wacci

自分が好きだった頃のあの人は、もうこの世界のどこにもいないんだ。

 2019年12月4日に“wacci”がニューアルバム『Empathy』をリリースしました。彼らは、2018年8月にリリースした配信曲別の人の彼女になったよがロングヒット中。YouTubeでのMV総再生回数は1700万回突破、そのコメント欄によせられた恋愛エピソードは10,000件を超え、配信から1年以上経った今もなお、話題になり続けております。

 さて、実はそんな人気曲「別の人の彼女になったよ」のアンサーソング的存在となる新曲が、今作『Empathy』に収録されているんです。タイトルは足りない。そこで、今日のうたコラムでは前作エッセイに続き、ボーカル・橋口洋平本人による最新歌詞エッセイをお届け!wacciにとって2作目となる“女性目線”のこの歌。一体、どのように生まれたのか。そして、どんな想いが描かれているのか。歌詞と併せて是非、最後までご堪能ください…!

~「足りない」歌詞エッセイ~

 去年リリースした曲にも関わらず、今年になってから凄い勢いで広がってくれた、僕らwacciの「別の人の彼女になったよ」。以前この歌詞エッセイでも書かせてもらったように、リリースしたものの中では初めての女性目線の歌詞で、出来た当初から賛否両論あった、問題作とも言える一曲だ。

 ただ賛成も否定もものすごい熱量で存在していたことから、この曲には何かあるのではないかという話になり、リリースに至った。結果として、YouTube・サブスクリプションなどで合算すると数千万以上の再生数を稼ぎ、また多くの人に弾き語りやカラオケなどで歌われるなど今やバンドとしても、ライブでは欠かせない代表曲となった。

 さて、この広がりを受けて、次作を作るにあたり、こちらに降ってくる話はこうだ。「別の人の彼女になったよのアンサーソングを…」。当然である。YouTubeのコメント欄や、SNSに寄せられるメッセージの中にもありがたいことにアンサーソングを期待する声をたくさん頂いている。

 僕自身、やはりこの曲に何らかの形でリンクしてくる曲をもう一つ書きたい。そう思い、一度目の47都道府県ツアーを終えた今年の4月からレコーディングまでの期間、それはもう必死で楽曲制作をした。

 しかし、一度世に出て広がった歌の力はものすごいものがあり、もはや僕個人の歌ではなく、誰かの歌としてしっかり役割を果たし始めてくれたこの曲に対して何か一つ答えを提示するような、いわゆる「アンサーソング」と呼ばれる類のものは、なかなか納得できる形で書ききることができなかった。

 それでも出来ないじゃ済まされない。主観じゃもはやわからないので、ディレクターやスタッフ・メンバーなど客観的な目を持つ人に判断を煽る前提でとにかく数を書いた。恐らくこのテーマだけで10曲くらいは書いていると思う。

 その中で、同じ「女性目線」で、「切なく」て「アンサー」とまではいかないけど、サイドストーリー的な立ち位置で、届いていくんじゃないかという結論に至ったのが「足りない」という曲だ。

********

 この歌は2作品目の女性目線という部分はもちろんだが、それ以上に「別の人の彼女になったよ」に似た質感を持っていたことが、今回のニューアルバム『Empathy』に収録されるに至った大きな理由だったと思う。

幸せのカスを舐めて まだ味がしたから泣いた
ゆうべ急いで片づけた部屋に 散らかったあなたの匂い


 この冒頭2行を書いた時に、まるで映画の最初のワンシーンみたいに、一気にその情景と、主人公の、またその相手のキャラクターが明確に浮かんできて、歌はそこをスタート地点にして書いていった。

 別れてからもズルズルと引きずっている関係。彼は自分が好かれていることに甘えて、自分の都合がいい時だけ連絡を寄こし、会いに来る。主人公の女の子は、それでも好きだから嬉しくて、受け入れてしまう。別れているのに。翌朝、彼がドアを出て行った後に押し寄せてくる、致死量の寂しさ。
 
 そこで感じる、出口の見えないこの関係に

今度こそちゃんと さよならをしよう
あなたを終わらせなきゃ
私を始められないから


********

 なお、2番以降は、別れの理由や、お互いの人となりを掘り下げつつ、こんな歌詞を書いた。

「幸せになってね」 なんて あの時私は言えたのに
ゆうべも探ってしまってた その知らない誰かの影を

あなたが言うには私に 何かが足りないんじゃなくて
その人に足りないから 守りたくなるんだって


 この主人公は、仕事もそれなりに出来て、普段の生活もちゃんとしてて、なんでも一人で抱え込んで頑張ってしまう分、上手に人に甘えることが苦手で、結果として「おまえは俺がいなくても大丈夫じゃん」と言われてしまうタイプ。彼はそんな彼女の心まで見ることが出来ず、自分の理想の形で自分を頼ってくれる人のところへいってしまった。

 そんな現実を前にこの主人公は、以下の気持ちをこぼす。

見る目がないな あなたは
見せ方が下手だな私は
どうでもいいや


 曲の最後は
 
私が好きになった あなたはこの世界にいないし
あなたが好きになった私も もういなくなるよ


 と締めくくった。失恋した時、こう思えたらいいのにと常々思う感覚。

 「あの人」がまだ好きなのではなくて、「あの頃のあの人」が好きなんだと。自分が好きだった頃のあの人は、もうこの世界のどこにもいないんだと思うことで、少しの希望と、強がりに似た強さを出せたらと思った。そして私も、あなたと一緒にいた頃の私ではなくなる。そろそろ未練を断ち切って、前を向くよと、叫ぶように。

********

 僕の持論だが「恋愛において、さよならは二度ある」と思っている。一度目は別れた時、二度目はその人のことを忘れられた時。この一度目と二度目の間のやりきれなさ、苦しみ、相手を想う気持ちが失恋においてきっと歌にすべき部分だと信じている。

 二度目のさよならという出口に向かって前を向こうとするこの歌が、「別の人の彼女になったよ」という曲と同じように、今まさにこういう気持ちでいる人の心に寄り添えたらと思うし、同じような経験を持つ誰かに、懐かしい気持ちになってもらえたら、冥利に尽きる。

 またこの歌も1年以上かけて広がっていくことを願って、地道に毎日、各地で、歌を届けていこうと思う。

<wacci・橋口洋平>

◆紹介曲「足りない
作詞:橋口洋平
作曲:橋口洋平

◆4th Album『Empathy』
2019年12月4日発売
初回生産限定盤A ESCL-5320~22 ¥4,600(税込)
初回生産限定盤B ESCL-5323~24 ¥3,600(税込)
初回生産限定盤C ESCL-5325~26 ¥3,600(税込)
通常盤 ESCL-5327 ¥3,100(税込)

<収録曲>
1.「Baton」
2.「坂道」
3.「東京ドリーム」
4.「足りない」
5.「三日月」
6.「太陽みたいに」
7.「どうかしている」
8.「結」
9.「ピント」
10.「元カノの誕生日」
11.「ここにいる」
12.「今日の君へ」
13.「Buddy」
14.「別の人の彼女になったよ」(bonus track)

このトピックをシェアする
  • LINEで送る