君が死んだのはもう随分前の冬、僕の体もずっと小さかった冬…。

沖ちづる
君が死んだのはもう随分前の冬、僕の体もずっと小さかった冬…。
現在21歳のシンガーソングライター・沖ちづるが、2月15日に1年ぶりとなるミニアルバム『僕は今』をリリースしました。今作に収録されているのは、まるで短編小説のような全5曲。彼女の視点から様々な“時間”が描かれております。以前、うたコラムでは先行デジタル配信&歌詞先行公開されていた「僕は今」と「向こう側」をご紹介しましたが、残りの3曲も多くの方に読んでいただきたい歌詞ですので、ご紹介いたします。 君が死んだのはもう随分前の冬 僕の体もずっと小さかった冬 僕と君はそこまで仲良しってわけでもなくて 目が合えば話すくらいのクラスメイト 「クラスメイト」/沖ちづる 3曲目の収録曲で切り取られている“時間”は、子どものころ亡くなってしまったクラスメイトとの過去と、その子よりずっと大人になった僕らの今です。よく、人間には二回の死が訪れると言いますよね。一度目は、肉体が死んでしまったとき。二度目は、誰からも思い出されなくなったとき。でもこの歌の<君>は、<僕>の記憶のなかでちゃんと存在していることがわかります。ただし「亡くなった君の分まで生きていかなきゃ」というようなメッセージのものではないんです。 僕らはもう大人になったよ 君よりずっと大人になったよ この前みんなでお酒を飲んでさ 君も居たらきっともっと面白かっただろうな 何してる 調子はどうだい ああもう死んでんだな 笑って過ごしてる どこにいるの 僕らを見てるの まだまだ会えるのは きっともっと先かな きっとずっと先かな それまではお元気で 「クラスメイト」/沖ちづる 主人公にとって<君>は、むしろあの頃よりもずっと色濃く生きているのです。しかも、この歌は<僕ら>ではなく、肉体は死んでしまった<君>の“生”にスポットライトが当たっています。最後の<それまではお元気で>というフレーズなんて、まるで今もどこかの街でその子が笑って過ごしているかのようです。いえ、実際にそんな感覚なのでしょう。しかし、どうして<僕>はそこまで仲が良いわけでもなかった「クラスメイト」に“今”になって思いを馳せているのでしょうか…。 二人のことを思い出す度に 過去にすがるなと周りは言うけれど だけど今こそはすがらせて欲しい 全てが乾くその前に ただ少しだけ今日ばかりは ひとつ願いを聞いてくれ頼む らしくはないが君と会って 馬鹿な話をしたいんだ頼む そうだな君を思い出してたら なんだかなぜかやれそうだなんて ほら適当なことも言えるのさ そうだな君に会いに行きたい 「メッセージ」/沖ちづる 4曲目の収録曲で切り取られている“時間”は、僕ら二人の過去と今です。「クラスメイト」のように相手が亡くなっているわけではないようですが、もう会わなくなった関係という点では通じています。さらに、歌詞の中には月日が経ったことによる“変化”を描くフレーズや、<君はどうだい>という問い掛けもあり、そこも先ほどと似ております。もしかしたら、どちらの曲の主人公も“過去”に<今こそはすがらせて欲しい>ような現状なのではないでしょうか…。そう考えた上で、最後の収録曲に注目してみます。 桜もいつの間に散っていて 見上げる前に散っていて 忙しなく動く日々へ言い訳 私もこのまま散ってゆくのか 「あなたは真面目に生きてきたのね」 占いのおばさんは自信ありげに 一万円で買った一時間 馬鹿みたいだと自分を責めた うつろいゆく景色に捧ぐ もう少しだけゆっくり うつろいゆく君に捧ぐ もう少しだけ、私を 「うつろいゆく者たちへ」/沖ちづる 実は、この3曲に通じているのは<私もこのまま散ってゆくのか>という焦燥や<うつろいゆく景色に捧ぐ もう少しだけゆっくり>という想いなのかもしれません。自分が周りの“変化”に追いつけなかったり、“今”に不安や空虚感を抱いているときって『ちょっと待って…』そんな気持ちになりますよね。そういえば、以前ご紹介したアルバム収録曲の「僕は今」と「向こう側」も変わりたいけど変われない主人公の“今”が不安定に揺れておりました。 だからこそ「クラスメイト」や「メッセージ」のように“過去”を見つめるのでしょう。人がふと何かを思い出すのは『昔は良かった、昔に戻りたい』と思うときか、もしくはその過去の思い出を支えや原動力にしてなんとか歩き出したいとき…。そして、沖ちづるが描きたいのはおそらく後者なのだと思います。前に進みたい、変わりたいのです。<うつろいゆく君に捧ぐ もう少しだけ、私を>…そのあとに続くであろう言葉は『待って』ではなく『前に押して』なのです。 何かが上手くいかなくて立ち止まってしまっているという方。そういう自分が嫌でどんどん自信がなくなっているという方。是非、沖ちづるのニューアルバム『僕は今』を聴いてみてください。自分は今どうしたいのか、昨日より少しクッキリと見えてくるかもしれません。 ◆2nd Mini Album「僕は今」 2017年2月15日発売 XNDC-30046 ¥2,315+税 <収録曲> 1 僕は今 2 向こう側 3 クラスメイト 4 メッセージ 5 うつろいゆく者たちへ