苦しいんだよ、君が思う私でいるのは、苦しいんだよ。

 2019年10月9日に“THE SxPLAY(菅原紗由理)”が新曲「漂流」を配信リリースしました。みなさんは、好きな相手に好かれたいと思うがあまり、相手の理想通りの姿を演じていることはありませんか? 恋愛でも、仕事でも、友人関係でも、本当の自分を押し殺していることはありませんか? 今日のうたコラムではそんな<私>を描いた1曲をご紹介。

剥げかけの不細工なネイル
死んだ魚の鱗みたいに無惨に光る
君のため 自分を繕うのに疲れてしまったんだ
それなのに 君が望む答えを今日も探してる

なぜ? また 私
彷徨い気づけば終わりも見えずに
いつの間に氷も溺れたアイスティー
自分を騙すように 無駄に笑ってみせることしか
私にはできないのかな?
「漂流」/THE SxPLAY(菅原紗由理)


 ふと、爪を見つめてみると、少し前に綺麗に塗ったはずの<ネイル>が<剥げかけの不細工>になっていることってありますよね。日々、忙しさで“心が亡くなって”いたりするせいで。おそらくこの歌の主人公である<私>も“心が亡くなっている”状態なのでしょう。ただし、その理由は<君のため 自分を繕うのに疲れてしまった>からです。

 ネイルをはじめ、ずっと<君のため>に繕ってきた容姿、思想、感情、表情、自分のすべて。それでもまだ「好き」が勝っていた頃は<君が望む答え>を差し出すことさえ、輝いて感じられたのではないでしょうか。自分という“流れ”に逆らって、傷つきながら泳ぐ<魚の鱗>みたいにキラキラと。でも、そんな偽りの毎日は長くは続けられません。
 
 もう「好き」だけじゃ<君のため 自分を繕うのに疲れて>しまって、<剥げかけの不細工なネイル>を塗り直す気力も残っていないほどボロボロで。だけど<自分を騙すように 無駄に笑ってみせることしか>できなくなっていて、<氷も溺れたアイスティー>のように個性のぼやけた自分になっていて。進むことも戻ることもできずにいるのです。

やめる理由が見つからなくなっちゃった
私は君に 言われるがままぷかぷか浮かぶ船
耐える理由も忘れてしまったんだ
流されるまま 変わらぬまま
自分の舵を取れる日がくるの?
「漂流」/THE SxPLAY(菅原紗由理)

やめる理由が見つからなくなっちゃった
私は君に 言われるがままぷかぷか浮かぶ船
でも それじゃ何も変わらないままなんだ
暗闇に 漂いながら
自分の路を探しているの
「漂流」/THE SxPLAY(菅原紗由理)


 そしてサビでは、あてもなく『漂流』するだけの<私>の姿が見えてきます。<自分を繕う>のを<やめる理由>も<耐える理由>もわからなくて、とりあえず<君に 言われるがままぷかぷか浮かぶ>ことでボンヤリ今を生きているのでしょう。では、どうして<私>は「好き」が<耐える理由>じゃなくなっても<変わらぬまま>なのでしょうか。

 きっと<私>が恐れているのは<君>に嫌われることではありません。好かれたくて、自分を演じていたときもある。しかし、今はそれより<君>を失ったあとの<私>に自信がない。見えない<暗闇>で一人になるほうが怖い。だから、とりあえず変わらないままでいることを選んでしまっているのです。ただ一方で、心のどこかにいつもあるのは“変わりたい”という想い。その想いは歌が進むにつれ、強くなってゆきます。

こんなにも不細工なネイル
全て剥がしてしまって この手で嘘も引き裂いて

どうしたらいいか 心ではわかっていたんだ
傷つきたくなくて 言われるがままばかり選んだけど
思い切り涙流したって 私らしくいたいんだ
立ちすくむ 波の向こう
風に乗り 帆を高く上げて
自分の舵を掴んでみるよ
「漂流」/THE SxPLAY(菅原紗由理)


 歌の終盤。主人公が選んだのは<不細工なネイル>を塗り直すことではなく、<全て剥がしてしまって>素の自分になること。まだ<自分の舵>をうまく操ることは難しいでしょう。でも、失いかけていた自分の心は今、<思い切り涙流したって 私らしくいたいんだ>と、<自分の舵を掴んでみるよ>と、確かな意思を持っているのがわかりますね。
 
 確信も自信もなくて怖いけれど、何が待っていたとしてもそれは<自分の舵>でたどり着いた場所。自分で作り上げた人生の路。それは<言われるがまま>の毎日よりずっとずっと濃いであるはずです。誰かのために自分を繕っているあなた。変わりたいけれど、変われなくて嘆いているあなた。是非、THE SxPLAY(菅原紗由理)の「漂流」を聴いてみてください。その日々が、少しでも動き出しますように…!

◆紹介曲「漂流
作詞:THE SxPLAY・佐伯youthK
作曲:THE SxPLAY