このどん底にいる自分に少し手を差し伸べたいと思った。

 2021年2月10日に“Hakubi(ハクビ)”が新曲「在る日々」を配信リリース。彼らは、2017年京都にて結成されたスリーピースバンド。今年1月8日オンエア、日本テレビ『バズリズム02』の“これバズ2021”にて13位にランクイン!テーマに「大人になりきれない、明けない夜に光を指す音楽を。」を掲げ、切なくも激しい音楽をかき鳴らす彼らの最新作をじっくりご堪能あれ…!
 
 さて、今日のうたコラムではそんな最新作を放つ“Hakubi”の片桐(Vo.)による歌詞エッセイをお届けいたします。綴っていただいたのは、自身の作詞法と新曲「在る日々」のお話です。この曲のカケラが生まれたときのこと。そのカケラが時を経て、曲になろうとしてゆくときのこと。是非、歌詞と併せて、エッセイを受け取ってください。

~歌詞エッセイ:「在る日々」~

はじめまして。Hakubi vo./gt.片桐です。
初めてエッセイなるものを書かせて頂いています。
自分にかけるのだろうかと不安になってきましたが、
楽しく書かせていただきます。
拙い文章ですが、お付き合いください。


私の基本的な制作方法は、メロディを先につけて、それに歌詞をつける“曲先”でも、歌詞を先に作って、それにメロディをつける“詞先”でもなくて、ギターで好きなコードを弾きながら、思いついた言葉に音をつけていく“声日記”みたいな感覚。

同じ日の同じコードでも、毎回メロディも言葉も違ってくるから、iPhoneのボイスメモで録音するのは欠かせない。気がついたら1時間録音し続けている時もあって、後から自分が何を言っているのか解読して書き起こすのがとにかく大変。

このやり方だと一人言もちゃんと録れてしまっているので、改めて聴き直すと恥ずかしいようなものがいくつもあったり、その時の感情のままが入ってることで、思い出したくないようなことまで思い出したりしてしまうこともある。だからこそ、1曲が完成した時の達成感はすごく大きい。

そんな日記のような去年2月か3月のボイスメモが、今回の新曲「在る日々」の基になっている。そのボイスメモは1番しかなくて、現在のフルバージョンでもその歌詞とメロディがそのまま使われている。

聴いていただいた方は分かる通り、どん底にまで落ちきった気持ちになった最悪な朝の話。自分がその日、体験して思ったことをそのままぶつぶつと歌に残した。当時、このボイスメモを基にバンドアレンジを加えようとしたものの、この後に続く歌詞もバンドアレンジもうまくいかず諦めてしまった。

私がこの続きを書けなかったのは、あの時の自分の気持ちに戻れなかったからだった。実際、最初のバンドアレンジの際に、当時の気持ちに戻ったつもりで書いた続きの歌詞は嘘っぽくて歌えなかった。それに、どうしようもないほど迫られていたあの時の自分に失礼だと思った。


そんな曲が現在の形になったのは去年の11月。新曲を作ろうという話になって、そういえば…と、このボイスメモの話になった。私はバンドアレンジを諦めてからというもの、なかったもののようにしてそのボイスメモを一度も聴いてこなかった。

改めて聴いてみた時、今の一歩進んだ自分から、このどん底にいる自分に少し手を差し伸べたいと思った。今ならこの続きがかけるような気がした。すぐに書きたいことが浮かんだ。

きっとそう思えたのは、周りに当たり前にあった小さな幸せや優しさに気づけるようになったからだろう。

例えば、朝コンビニの店員さんに「いってらっしゃい」と言われたこと、目の前に座っている小さな子供が笑いかけてくれたこと、急に昔の友達から連絡が来たこと、帰り道とても綺麗な夕日を見たこと。

そんな些細なことが、何かを抱えこんで押しつぶされそうになっている気持ちを少し軽くしてくれていた気がする。もっともっと大きな不安で覆いつくされて、それどころではないのは、重々承知の上でこの曲を書いている。本当にすこしだけ、一瞬だけでも小さな幸せや優しさに気づいてほしい。肩の荷を軽くする、自分にすこし優しくなれる、小さな気づきのきっかけになってほしいという思いをこの曲に託した。

私は自分がいなくなってしまったら悲しいと思ってくれる人のことを、思い浮かべると生きていかなければいけないと思うことができる。あなたが生きていることを誰かのせいにしてもいいと思う。あなたが生きていることを音楽のせいや、この曲のせいにしてもいい。繰り返すそれぞれのある日々が小さな幸せで溢れますように。

読んでくれてありがとうございました。

<Hakubi gt./vo. 片桐>

◆紹介曲「在る日々
作詞:片桐
作曲:Hakubi