシンドバッド」はツアーの前半ではやっていなかったそうで、ファンのリクエストに応えるかたちで4月からセットリストに入れたという)。だが、本来サザンは“ロックバンド”である。国民的人気バンドが40周年を迎えたのではなく、40年間、独自の道を歩んできたロックバンドが国民的な人気を得たのだ。

そんなふうに考えたら、“「“キミは見てくれが悪いんだから、アホ丸出しでマイクを握ってろ!!”だと!? ふざけるな!!」”という一見、それこそふざけているかのようにしか見えなかったツアータイトルの意味が分かった気がした。この日のセットリストには「いとしのエリー」もなければ、「チャコの海岸物語」も「みんなのうた」も「涙のキッス」もなかったが、仮にそれらの誰もが知る楽曲ばかりが並んでいたとすると──さすがに“マイクを握ってるだけ”になったとは思わないまでも、演者側にはロックバンドとしてのカタルシスは薄かったに違いないだろう。そして、それは“アホ丸出し”な行為として観客に映るとメンバーは危惧したのかもしれない。そんなことを想像してしまった。要するに、結果的にふざけていた筆者はサザンに一喝されたと言っていい。

何よりも驚くのは、原がMCで“還暦すぎてバンド女子”と言っていた通り、メンバー全員が60歳を超えているという事実である。レアな楽曲群を含めて全36曲、MCや過度なステージ演出に頼ることなく、確かなテクニックと絶妙なアンサンブルで響かせる。アンコールのラスト、サザンライヴのフィナーレの定番と言える「旅姿四十周年」で桑田は《東京ドームで また逢おうね みんな元気で ありがとうね》と歌った。それはあたかも40周年は通過点にすぎないと言い放っているようかのようでもあった。“国民的ロックバンド”との形容は伊達じゃない。終演後しばらくは“やっぱりサザンはすげぇな...”との驚嘆たる思いだけが頭の中を巡っていた。

撮影:西槇太一/取材:帆苅智之

サザンオールスターズ

日本のウエストコースト・湘南をベースに70年代にデビューして以来、常に第一線でシーンを牽引し、オリジナル・メンバーのままで活動を続ける奇跡のバンド、サザンオールスターズ。語感の気持ちよさだけを追求したような歌詞を、まるで英語のような巻き舌で歌う桑田佳祐を中心に、ビートルズ、ボブ・ディラン、リトル・フィート、そしてグループ・サウンズといった洋・邦楽を消化したサザン節とでも言うべき「歌謡ロック」を威風堂々と展開。78年にラテン・アレンジの「勝手にシンドバット」でデビューし、永遠の名曲「いとしのエリー」でその人気を確実なものにした。

80年代に入ると打ち込み/サンプリングを積極的に導入し、時代の音を確実にものにしていく。その後もヒットを途切れることなく連発していき、00年の「TSUNAMI」では自己最高セールスを記録、第42回日本レコード大賞を受賞した。
デビュー30周年を迎えた08年、突然のバンド無期限活動休止を宣言。8月にニューシングル「AM YOUR SINGER」を発表、30周年記念ライヴ『真夏の大感謝祭』をその模様を収録したDVDの発売を最後に今後のグループとしての活動は白紙となっている。

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