そんな2人だからこそ描けたアオハルソング。

 2023年12月27日に6thフルアルバム『RABBIT-MAN II』をリリースしました。今作には、すでにライブで披露されている新曲「どうやって君を奪い去ろう」「怪盗Y」を含む12曲を収録。ハイテンションなナンバーや、じっくり聴かせるバラード、遊び心の詰まった楽曲が詰め込まれております。
 
 さて、今日のうたコラムではそんな“椎名慶治”による歌詞エッセイを3週連続でお届け! 今回は第1弾。綴っていただいたのは、収録曲「ただ」にまつわるお話です。小学校からの友人であり、作詞家の野口圭と共作で歌詞を書いたアオハルソング。椎名慶治から野口圭へのインタビューコーナーも併せて、エッセイをお楽しみください…!



ただ
 
実はこの曲は難航した曲。
と言うのも、山口寛雄と共作曲をし、そのデモを元に小学校からの友人であり、同業者(作詞家)の野口圭(以下 野口)に歌詞を書いてもらっていた(1番まで)。
自分で書くより面白くなる気がしてお願いしたわけです。
 
が!
 
その歌詞の完成を待たずに作曲したメロディーが気になり出してしまい、大幅にメロディーラインを変更してしまった!(勿論野口は知らない!)
 
これは申し訳ない事をしたな…と、野口から預かった歌詞を上手く組み合わせてみようとしたけどぉ……
 
うん、コレは無理!となりました(笑)。
 
なので、野口の歌詞は一度ボツにされてます!(なんて酷い男なのだ椎名め! だけどその時の歌詞まだ持ってますよ? 使えるかも知れないし!)
 
野口に事情は説明した。
したけど、一度ボツにしといて新しく生まれたメロディーへ再度のオファーはしづらいよなぁと、とりあえず自分で書いてみる。
スラスラとなんとなく書いたわりに妙にハマりが良いアオハルソングが生まれ始める。
サビの文字数が少なかったので「好き」とか分かりやすい言葉がハマりやすく、そこから恋愛ソングへと自ずと舵を切り、気付けばアオハルになっていったんだと分析してみる。
だけどこのまんま47歳がアオハルを書き続けるのは大変だ!と、結局また野口が呼び出される(彼も当たり前だが同い年である)。
俺の歌詞を受けて、その後の世界を描く(引き受けちゃう野口の優しさよ)。
 
そして生まれた2番から先の世界。
色々と引っかかるワードが出てくる。
俺が書いた歌詞じゃない部分は俺も詳しくは知らない。
あまり具体的にコレはこうで!だからこうなって!つまり!とか2人ともやらない。
でもやっぱり気になる。
と言う事で今日は野口本人に俺の気になったポイントを聞いてみようかと。

 
椎名:はい、と言う事で本日のゲストは作詞家の野口圭さんでーす!(唐突)
 
野口:はい。どうも椎名慶治の小学校からの友人、作詞家の野口圭です。
 
椎名:幾つか気になるポイントなどをお伺いしたいので是非質問に答えてもらえたらと。
まずは、最初の歌詞を野口自身はどういった思いで書いていたのか、そしてソレがボツになった時の心情は?
 
野口:作詞するのに難しいメロディーって2種類あると思うんですけど、1つは字数が少ない曲。もう1つはリズムの制約が厳しい曲だと思っていて、この曲は両方を兼ね備えていたんですよね(笑)。だからとにかく難しかったです。
 
最初に僕がこの曲でやってみようと思った歌詞は、テーマ的にもっと字数の多い曲じゃないと成立しきれないものだっていうことが、書いてるうちに身に染みてきたので(笑)。別にボツになるのもまた良しっていうか、「このテーマでは成立しない」ってわかるのも前進だから、全然良いことなんじゃないかなと。
 
椎名:そこからメロディーが大幅に変更され、俺が1番を書いた後にその続きを書くと言う手法は正直書きやすいものなのか、はたまたゼロから書くより難しい?
 
野口:僕は八方塞がりだったので椎名からアイデアを出してくれたのは助かりました(笑)。しかもかなり肩の力が抜けたって言うとあれだけど、10代の頃みたいなテーマっだったから「あ、これぐらいのテンションでね」みたいな、一気に楽になった感じでした。何かを創作する上で一番大変なのはゼロからイチを生み出すことですから、それに比べれば続きを書くのはずっとスムーズな作業です。
 
椎名:その歌詞の中で<無事タヒ亡>と出てくるが、この一見表記ミスのように見える書き方にした理由はある?
 
野口:ネットで「死」とか「殺」とかって漢字が引っかからないように伏せたりするのに使われる表現ですけど、この歌で「死亡」だと重いんでこっちにしました。
 
椎名:更に最後のサビに出てくる<18センチ>。
この数字には何か意味がある?
 
野口:全くないですね(笑)。一応定規を見ながら決めましたけど。なんならライブで歌う度に、にじり寄って近づいていってくれても構わないです(笑)。
 
椎名:(笑)。この曲に限らず共作詞をする時に気をつけているポイントやこだわりなどがあれば是非。1人で書く歌詞との違いなどもあれば教えてください。
 
野口:自分よりも椎名の方がバランス感覚があるので、少し攻めた「ナシよりのアリ」くらいを意識して、「ダメだったら椎名がなんとかしてくれるだろう」ぐらいな気持ちで気軽に変なことを書いてます。最終判断を委ねている身ならではの気楽さがあります。
 
椎名:ありがとうございました!
本日のゲストは野口圭さんでした!
 
 
ってなわけで野口から話を聞けて俺もスッキリした部分もあるけど、逆にモヤっとする部分も。(18センチ意味なかったー!)
 
野口がやりたいようにやっても、俺がバランス保ってくれるから自由に書けてるってのは信頼関係があるからこそ成せるワザだなと。
 
コレからも彼は突拍子もない歌詞とは無縁なようなワードをニヤニヤしながら送りつけてきてくれる事でしょう。
 
「ただ」もそんな2人だからこそ描けたアオハルソングなんだと思います。
 
この分かりやすい歌詞と前衛的なアレンジの融合がこの曲の醍醐味かと。
 
是非聴いてみてくださいね。

椎名慶治>



◆紹介曲「ただ
作詞:椎名慶治・野口圭
作曲:椎名慶治・山口寛雄

◆6thフルアルバム『RABBIT-MAN II』
2023年12月27日発売

<収録曲>
01:Shout it Out
02:Oh Yeah!!
03:どうやって君を奪い去ろう
04:BLACK or BLACK
05:そりゃないぜ
06:RABBIT-MAN II
07:Miss Regret
08:ジレル
09:予告状
10:怪盗Y
11:ただ
12:優しさなんかじゃないんだってば
13:醜態成