僕の音楽人生を揺るがす出来事。

 2023年2月5日、様々なアーティストへの楽曲提供でも知られる温詞(あつし)のソロプロジェクト“センチミリメンタル”の新曲「ひとりごと」が配信スタート!今作はドラマ『ひともんちゃくなら喜んで!』の主題歌として書き下ろした楽曲となっております。
 
 さて、今日のうたコラムではそんな最新作を放った“センチミリメンタル”の温詞による歌詞エッセイをお届け!今回が最終回です。第1弾では新曲「ひとりごと」の制作過程を、第2弾ではその歌詞に込めた想いを明かしてくださいましたが、最終回は自身が音楽に触れ、歌を作るようになるまでのお話。彼の僕の音楽人生を揺るがしたとある出来事とは…。今作と併せて、エッセイをお楽しみください。



新曲「ひとりごと」リリースに伴ってのエッセイも今回で区切り。
前々回では楽曲が出来上がるまでの話、前回では楽曲の内容について詳しく掘り下げたので、今回は、僕が音楽に触れ、そして歌を作るようになるまでの話を出来たらと思う。
 
昔から、心の動きを言葉にするのが好きだった。
題名の付けられていないピアノ練習曲たちに、ひとつひとつ題名をつけていたことを覚えている。
この曲は力強いけど、どこかのんびりしているから「ライオンのお昼寝」とか。
そうして音楽に言葉をつけていくと、輪郭が増していくような感覚があった。
 
僕が本格的に作曲を始めたのは小学2年生からで、その時作っていたのは言葉のないピアノ曲たちだったけれど、今思えばその曲たちのタイトルを決める瞬間がとても好きだった記憶がある。
 
幼少期からクラシック音楽をやっていたのだが、実はずっと引け目に思っていることがあった。それは、楽曲が自分の中に入ってこない、染み付いていかない感覚。
 
無論、クラシック音楽が嫌いなわけではなかった。むしろ、聴いていて、弾いていて心地の良い素晴らしい音楽文化だと思っている。でも、それでも染み付いていかない。
 
それを顕著に感じるきっかけになったのは、どうも自分がクラシック音楽の題名を覚えれないということだった。
繰り返し聴いた曲はおろか、弾いた曲でさえも時折題名が出てこない。曲そのものと題名が脳内できちんと一致していないのだと思う。
 
だから、自作曲に向き合う時間が好きだった。
これは自分がその音や、それを弾く上で感じた心情をそのまま自分で命名しているのだから、間違えようもないし、変な引け目を感じずに済んだからだ。
 
そんな中、僕の音楽人生を揺るがす出来事が起きた。
 
それは、忘れもしない、僕が小学5年生の時。
家族と一緒にドラマ『1リットルの涙』を観ていた。
切ない物語に胸を揺さぶられている中、とある楽曲が劇中歌として流れてきた。
レミオロメンの「粉雪」という曲だ。
 
脳内に電撃が走ったような感覚があった。美しいサウンドの上に乗っかる、力強い歌声、言葉たち。
音楽が、心臓を貫くように、まっすぐに入り込んでくる。
これだ、と思った。
僕の好きな音楽は、やりたい音楽はこれだったんだ、と気付くきっかけとなる瞬間だった。
 
その衝撃を忘れられず、僕は中学生の頃からピアノ曲ではなく、歌を作るようになった。
言葉を書くことはずっと好きなままだったので、小学生の頃からよくポエムを書いたりはしていたから、オリジナルの歌を作り始めることはとても自然で、心地よいことだった。
 
言葉はまるで宇宙のようで、その中を駆け巡って僕はどこへだっていける気がした。
思考も、願いも、妄想空想も、言葉は全部カタチとして僕に応えてくれた。
小説を書いたりした時期もあったけれど、僕の中では言葉と歌声がひとつになった時の衝撃を越えられなかった。
 
それからもう随分長いこと経つけれど、僕は飽きもせず歌を作り続けている。
心の中に閉じ込めた思いを、声に出し、音に乗せて、歌い続けている。
 
今もなお思う。言葉は宇宙だ。
無限の可能性があるからこそ、その暗闇の中に迷い込んでしまうことも度々ある。
でも、その中で君と一緒に迷って、探して、傷つけ合って、支え合って、繋がっていたい。
 
だから、僕はずっと、言葉を“歌”というラッピングに包んで君に手渡していく。

<センチミリメンタル・温詞>



◆新曲「ひとりごと
2023年2月5日配信
作詞:温詞
作曲:温詞