ヒグチアイが、9月から3ヶ月連続で新曲をデジタルリリース!2021年9月8日にリリースされるのが第1弾「悲しい歌がある理由」です。すでにライブで多くのリスナーの琴線と涙腺に触れ、音源化が切望されていたピアノ弾き語りのこの曲。様々な場所で頑張って生きる女性の胸に深く刺さり、気が付くと痛みを少し軽くしてくれる…。言葉の力を大切にするヒグチアイの真骨頂と言える楽曲に仕上がっております。
さて、今日のうたコラムではそんな最新作をリリースした“ヒグチアイ”による歌詞エッセイを3ヶ月連続でお届け。今回はその第1弾です。かつて、自分の存在全てにコンプレックスを感じていた彼女。その生きづらさがほんの少しずつ変わっていったきっかけとは…? 新曲「悲しい歌がある理由」にも通ずる想い。是非、歌詞と併せて受け取ってください。
~歌詞エッセイ第1弾~
幼い私はピンク色が欲しかった。だけど他人と違う私でいたくてどんな時も青色を選んだ。そうしていたら青色が好きになって、ピンク色は似合わなくなっていった。私の本当の好きなものはなんだろう。
22歳の頃、ボイストレーニングの先生に「好きなものを身の回りにおけば個性になる」と言われ、その言葉に従い好きなものを集め始めたのはいいものの、好きなもの、という概念が私の中に存在しないことをその時初めて知って驚いた。
0歳から一緒の樋口愛と、18歳からシンガーソングライターとして活動し始めたヒグチアイが乖離し始めていた頃だった。なりたい私は、本当の私のことをいつも恥ずかしがっていた。あいつには何もない、と思っていた。いつも私を苦しめ、ちょっと近所へ行くのでさえも化粧や服がダサくないか、汚らしい格好をしていないか、においは、爪は、と自分の存在全てにコンプレックスを感じていた。31歳現在、最も生きづらかったのはこの時期だったと断言できる。
なんとなくよく食べている気がするカレー、読み始めればあっという間に時間が過ぎている漫画、そして唯一好きだと自覚のある梨。こんなもんでいいんだろうか、と思いながら、好きなものをカレー、漫画、梨に設定した。なんと!好きなものを決めたらコンプレックスがなくなりました!なんてことはなかった。
好きなものを決めてから、美味しそうな店を食べログで調べて朝から並びに行ったり、漫画にお金をかけていいことにした。入りづらい店も読みにくい漫画も、好きだというだけで挑戦した。それはつまり、私のためにお金を使う、時間を使うことを許すことだった。コンプレックスを隠そうとしていた時は、私のためのようで、誰かのためだった。誰かに嫌な思いをさせないためだった。
でも、好きなもののためにすることは、全て私のためだ。私のために私を使ってあげることで私の濃度が濃くなって、もともとは見たことのある色でも積み重なったらなんとも言えないオリジナルの色になるように、それが私だけの個性になるんだと知った。
最近、ピンク色の物が好きだ。スマホケースもポーチもカバンも財布も全部ピンク色だ。洋服もたくさん持ってる。似合わなくてもいい。だって、女の子だもん。じゃなくて、好きなんだもん。文句ある?
<ヒグチアイ>