そろそろ君を僕から放してあげる時かも知れない。

恋愛で大事なのは愛より勘。
こんなこと言っちゃっていいのかな。
でも自分がピッと感じたことは信じたほうがいい!
(中略)「最近おかしいな」「なんか変だな」
という勘は意外と当たっちゃうので…。


 歌ネットのインタビューで、そう語ってくださったのは“槇原敬之”さん。2019年2月13日リリースのニューアルバム『Design & Reason』に収録されている新曲「だらん」についてのお話です。では、だらん、とは何を表している言葉なのでしょうか。だらん、という【Design(形)】になってしまった【Reason(理由)】とは一体、何なのでしょうか…。

いるものは持って行って
いらないものは置いていけばいい
ドアを閉めたあとぼんやり
しながら集めて捨てるから
「だらん」/槇原敬之

 歌の冒頭から<僕>と<君>が置かれている現状が見えてきます。今まさに<君>は出て行こうとしている。一方の<僕>はこの部屋に残される。つまり<君>にとっての<いらないもの>として置いていかれるわけです。そして<君>は“自分の人生に必要な何かや誰かへの想い”だけを持ち、ドアは閉まり、二人の関係に終止符が打たれます。
 
 ちなみに槇原さんは、自身が描く主人公に多い特徴として「気弱で、お人よし」であることを挙げていましたが、この<僕>も然り。その場では<いらないもの>を捨てさせないし、捨てない。ちゃんと<ドアを閉めたあと>に、独りで想い出の残骸を<集めて>捨てる。本当はまだ別れを受け入れられない<ぼんやり>した心と体のままで。すべての言動に「気弱で、お人よし」な性格が滲んでいる気がしますね。

注意してみてなくても
何かが変わったってわかる
僕の気持ちだけではもう
どうにも出来ないよね

何度ハグしても君の両手が
だらんと下がったままで
そろそろ君を僕から
放してあげる時かも知れない
「だらん」/槇原敬之

 この歌では、そんな「気弱で、お人よし」な<僕>だからこその選択が描かれております。みなさんなら<僕の気持ちだけではもう どうにも出来ない>と悟ったとき、どうしますか? 相手から別れを切り出されるまで粘る方も多いのではないでしょうか。しかし、この主人公は<そろそろ君を僕から 放してあげる時かも知れない>と言うのです。
 
 別れるだけでもツライのに、別れを切り出すツラさまで請け負うのです。それは簡単な決意ではなかったことでしょう。その証拠が<何度ハグしても君の両手が だらんと下がったままで>というフレーズ。きっと<僕>は自分の悲しい“勘”を確かめたかったのです。だから、かすかな希望を捨てずに<何度>も<ハグ>をしてみたのだと思います。
 
 でも残念ながら<君の両手>はいつも<だらんと下がったままで>、勘は確信に変わってしまいました。この「だらん」という言葉が表すのは<君>から<僕>に対する“力=愛”が完全に抜け切っていること。かといってドンッと突き放すわけでもないこと。何度も「だらん」を繰り返した末に<僕>のかすかな希望も「だらん」と力を失ってしまったこと…。

そいつと僕が持っているもの
両方手に入れたくて
がまんして側にいるだけじゃ
少し努力が足りないよ
下がった両手が抱きしめたい
誰かのもとにいけばいい
心に嘘はつけないんだ
君もだけど そう僕もね
「だらん」/槇原敬之

 そして、サビで明かされる「だらん」の理由。もう<君>には<そいつ>という<僕>以外の存在がいたのですね。それでも<君>から別れを告げなかった理由は<僕が持っているもの>も手に入れたかったから。歌詞から予想するに、安定感や優しさ、穏やかさでしょう。かつ<そいつ>からは、新たな恋愛のトキメキや刺激を得ていた。
 
 それでも、そんなひどい関係でも、何より<僕>が悲しかったのは浮気されていたこと自体ではなさそう。だって<少し努力が足りないよ>と言っているのです。本当は、嘘でもいいから、抱きしめてほしかったのではないでしょうか。両方手に入れたいズルさがあったとしても<僕>を失わないために<努力>してほしかったのではないでしょうか。
 
 「だらん」とした両手は、イコール“別にあなたを失ってもかまわない”という気持ちの象徴だった。心離れを隠そうともしてくれなかった。それが<僕>は苦しくて、ついに自ら別れを選んだのです。結果、幸せになれよ、幸せになりたいよ、幸せになろうよ、それぞれね、という想いを<君もだけど そう僕もね>に込めたのでしょう。

何かに夢中になると人は
どこか間が抜けてしまう
誰かに夢中にさせたのは
僕のせいだ 仕方ない

そいつと僕が持っているもの
両方手に入れたくて
がまんして側にいるだけじゃ
少し努力が足りないよ
下がった両手が抱きしめたい
誰かのもとにいけばいい
心に嘘はつけないんだ
君もだけど そう僕もね
「だらん」/槇原敬之


 相手の浮気さえも<僕のせいだ 仕方ない>と、最後の最後まで「気弱で、お人よし」な主人公の、次の恋にこそどうか幸あれ…!恋人に対して「最近おかしいな」「なんか変だな」という“勘”を抱いている方、その“勘”が当たってしまったという方、槇原敬之の「だらん」を聴いてみてください。また、併せて是非、インタビューもご一読を!

◆紹介曲「だらん
作詞:槇原敬之
作曲:槇原敬之

◆ニューアルバム『Design & Reason』
2019年2月13日発売
BUP-00018 ¥3,000(税別)

<収録曲>
01. 朝が来るよ
02. どーもありがとう
03. だらん
04. In The Snowy Site
05. ただただ
06. キボウノヒカリ
07. 微妙なお年頃
08. 2 Crows On The Rooftop
09. 記憶(Album Ver.)
10. Design & Reason