閃いたフレーズが歌詞冒頭の<天が唾を吐いた>だった。

 2021年7月28日に“島爺”が5th Album『御ノ字』をリリースしました。6月~Netflixで全世界配信のアニメ『終末のワルキューレ』のEDテーマとなる「不可避」や、NHK特撮ドラマ『超速パラヒーロー ガンディーン』主題歌のほか、島爺のために7名の作家が書き下ろしたオリジナル楽曲が全9曲収録された待望の新作となっております。
 
 さて、今日のうたコラムではそんな最新作を放った“島爺”による歌詞エッセイをお届け!綴っていただいたのは、今作の収録曲「不可避」のテーマ決めからメロ作り&作詞までのお話です。神と人類の戦いを描いたアニメのED曲として書き下ろされたこの曲。現実世界でわたしたちにとっての「神からの攻撃」に近いものとは…? 是非、歌詞と併せてお楽しみください。

~歌詞エッセイ:「不可避」~

2021年6月からNetflixで開始されるアニメ『終末のワルキューレ』のエンディングテーマを任せていただけることになった。不勉強ながら原作を存じ上げなかったので買い集め、ただただ読む。ひたすら読む。何度も読む。

やばい。めちゃくちゃ面白い。

大雑把に書けば「神 VS 人類のケンカ13番勝負」。物凄い発想だし、それぞれのキャラクターが背負っているストーリーの描き方も丁寧。こりゃあアニメ化も楽しみだ。というか、Netflixで全世界に公開されてオープニングはマキシマム ザ ホルモンさん、エンディングは島爺。これはなかなか…下手こいたら死ねる案件だなぁ…、と覚悟を決めて制作開始。

アニメ本編では神と人が殺し合いをし、それを受けてのエンディングなので刺々しくヒリついた感覚を癒す雰囲気が必要だと考えた。壮大なレクイエムのようなものをイメージしながら大体のコード進行を作成。作ったことのない雰囲気だが意外と良さそう。イメージ通りに具現化できればかなり良い曲になる予感。予感だけですけど。

ここからメロと詞を書いていくわけだが、どうしたものか…。何か取っ掛かりはないものか…。

原作で印象に残ったのは「アダムの戦う理由」。気になったのは、現時点ではまだ詳細が明らかになっていない「ブリュンヒルデが人類を守ろうとする理由」。ブリュンヒルデのほうはまだ分からないので推測だが、どちらにも共通しているのは「何かを守るための戦い」ということだろうか。

しかしそれだけではまだテーマが朧気なので、何か他に無いかと再度原作を熟読。読んでいる内にふと「神様から滅亡を宣告されること」の残酷さが頭を過る。

神から言われちゃったら最早どうなったって悲劇だよなぁ…。普通は滅亡を受け入れるしかないだろうし。この作品のようにタイマン勝負ができたとして、仮に勝てたとしてもその先には「神を殺した・神のいない世界」に生きなければならない。どちらにせよ何かを失うことはもう避けられないのか。

と考えた辺りで、「現実世界で言うと、神々から宣戦布告されることってどういう状況だろう?」という疑問から「天災・自然災害」が思い浮かんだ。東北大震災の時TVで何度も見たあの津波の映像と、それを見ていた当時の絶望感。少なくとも僕が生きてきた人生の中で「神からの攻撃」と呼ぶのに最も近いものは、あの光景だった。

ここでやっとテーマが出揃った。ような気がした。「神々の攻撃(天災)から大事なもの(家族・人類)を守るために命を懸けて戦っている状態」をイメージしながらメロと詞を書いていこう。イメージさえ固まれば言葉は色々出てくるはず。大丈夫。過去、作ってきたものは全てそうだった。

ところがどっこい。

言葉は出てこない。正確に言うと、出てきてはいるが全くピンとこない。今まで作ってきたものと比べてスケールがデカすぎるのか。シリアスすぎるのか。とにかく全く納得できない。

納得できない理由もいまいち分からないまま、アコギでコードを弾きながら鼻歌を延々と歌いつづけた。「何か違う」「これじゃない」「こんなもん使えるか」とブツブツ独り言。日本語詞じゃダメなのか、とも思った。しかし生半可な英語詞では全世界公開に耐えられる気がしない。どうしよう。イメージを思い浮かべながらただただアコギをつま弾く日々。何か思いつけ。俺。

そんな日々の中、不意にメロディと同時に閃いたフレーズが歌詞冒頭の<天が唾を吐いた>だった。

恐らく、序盤で曲の世界観・スケール感を提示したいのに、それらしい言葉を使うとわざとらしくとってつけた様に聴こえてしまい、それ以降の言葉が紡げなくなってしまっていたんだろう。

<天が唾を吐いた>は、原作冒頭の人類存亡会議をそのまま表現できているし、「天に」ではなく「天が」にすることでフックが効いている。おまけにスケール感も示せているのですんなり曲の世界に入ることができる。助かった。これで言葉を紡げる。

事実、このフレーズが出てからは早かった。原作で印象的だった「人間よ 祈るのはおやめなさい」のシーンも少し変化させて入れられたし、絶望感も悲壮感も、覚悟も入れられた。

作詞の段階で鳴っていてほしい音のイメージも浮かんできたので、それに近づけるようデモを作成。ピアノの低音とかTrap的なハイハットチキチキとか。それを編曲のナナホシ管弦楽団大先生に聴いてもらい編曲が始まっていくわけですが、それはまた別のお話。

今回は島爺の曲作り『「不可避」のテーマ決めからメロ作り&作詞』までを読んでいただきました。ありがとうございました。また機会があれば、是非。

<島爺>

◆紹介曲「不可避
作詞:島爺
作曲:島爺