でも振り返ることに、甘えてはいけない。

 2019年12月25日に“いきものがかり”がニューアルバム『WE DO』をリリースしました。2017年1月に“放牧”宣言をして活動休止した彼らが、2018年11月に“集牧”し、活動再開して以来、初のCDリリースとなる今作。オリジナルフルアルバムとしては、2014年に発売した『FUN! FUN! FANFARE!』以来、5年ぶりとなる、待望の全13曲入り作品です。

悲しみを抱きしめて それでも冬を越えて
春を待つひとにこそ 幸せはくるんだと
君は信じてたんだ だから僕も信じた

さよなら
さよなら
僕らの青春
「さよなら青春」/いきものがかり


 さて、今日のうたコラムでは、こんなフレーズから幕を開ける収録曲さよなら青春をご紹介いたします。作詞作曲は水野良樹。青春とは、夢や希望に満ちた、活力みなぎる時代を人生の春にたとえたもの。できることなら、その眩しい日々にいつまでも留まっていたいし、その時間を一緒に過ごしてきた<君>のそばにずっとい続けたいですよね。

 でも、同じ春が永遠には続かないように、青春もまた然り。ときには、物語の先に進むため、譲れない何かを追いかけるため、ともに<春>を待ち続けたひとの手を離してでも、さよならという<悲しみを抱きしめて それでも冬を越えて>いかなければなりません。この歌ではそんな“別れ”を選択した<僕>と<君>の姿が描かれているんです。

今年もまた東京で 春を迎えるのかな
少し肌寒いけど 桜も咲き始めた
電車から見えている 綺麗なビルの群れに
いつからか 慣れている 自分がいる

改札を出てすぐに 忘れものに気づいた
困るわけじゃないけど 小さく舌打ちする
からかうように晴れた 青空を見てたら
なぜだろう 君のこと 思い出す


 続く歌詞から、<僕>はずいぶん“ふるさと”には帰れていないであろうことが伝わってきます。愛する<君>と別れ、故郷の駅を離れ、初めて“東京”の<改札>を出たあの日から今日まで、何度も<春を迎え>ながら。あの頃は違和感があった<電車から見えている 綺麗なビルの群れ>にも<慣れ>ながら。なんとか今を生きているのです。
 
 だけど、いくら新しい<春を迎え>ても、どんなに環境や心境が変化しても、忘れられないのが“人生の春=僕らの青春”です。それは、たとえば<改札を出てすぐに 忘れものに気づいた>ようなふとした瞬間に思い出されるのでしょう。忘れものをしがちだった<僕>を、からかっていた<君>のあの笑顔。すると、なんだか自分は大切なものまで“ふるさと”に忘れてきてしまった気がしてくるのではないでしょうか。

今だけを生きて
今だけを生きて
それぞれの未来は もう違う空

物語は続くよ さよならばかり置いて
心だけがいつでも 時から遅れていく
でも振り返ることに 甘えてはいけない
だからもう 今日だけを 懸命に

「また会えたらいいね」と 最後に君は言った
あの日の写真はまだ アルバムに挟んでいる
見てしまえば泣くから まだ開いてはいない
僕だけが この今を生きている


 それでも、きっと<僕>は“ふるさと”に戻りはしないはず。帰れないのではなく、帰らないのです。<心だけがいつでも 時から遅れていく>し<あの日の写真はまだ アルバムに挟んでいる>けれど、<それぞれの未来は もう違う空>だとわかっている。だからこそ<振り返ることに 甘えてはいけない>と、涙を堪え、胸の内でそっと<君>の「また会えたらいいね」をお守りにしながら、今だけを懸命に生きるのです。

君と出会えたことを 君を愛したことを
忘れはしないだろう 忘れられないだろう
物語は続いて いつまでも続いて

さよなら
さよなら
僕らの青春

悲しみを抱きしめて それでも冬を越えて
春を待つひとにこそ 幸せはくるんだと
君はそう言ったんだ 僕はそれを信じた

さよなら
さよなら
さよなら
 

 今、自分がここで止まってしまってはいけない。だって<君と出会えたことを 君を愛したことを>悲しみで終わらせたくないから。かけがえない<僕らの青春>から続いている物語を進めていきたいから。そうして<君>が言った言葉を、今でも信じながら、幸せに向かっていくのでしょう。最後に繰り返される<さよなら>には、前を向く決意と共に、それぞれの幸せを祈る気持ちも込められているのだと思います。
 
 卒業の季節が近づいているこの季節。是非、いろんな想いを重ねながら、いきものがかり「さよなら青春」を聴いてみてください。

◆紹介曲「さよなら青春
作詞:水野良樹
作曲:水野良樹

◆8th ALBUM『WE DO』
2019年12月25日発売

<収録曲>
1 WE DO
2 SING!
3 スピカ~あなたがいるということ~
4 STAR LIGHT JOURNEY
5 アイデンティティ
6 あなたは
7 太陽
8 きみへの愛を言葉にするんだ
9 しゃりらりあ
10 try again
11 さよなら青春
12 口笛にかわるまで
13 季節