「整数的な言葉」では、そのひとの心を映しきれないと思うんです。

―― 今回のアルバム収録曲はほとんどが応援歌、人生歌でもありますね。

本当ですね。多分、誰より自分自身に歌っているんでしょうね(笑)。たしかに改めて、すごく自身を鼓舞しながら、応援しながら作っていった曲が多いなと思います。裏を返せば、それだけ自分の不安とか怖さがあったわけで。それは間違いないですね。コロナ禍もそうですし、年齢的なもの、時代の変化もある。そういうなかでチャレンジしていく自分をまずは応援してあげたいモードだったというかね。

思えばいちばん最初に曲を作り始めたときも、自分を鼓舞するところがスタートだったんです。ソロ活動10年目だからなのかもしれないけれど、改めてこういう節目で、1曲1曲を自分に向けたかったのかな。あとはやっぱりいろんな出会いを経て、そのひとたちと一緒に一歩でも二歩でも前に進める関係でありたい気持ちも強かった。そういうパワーを持った音楽を作りたいと思った。すると自ずと応援歌が多くなっていったのかな。

この道どんな道
見たことない未知の道
あまねく問いかけに
答えの分かれ道
ワクワクする方へ
自分で決めるこの道
力み過ぎちゃダメさ
素直な心の声に耳を澄ませ

―― 今おっしゃった亮太さんの「不安」や「怖さ」を含め、ご自身が歩いている「この道」は「どんな道」だと思いますか?

今の道の景色か…。まず10年を経ても、まだ悩める自分がいるんだなぁと感じています。そして、悩めるということは、変わっていけるということなんだろうなぁと。その「変わる」って「不安」や「怖さ」と表裏一体なんですけど、そこを一歩踏み出して進んでいこうとしている自分が、19歳のときの感覚に通じているというか。結局はそういう気持ちと行動の積み重ねによって、次の景色が見えてくるんだなと思っています。

あと、今の自分の景色を、アルバムというひとつの形にまとめられてよかったなって。僕は完成してみないとわからないことがすごく多いんです。自分が何に迷っているか、現在地で何を感じているか、どこに向かおうとしているか。そして、作り終えた時点から、また始まっていく道があるんですよね。

今、ありがたいことにこうしてお話を聞いてくださる方がいて、自分なりに必死に言語化しているんですけど、そうしているなかでも「語れる部分」と「語り切れない部分」に気づいて。あと「描いたもの」と「描いてないもの」もくっきりしてきて。その「語り切れない部分」や「描いてないもの」は、何であり、なぜなのかと考えることが、また自分が次に進む道を教えてくれる気がするんです。そういう意味でも、形にしてひとに届けることが、僕にとっていちばんの原動力になっているんだろうなと思います。

―― 亮太さんがアルバムのなかで、とくにお気に入りのフレーズを教えてください。

まず、ファンの方が好きだと言ってくださるのは、「この道どんな道」の<大丈夫 大丈夫 大丈夫 大丈夫>なんですよ。

―― わかります。メロディーも上がっていきますし、4回繰り返されることで言霊の力が増してゆく感じがします。

photo_01です。

そうそう。しかも今の時代、これだけ<大丈夫>って誰かから言われることないじゃないですか。それが4回も言われると結構、勇気が出るなって。このフレーズもやっぱり自分自身に書いたようなところがあるんです。だけど歌うと、本当に聴いてくださる方に対して伝えている自分がいるんですよね。この部分は強いなと思います。

あと、今日の話の流れで言うと、「サヨナラ花束」の<サヨナラからまた>かな。今の世界を見ている自分のフレームを、信じなきゃ不安で不安で生きていけない。でも、そのフレームが固定されすぎてしまうと、逆に自分が見ているものが狂っていって、苦しくなっていく。すごく矛盾するんだけれど、揺れながら揺れながら、少しずつチューニングしたり、壊したりして、発見していくしかないんですよね。それって、ひとつ前の自分の価値観に<サヨナラ>することで、新しく始まっていくってことだから。

―― そうですね。この曲は<サヨナラ>から伝わってくるものが、寂しさや悲しみより希望だと感じました。

そうなんです。「また前に進んでいこう」という気持ちを歌いたかった。これが今の僕の価値観そのものと捉えていただいてもいいと思います。ものづくりもそうですけど、ギュッと握りしめてきたものにサヨナラをしたとき、また見えるものがある。そういう意味で希望ですし、このフレーズが今の自分にいちばんしっくりきますね。

―― 作詞の際、亮太さんが使わないように意識している言葉ってありますか?

まず、言霊ってあると思うので、自分の気持ちが落ちるような言葉は使わないかもしれません。それってすごく難しくて、書き方にもよると思うんですけど…。

―― 最初の「整数的な言葉」のお話にも通じるかもしれませんね。

あー、そうだなぁ。整数的な言葉って、感情というよりもはや記号なので、そのひとの心を映しきれないと思うんです。もちろん使っちゃうときもあるし、記号なら記号として使うんですけど。もう少し生身の感情に近い言葉を使いたいなと、常に探している気はします。

―― 逆に好きでよく使う言葉はありますか?

それはたくさんあるだろうなぁ。なんだろう…。

―― 今回のアルバムに限っては、聴いていて上向きになる感覚があったので、<空>にまつわるワードは多いように感じました。

あ、たしかに。昔から空が好きだし、歌詞にもよく使っています。それで言うと逆に下を向いて、<土>もいいな(笑)。やっぱり自然にまつわる描写がスッと入ってくる感覚をなくしちゃいけないなとは思っています。

―― アルバムの入り口となる曲「この道どんな道」でも<土の匂い>や<駆けた野山>、<草むらをかき分けてた 少年>というワードが印象的でした。

本当に野山を駆け抜け、草むらをかき分けていた少年時代だったので(笑)。子どもの頃って、何度も転んでケガをしながら、それでも立ち上がってまた走り出すみたいな勢いがあったじゃないですか。そういうものが大人になってもきっと大事なんだろうなって思うんです。

―― 亮太さんにとって、歌詞とはどういう存在のものになりますか?

歌詞かぁ。おまじないみたいなものかな。

―― 先ほどの4回繰り返される<大丈夫>もまさにそうですね。

そうですよね!とくに今回はそういう12曲が集まりました。だからこのアルバムも、歌詞という存在も、おまじないみたいなものだと思う。僕にとっても、聴いていただく方にとっても、自分の歌詞がそういうもので在れたらいいなと思います。

―― ありがとうございます!では最後に、これから挑戦してみたい歌詞を教えてください。

ポエトリーリーディング的な曲を作ってみたいですね。不可思議/wonderboyが大好きなので。あと先日、black midi(ブラック・ミディ)っていうロンドンのバンドのライブを観に行ってきまして。マジでプログレなんですけど、「どうしてそんなにギター弾きながら、そんなに歌えるの!?」って。それもやっぱり歌というより、ポエトリーリーディングっぽくて。そういうカッコいい楽曲も作ってみたいですね。


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