42歳になっても、19歳の頃と同じように音楽を信じられる自分がいるんだなって。

―― ご自身のフレームの変化は、今作『Sunshine』にも大きく反映されているのではないでしょうか。

はい、『Sunshine』というタイトルもそこに通じています。曲を作ることで、自分の曇っていく部分にも、あえて太陽の光を当てる。そして自分が「おぉ!」って思えるような新たな価値観に気づければ、そこにすっと光が差していく気がして。とくにここ5年は、独立したこともあり、揺れながらも自分の立ち位置から世界を見つめて、曲を作りながら座標を感じて生きてきた部分があって。それをひたすらやってきた気がするんです。だから決めた方向にむかってというより、ひとつひとつ目の前のことに触れて曲を作って、その曲ごとに気づきがあって。そういう光を12曲分、集めたアルバムになっているんです。

photo_01です。

最初に、曲を作り始めた頃の話をしたじゃないですか。当時も今と同じだったんです。とくに19歳の頃なんて、自身のことも、自分を取り巻く社会のこともわからなくて。心にモヤモヤ絡まっていくものがたくさんあったんです。でも1曲作ると、1曲分だけ気づきがあって気持ちが晴れていった。そういう感覚が原体験としてあるんだと思います。今、42歳になっても、僕にとって音楽ってそういうもので在り続けていて。19歳の頃と同じように音楽を信じられる自分がいるんだなって、この『Sunshine』を作りながら、感じました。

―― アルバムタイトルの『Sunshine』という言葉は、直感でパッと思いついたのですか?

まず「Sunshine」という曲ができたことが大きかったのかな。

―― 曲のほうが先だったんですね。

そうそう。「Sunshine」は、サビの歌いだしの“Sunshine過ぎてゆく~”というメロディーと歌詞が同時に出てきたんです。そういうときがいちばん強いんですよね。そこからインスパイアされる言葉をどんどん書いていける。そしてあとから、「なぜSunshineという言葉が出てきたんだろうか」と考えていく。アルバムタイトルもいろんな候補があったんですけど、自然と『Sunshine』が今の自分とこのアルバム全体を言い当てている気がしました。

Sunshine 過ぎてゆく
時だけが朧げに
僕が抱き締めたのは
一瞬の輝き
Sunshine

タイトルの由来は、先ほど長く喋ってしまった部分と同じで、自分を曇らせる思い込みにも光を当てて、新しい価値観を発見していきたいということなんですけど。最近、あるラジオ番組でこの話をしたら、パーソナリティの方から「清濁併せ呑むってことですか?」って言われたんです。なるほどと思って。海って、「濁った水はどっか行け!」とは言わずに清濁関係なく水を受け入れるじゃないですか(笑)。でも人間は、「水は清らかな方がよい」みたいな価値観を持ち込む。だから苦しくなると思うんです。どんなものでも水は水なのに、それを受け入れられないのは、あなたが海のように受け入れられていないからである、というか。

そう考えると、「清濁併せ呑む」って難しいなって。で、僕が海になれているとは思わないんですけど、ただ、借り物の価値観に振り回されず、ありのままにキャッチしたいなとは思うんです。人間だからそうもいかないときもあって、苦しくもなるんですけど、そういうときこそ曲を作りたい。作った先に、「藤巻も大変だな」って共感してくださる方がいるかもしれないし。なんか…そういう気持ちで『Sunshine』とつけました。音楽はやっぱりすべてのものに光を当てる力があるんだろうなと改めて思っています。

―― 最初におっしゃっていた、「照れながら歌詞を書いていた」頃とは異なり、タイトル曲「Sunshine」はとくに気持ちをストレートに書かれている印象を受けました。

it's alright 楽しくやろうぜ 
星は星のまま空を廻ってる
自分のすべてを賭けてみたいなら 
賭けてしまえばいい 次の一瞬に
Sunshine

あぁそうですねぇ。一度そこにある想いに気づいてしまったなら、照れずにしっかり書き切っていきたいという傾向が年々、強くなっている気がします。レミオロメンのとき以上に。とくに「Sunshine」はアルバムリード曲ですし、曇っているものを晴らしていくときに見えてくるかけがえないものを歌った曲だからこそ、よりストレートな歌詞になったんだと思います。

―― また、今回のアルバムは12曲中9曲に<僕たち>や<僕ら>というワードが登場しておりました。自分のフレームに依存しすぎず、多くの価値観に触れたいという今のモードだからこそ<僕>ではなく<僕ら>の楽曲が多いのでしょうか。

明日を吹く風を
僕らが知る術はなし
されど行くこの道
志と愛を胸に秘めて
錆びを磨き ほつれを縫って
歩いてゆこう 僕らの街で 
生きてくんだ
進め 僕らのヒーロー 
朝日に祈り 暁に誓う
平和の鐘を 
鳴らせヒーロー
Heroes

あー!たしかにそうかもしれない。レミオロメンのときは<僕ら>って本当によく書けたんですけど、やっぱりソロになって当たり前に<僕>になっていたんですね。だけどさっきお話したように、年を重ねるにつれ社会との接点のなかで曲ができている意識が強くなってきて、そのなかで出会えたひとたちのことをより考えるようになった。だからコミュニティに対して歌っている曲が、このアルバムではすごく多いですね。そこはまだ自分でもちゃんと分析できていませんでした。

あとコロナ禍を経て、世の中と繋がっている実感が欲しかったのもあるのかな。僕だけじゃなく多くの方が、生身の繋がりが減らざるを得なかったし、心細かったし。その分、繋がりを感じ合えるものとして<僕ら>の音楽を作りたかったんだと思います。

―― リード曲「Sunshine」にも<Sunshineいつまでも 僕たちは友達さ いつの日かまた会おう 笑顔のまま>というフレーズがありますね。

例えば子供の頃ってなんの損得もなく、純粋に友達という関係になっていたと思うんです。だけど、大人になっていくにつれて、よくも悪くも社会のなかで揉まれて、価値判断をし始めたり、逆に価値判断に使われるようになったり。世の中のいろんな縮尺の価値に自分を当てはめて苦しむ時期も、結構あったんですよね。でも、年齢もあるんでしょうけれど、ここ5年でやっとそういうすべてを脱ぎ捨てられるようになったというか。自分のシンプルな想いを本当に大事にしようという気持ちがありまして。

それもやっぱりさっきの話に通じていて。自分を曇らしていたもの、自分の欲望を弱らせていたものを晴らしてみたとき、自然と出てきたフレーズだったりするんです。歌詞では<友達>と書いていますけど、人生のなかで出会ったかけがえのないひとやもの、思い出に心から感謝が溢れてきた。そして、その感謝を抱きながら、僕はまた音楽の道で何か素晴らしいことをし続けていけたらいいなと思っています。

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