差し伸べられる手(ぬくもり)

BLUE ENCOUNT
差し伸べられる手(ぬくもり)
2025年7月16日に“BLUE ENCOUNT”がニューシングル『BLADE』をリリースしました。タイトル曲「BLADE」は、“YAIBA”完結から約30年の時を経てTVアニメ化された『真・侍伝 YAIBA』のオープニング・テーマとなっており、アニメの世界観をBLUE ENCOUNTなりに表現した疾走感溢れるロック・ナンバーです。 さて、今日のうたではそんな“BLUE ENCOUNT”の田邊駿一による歌詞エッセイをお届け。綴っていただいたのは、新曲「 BLADE 」にまつわるお話です。怖さを知らないからできたこと。怖さを知ってできなくなったこと。その先にある気づきとは…。ぜひ歌詞と併せて、エッセイを受け取ってください。 「赤ちゃんって泳げるらしいぜ!」 中学時代のことだった 同じクラスの友達が自分のカバンから取り出したNIRVANAの『NEVERMIND』を自慢げに掲げながらそう言った。 その言葉になぜか興味をひかれた私は居ても立ってもいられず、放課後の図書館で人体の構造や可能性について書かれた書籍を何冊も読んだ。 ~生後間もない赤ちゃんは水に顔をつけると 自然に息を止め、手足を動かして前に進もうとする反射を持っている~ とある書籍にこういった旨の事柄が記されていた。 なるほど、アイツが言っていたのはこのことか。 時を経た今、思うことがある。 もしかしたら、 人間は恐怖という概念を持ち合わせず生まれてくるのではないか。と。 知らないからこそ、件の反射行為を無邪気にできたのかもしれない。 そういう意味では自分もそうだったな。 幼き頃、水遊びが大好きで浴槽で毎日素潜りごっこしていた自分 幼き頃、虫が大好きで四六時中採集に明け暮れていた自分 幼き頃、人が大好きで誰彼かまわず「友達になろーよ!」と学校中を駆け回っていた自分 脅威など何もない。 無知だからこそ無敵。なんでもできた。 その幸せだけで十分だったのに 恐怖とやらは突然出会いを強要してくる あの日、浴槽の湯で溺れかけた瞬間から水が怖くなった あの日、蜂に顔を刺された瞬間から虫が怖くなった あの日、クラスメイトたちから無視された瞬間から人が怖くなった 無邪気に生きるほどに 恐怖という絶望は心を締め付け 何度も私たちを濁流へ放り投げてくる しかし 時を経た今、思うことがある。 抗えぬ恐怖に出会えど その隣には差し伸べられる手(ぬくもり)もある。と。 浴槽で泣きじゃくる私をずっと抱きしめてくれた母 蜂刺されの傷を消毒しながら「大丈夫、お前は強い」って言ってくれた父 「他のヤツが無視しても俺はお前の味方だから!」と言いながら赤ちゃんが泳ぐジャケのCDを貸してくれたアイツ 悲しみを覆ってくれた優しさに何度助けられただろうか 大人になっても変わらない。 まだまだ数多の恐怖に出会い、 濁流に私たちは何度も放たれる。 あの頃はその水中でずっと溺れていたけど、 今はちゃんと息を止めて、手足をしっかり動かして前に進もうとしている自分がいる。 もう反射的にやっている行為ではない。 あの日大切な人たちが差し伸べてくれた手(ぬくもり)が、私に泳ぎ方を教えてくれたんだ。 <BLUE ENCOUNT・田邊駿一> ◆紹介曲「 BLADE 」 作詞:田邊駿一 作曲:田邊駿一 ◆ニューシングル『BLADE』 2025年7月16日発売