老女優は去りゆく

美輪明宏

老女優は去りゆく

作詞:美輪明宏
作曲:美輪明宏
発売日:2006/11/08
この曲の表示回数:23,262回

老女優は去りゆく
これでお別離なのね この劇場も
化粧を落として 煙草をふかせば
思い出すわ あの頃を 過ぎた昔を
女優を夢に描いて 街へ来た頃を
私は十六 田舎訛りで
震えながら訪ねた ここの楽屋口

長い下積みの後で やっとありついた
端役でも 私は嬉しかったわ
それからは だんだんと主役になれて
輝くスポットライト浴びた歓び
楽屋には花々 拍手の嵐
取巻きの人々 甘い生活

でも 若くして成功した誰しもがそうであるように
私もまたつい いい気になっていた
その後 数多くの失敗が続いた
批評家には叩かれ
主役はライバルに持って行かれた
おまけに愛する夫は 若い女優と駈落ち
たった一つ心の支えだった子供は 病気で死んで
それを優しく慰めてくれていたあの人も 事故で死んだ
ふと気が付くと まるで潮が引くように
私の身の回りから人々が遠ざかっていた
孤独の中で 毎晩 毎晩
浴びるようにお酒を飲んで
やがてアルコールと麻薬の中毒 そして入院
あの泥沼の中から私が這い上がるまでに
どんな思いをしたか 決して誰にもわからないわ
世間では私のことを再起不能と嘲笑っていた
落ちぶれた過去のスター 落ち目の流れ星
もう一度 舞台に立ちたい
あのスポットライトの下で拍手を浴びたい
私は恥を忍んで カムバックを目差して
通行人の端役から出直した
人々の同情の眼 蔑みの眼にも私は耐えた
なぜならば 私には女優としての誇りと自信があったから
でもその後の想像を絶する人々の悪意 意地悪 屈辱の数々
でも私は負けなかったわ
耐えて 耐えて 耐えて 耐えぬいた
そして とうとうあの念願かなった
あのカムバックの日の 太陽のように輝くスポットライト
嵐のような拍手を私は一生忘れないわ
いろんな役をやった
女王も 娼婦も 人妻も 娘も
でもそれらは 今は皆幻のように消えて
私は すっかり老いさらばえて
今日 この劇場で引退して行くのだ

そうよ この劇場は解っているのね
舞台に人生を 賭けた私を
私の何もかも 生きて来た道を
さようなら 愛する我が劇場
老兵は静かに消え去るのみ
出て行く迄明かりは消さないでね
出て行く迄明かりは消さないでね

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