掬うことが救うことになることをこの作品で知った。

 2021年12月15日に“上野大樹”がニューアルバム『帆がた』をリリースしました。独特な空気を纏ったバラード「波に木」、今までにはないメロウなバンドサウンドを奏でる「朝が来る」、四つ打ちで心を高揚させるサウンドに包まれた「揺れる」、上野大樹の王道ポップス「航る」、情景を鬱陶しくもリアルなまでに思い浮かばせる「フィルム」。新曲の中にひっそりと佇む、ファンの中ではすでに人気曲でもある「白花」「アカネ」。 今の上野大樹を深く、そして広く知ることができる渾身の1枚となっております。
 
 さて、今日のうたコラムではそんな“上野大樹”による歌詞エッセイを3週連続でお届け!今回は第2弾。綴っていただいたのは、上野大樹の歌詞の軌跡のお話。本格的に音楽を始めた18歳の頃と今、変化した価値観とは…。自身が歌詞を書くとき大切にしていること、作詞の軸になっている想いを明かしてくださいました。是非、今作の歌詞と併せて受け取ってください。



第2弾:上野大樹の詞

ここ数年、詞をピックアップされることが増えた。自分の中ではまだその評価が不思議な感覚になる時がある。
 
上京して本格的に音楽を始めた18歳。目標に向かって何かをするというよりは、今を充実させたくて、とにかく大学卒業の22歳まで自分のことを詞に書き続けた。歌の中では壊滅的に常に自分が主人公であり、攻撃の矛先を探したり時には浸たったり、塞ぎ込んだ生活がそのまま歌になっていた。
 
その4年間、詞を褒められることは特になく、何なら「上野くんは詞がもっと書けたら良いのにね」とぽつりと言われることの方が多かった。そんな自分が今のようなライティングをするようになったのはいつだろう、と考えてみた。
 
大学卒業のタイミングで今の制作チームと出会った。東京での居場所がひとつ失くなったが、良く言えば自由になった当時。友達やその当時の恋人とも何故かこのタイミングで縁が切れた。出会いがあれば別れがあるとはよく言ったもので、今現在の繋がりがこの当時の出会い全てであり、その当時の別れがそれまでの自分の全てであった。
 
制作チームとの最初の作品は「青」だった。藁にもすがる思いで、何かを振り向かせたくて、多くの時間と思考を注いだ記憶がある。
 
作品を作る過程で、自分と同じ目線で意見を述べてくれて、心から納得して自分の意見に賛同してくれるという経験をこの時初めてした。作品を作ることが、自分の為だけではなく、リスナーやもしかしたら世の中の為になるのでは、と初めて思えた作品でありレコーディングであった。かなり省いて要約してしまったが、青はそれほどまでに今の自分に影響を与えた作品だった。
 
この制作を経て、作品が自分の気持ちを吐き出す場所から、誰かの気持ちを掬い出す場所となった。救うではなく、掬うだ。烏滸がましいものではなく、気付いてピックするという簡単な作業。掬うことが救うことになることをこの作品で知った。「ラブソング」や「て」はそんな経験を経たから出来た曲だと思っている。
 
改めて、自分の詞を今一度分析しても、今でもこれで大丈夫だろうかと毎回悩む。怖いもので、リリースをすると今後塗り替えることは余程のことがない限り無理である。
 
詞は恐ろしいほどに自分を象徴する。
メロディなんてどうとでもなる。ただ、詞は無理だ。
 
上野大樹の詞に普遍的なものを感じ、何かの救いになってくれてるとしたら、掬った意味があったなと思う。ただ、この作業も何かのきっかけで出来なくなる可能性がある。それは勘違いしてしまった時、奢りが出た時。調子に乗ったら、自分と周りとでズレが生じたら。そんな危機感を覚えながら毎日散歩をして色んな所に目を向ける。
 
詞は自分が見たものが全てだ。自分が感じたこと、思ったことが全てだ。正解だと思ったら、きっと誰かに間違いと言われても曲げることは出来ないと思う。性格的にも、、、
 
自分の詞がこれからも誰かの救いになれるように。掬えるほどの視点と心を持った人間を、まずは維持し続けたいと思う。その先に、更により個性となる上野大樹の詞が完成したら良いと思う。

<上野大樹>


◆ニューアルバム『帆がた』
2021年12月15日発売
ANXZ-25620 ¥3,300(税込)

<収録曲>
1.航る
2.波に木
3.白花
4.揺れる
5.朝が来る
6.フィルム
7.アカネ
8.彼方
9.リジー
10.合い着
BT.ラブソング(ライブバージョン)