「お弁当あたためますか?」 世界の誰より俺にやさしい…。

お前を嫁にもらう前に 
言っておきたい事がある
かなりきびしい話もするが 俺の本音を聴いておけ
俺より先に寝てはいけない
俺より後に起きてもいけない
めしは上手く作れ いつもきれいでいろ
出来る範囲で構わないから
忘れてくれるな仕事も出来ない男に
家庭を守れるはずなどないってこと
お前にはお前にしか できないこともあるから
それ以外は口出しせず黙って俺についてこい
「関白宣言」/さだまさし

 今からもう37年も前にリリースされた作品ですが、知っていると言う方が多いのではないでしょうか。最近では、西野カナ「トリセツ」の歌詞が“女版・関白宣言”だとも言われていました。関白=(亭主関白)とは、家庭内で威張っている夫のことを意味します。今で言う“俺サマ系”男子に近いですね!反対に、女性の方が強い状態は“かかあ天下”と言いますが、現代ではこちらの比率が高いイメージです。そして数年後、「関白宣言」の旦那さんもみるみる権力を失い、家庭はその“かかあ天下”の状態に陥った模様…。<俺の本音を聴いておけ>と、様々な条件を上から妻に突きつけていた彼はこのように変化していったのです。

お前を嫁にもらったけれど 
言うに言えないことだらけ
かなり淋しい話になるが 俺の本音も聞いとくれ
俺より先に寝てもいいから 夕飯ぐらい残しておいて
いつもポチと二人 昨日のカレー チンして食べる
それじゃあんまり わびしいのよ
忘れていいけど 仕事も出来ない俺だが
精一杯がんばってんだよ 俺なりに それなりに
「関白失脚」/さだまさし

 なんとも切ないですね(泣)。「関白宣言」の数年後に「関白失脚」という楽曲が作られました。<俺より先に寝てはいけない 俺より後に起きてもいけない めしは上手く作れ>と命令していた言葉が<俺より先に寝てもいいから 夕飯ぐらい残しておいて>と懇願になっております。さらに2016年、最新版の「関白失脚」続編がリリースされたのはご存知ですか?その名も「関白失脚2016〜父さんと閑古鳥 篇〜」。“閑古鳥”とは“閑古鳥が鳴く”ということわざで使われ、“人がおらず、物悲しい様子や寂れた様子”を意味するもの。タイトルからすでに、<父さん>のより切ない姿が予想されます…。

お前を嫁にもらったけれど
言うに言えないことだらけ
かなり淋しい話もするが 俺の本音も聞いとくれ
俺より先に寝てもいいから 夕飯ぐらい残しておいて
帰り道のコンビニ 「お弁当あたためますか?」
世界の誰より俺にやさしい
忘れていいけど 仕事も出来ない俺だが
精一杯がんばってんだよ 俺なりに それなりに

父さんみたいに なっちゃ駄目よと
お前こっそり子供に言うが 知ってるか
勉強せずに(閑古鳥) その辺うろついちゃ(閑古鳥)
事故には気をつけろよ せめて読書はしろ
ムダなダイエット ムダな体脂肪計
本気でヤセたきゃ あんなに食べなきゃいいのに
それからあれだぞ テレビショッピング
「今なら 下取り一万円! さらに八千円引き!」
確かに買うわ
それぞれご不満も おありのことと思うが
それでも家族になれて
よかったと俺思ってるんだ
「関白失脚2016〜父さんと閑古鳥 篇〜」/さだまさし

 以前は、かろうじて食事(カレー)を作ってもらえていたようですが、今や「コンビニのお弁当」です。そしてところどころで<閑古鳥>が鳴いている様子から、父さんの言葉は誰にも届いてないことが伝わってきます…。このように、結婚前からすっかり立場は変わってしまった彼ですが、ただひとつだけ変わらないものがあります。それは家族への愛です。父さんは、こんなに淋しい状態にも関わらず<それでも家族になれて よかったと俺思ってるんだ>と歌っているんですよね。さらに歌はこのように続きます。

人は私を哀れだというけれど
俺には俺の幸せがある
君たちの幸せの為なら
死んでもいいと誓ったんだ
それだけは疑ってくれるな 心は本当なんだよ
世の中思いどおりに 生きられないけれど
下手くそでも一所懸命 俺は生きている
俺が死んだあといつの日か
何かちょっと困った時にでも
そっと思い出してくれたなら
きっと俺はとても幸せだよ
「関白失脚2016〜父さんと閑古鳥 篇〜」/さだまさし

 「関白宣言」にも「関白失脚」にも「関白失脚2016〜父さんと閑古鳥 篇〜」にもちゃんと貫かれている<君たちの幸せの為なら 死んでもいいと誓った>想い。結婚から37年が経っても離婚せずにいる理由はきっと、そんな父さんの家族である母さんと子供もそれぞれちゃんと幸せであるからではないでしょうか。全国にはこのような状態のお父さんがたくさんいるかもしれませんが、この歌を聴くと改めて、尊敬の念を抱きますね…。
 
 尚、「関白失脚2016〜父さんと閑古鳥 篇〜」は、さだまさしが2016年9月14日にリリースしたオールタイム“ワースト”アルバム『御乱心(ごらんしん)』に収録されております。過去に発表された500曲を超える楽曲の中から、さだまさし自らが“迷曲”たちをセレクト。是非是非、歌詞を読みながら、楽しんで聴いてみてください!

◆オールタイム“ワースト”アルバム
『御乱心(ごらんしん)』
2016年9月14日発売
FRCA-1272 ¥2,000(税抜)

<収録曲>
01. ねこ背のたぬき
02. 魔法のピンク
03. シラミ騒動組曲 第一楽章「シラミ騒動」
04. シラミ騒動組曲 第二楽章「シラミ逃亡」
05. シラミ騒動組曲 第三楽章「シラミー・ナイト・フィーバー」
06. ペンギン皆兄弟
07. 建具屋カトーの決心 -儂がジジイになった頃-
08. 時代はずれ
09. 誰も知らない二番目のうた
10. 必殺!人生送りバント
11. 関白失脚2016 〜父さんと閑古鳥 篇〜