たまに見るあの日の夢。

 2022年10月5日に“フルカワユタカ”がフルアルバム『ファースト・ディケイド』をリリース。“ファースト・ディケイド(=最初の10年)”の名の通り、ソロ活動10年を総括する全10曲収録の意欲作。書き下ろし新曲に加え、ソロ1st AL収録曲「farewell」が「フェアウェル」として生まれ変わり、昨年に自身で演奏からミックスまでを手掛けた「BOY」「夏の鉄塔」の再録が含まれるなど、バラエティに富んだ内容となっております。
 
 さて、今日のうたコラムではそんな最新作を放った“フルカワユタカ”による歌詞エッセイをお届け! 今作のジャケットコンセプトが「小説」であることに着眼し、元詞の「原作」をミニ小説風に執筆。選曲はあえて、今作からではなく、2018年にリリースの3rdアルバム『Yesterday Today  Tomorrow』収録曲「バスストップ」をセレクト。今年10年ぶりにバンドを再結成し、来年ソロ10周年を迎える今、改めてこの歌詞の奥行きを書いてみたいという思いから執筆いただきました。ぜひ、歌詞と併せてご堪能ください。



バスに乗り遅れた。
時間通りに着いたはずが今日はどうやら祝日のようで、ダイヤのメモ書きがそもそも間違っていた。
一人旅が長くなるにつれ、曜日感覚とやらはさっぱり無くなってしまった。
 
時刻表をどれだけ眺め直したところでもう今日のバスは来ない。
“ほんの30分前”に出たのがこの田舎町の最終便だった。
 
視線を感じて振り向くとベンチに座った老紳士がじっとこっちを見ていて、そして何かを笑った。
微笑だったのか嘲笑だったのか一瞬のことで判別できなかったが、彼は確かに僕の何かを笑った。
 
随分前から行き先はない。
強いて言えば歩けなくなるまで、かなり大袈裟に言えば命果てるまで、この道を進むだけの旅だ。
かつては沢山の仲間と乗り合って自分達の車で旅をしていた。
調子に乗って箱乗りで公道をかっ飛ばしたり、ガス欠した車をみんなで何キロも押したこともあった。
 
喝采にも批判にも同じ温度でのぼせていたあの頃が懐かしい。
何より僕らには行き先があった。
 
気づけば老紳士はもういなかった。
 
話しかけていたら僕も一緒に笑えただろうか。
そもそも彼は僕の何を笑っていたんだろうか。
諦めの悪い若造めと嘲っていたんだろうか。
それとも「人生はそんなもんだよ」と微笑みかけてくれていたんだろうか。
 
街に戻り昨日の宿に泊まっても良かったが、その夜は野宿することにした。
季節や天候にもよるが、日々大差のない宿暮らしの中に野宿を混ぜ込むのは旅費の節約という意味を超えて案外悪くなかった。
何より今日は屋根とベンチのあるバス停で、ここなら乗り遅れることもない。
乗り遅れたって別に構わないのだけれど。
 
夢を見ていた。
たまに見るあの日の夢。
彼奴に嘘をついた日の夢。
一人で旅することに疲れ果てていたがそれを見抜かれたくなかった。
かつて旅を共にした彼奴にだけは見抜かれたくなかった。
一人になっても旅を続けている自負を失いたくなかった。
最初の嘘をついた後はとめどなく言葉が汚れていった。
 
いや違う。
 
あの時、僕はわざと言葉を汚した。
嘘をついているとバレたくて思い出さえも汚した。
彼奴はそれを分かった上で見逃してくれたんだろうか。
それとも本気で僕のことを見損なってしまったんだろうか。
 
ねえ。
僕は正しいかい?
よわっちくなるたび君のことを思い出す。
君ならなんて言うんだろう。
今からでも謝りなよって言うのかな。
それともそれでいいんだよって笑ってくれるのかな。
 
僕は笑えてるかい?
よわっちくなるたび君の名前を呼んでしまう。
君はきっとあの頃のままなんだろ。
それでもって「何よ、その顔」って僕をイジるんだ。
これでも前よりは上手く笑えてるんだぜ。
 
この手の夢から覚めるといつも少しだけ泣いている自分が情けない。
 
雨だった。
 
登校中の中学生が長いベンチの端っこに座って始発のバスを待っていた。
ワイヤレスから漏れているのは田舎の景色にそぐわない、最近よく耳にする男女ボーカルが特徴的なシティーポップ。
寝袋から両腕を取り出した僕と目が合うと彼女はニコリと笑った。
 
つられて僕も笑った。
人生はこんなもんだよ
と瞼を拭きながら恥ずかしそうに僕は笑った。
 
少し前の話だ。

<フルカワユタカ>
 

 
作詞作曲:フルカワユタカ
 
乗り遅れたバスの時間を 僕は一人眺めてたんだ
彼は僕の後ろに立って 黙って僕を見ていたんだ
そして何かを笑ったんだ 僕の何かを笑ったんだ
彼は確かに笑ったんだけど その何かに気づけなかったんだ
 
教えてダーリン 教えてよダーリン
僕も笑えるのかな?
 
行く先も何もわからずにこの道をずっと進むけど
とりあえずはここで次のバスを待つ
振り向けば君を思い出し少しだけ「ギュッ」とするけれど
とりあえずはここで次のバスを待つ
 
昨日彼奴と喧嘩れたんだ ささいなことで別離れたんだ
まるで覚えたての手品みたく 不器用な嘘をついたんだ
思い出したら笑えるんだ そして何かが変わったんだ
僕の何かが変わったんだけど 気づかないふりをしてるんだ
 
答えてダーリン 答えてよダーリン
僕は正しいのかな?
 
行く先も何もわからずにこの道をずっと進むけど
とりあえずはここで次のバスを待つ
振り向けば君を思い出し情けなく名前呼んだけど
とりあえずはここで次のバスを待つ
 
行く先も何もわからずにこの道をずっと進むけど
とりあえずはここで次のバスを待つ
 
バスを待つ



◆紹介曲「バスストップ
作詞:フルカワユタカ
作曲:フルカワユタカ
 
◆5th ALBUM『ファースト・ディケイド』
2022年10月5日発売
NIW158 ¥3,000(+税)
 
<収録曲>
1.Blues
2.BOY 2022
3.BREATH
4.変体
5.夢で逢いましょう
6.夏の鉄塔 2022
7.どうしたんだっけ
8.no one can play like me
9.デイトリッパー
10.フェアウェル