終わりがあるから美しいなんて、あの時、言わなきゃよかったな。

山根万理奈
終わりがあるから美しいなんて、あの時、言わなきゃよかったな。
2019年3月6日に“山根万理奈”がニューアルバム『愛の me』をリリースしました。今日のうたコラムでは、今作から切ない夏の思い出を描いたラブソング「祭りのあと」をご紹介。タイトルの【祭りのあと】とは、楽しい時間が終わって興奮から醒めてしまった、淋しさや静けさを表す言葉です。歌詞には、まず“祭り的”時間が描かれてゆきます。 「歩くスピードより、 足を止めるタイミングが 同じだといいな。」って君は言ってた よくわかんない~ って僕は笑った 「夏が過ぎていくね。 今年は遠くの祭りへ行こう! たまにはいいよね?」って君は言ってた 二人でいればそれでよかった 「祭りのあと」/山根万理奈 ひとつの恋の“祭り的”時間。まだ楽しさの中にいた頃。それが冒頭で、回想として綴られているんです。だからワードは<言ってた>や<笑った>と、すべて過去形。しかし<二人でいればそれでよかった>はずなのに、のちに彼らは離れてしまうことに…。実はその原因はもう、この何気ない会話のやり取りのなかにも潜んでいる気がしませんか? 最初のすれ違いは、スピードの話のとき。きっと<君>はこれを人生になぞらえて話していたのでしょう。たとえば、向上心も、好きの大きさも、未来を考える速度も、それぞれ違っていい。だけどあまりに“ズレ”すぎてしまったときは、お互いそれに気づいて<足を止める>ことで修正できたら。そんなことを伝えたかったのではないでしょうか。 もしかしたら、すでに生じている“ズレ”を匂わせていたのかもしれません。しかし<僕>は深く考えることもせず、適当に笑ってやり過ごしました。さらに「今年は遠くの祭りへ行こう!」という提案にも<君>が抱いていた、マンネリ感、不安、不満を感じます。一方の<僕>は、愛が冷めていたわけではなくて<二人でいればそれでよかった>だけなのですが、<君>は懸命に温度差を埋めようとしていたように思えるのです。 終わりがあるから美しいなんて あの時 言わなきゃよかったな 港神戸 都会の花火は すごく派手で君は喜んでた なのに 帰り道 変に静かで すこし寂しそうな横顔 気づかないふりをした 「祭りのあと」/山根万理奈 そして歌詞はふと、回想から今の感情へ。かつての会話を脳内再生していた<僕>は、やっと<君>の本心にたどり着いたのでしょう。あの時の<君>に「終わりがあるから美しい」なんて言うことが、どれだけ残酷だったか。的外れだったか。また、本当は<変に静かで すこし寂しそうな横顔>から何か感じるものもあったはず。それなのに<僕>は向き合うのを避け<気づかないふり>をした…。手遅れな後悔が伝わってきます。 「光るプラスチックの指輪くれたら 嬉しいかも。 泣いちゃうかもね!」 って君は笑った 馬鹿みたいだ って僕は黙った ちゃんとしたものをあげるから 手と手離さないで って言えばよかったな 「祭りのあと」/山根万理奈 歌の後半では、いっそう大きなすれ違いが。<光るプラスチックの指輪>を欲しがった<君>はどんな心境でいたのか。もちろん二人の未来をもう少し考えてほしいという気持ちもあったことでしょう。そんなオモチャの指輪でも嬉しくて泣いちゃうくらいに、最近は何もしてもらえていなかった淋しさもあったことでしょう。 でも何より、久々のこのお祭りデートを<僕>と思いっきり楽しみたかった。そんな<君>に対して<馬鹿みたいだ って僕は黙った>のです。おそらくこのお祭りの会話を含め、いろんな面で<君>は少しずついろんなことを諦めていったのではないでしょうか。その結果<ちゃんとしたものをあげるから 手と手離さないで>という<僕>の想いは“あとの祭り”になってしまいました。 港神戸 海辺の花火は 人だかりで僕は疲れていた いつも 河川敷 近所の花火を 寝転んで見るのが好きだった 君が好きだった 港神戸 都会の花火は すごく派手で君は喜んでた 僕はひとりきり夏を過ごしてる 忘れられないな横顔 ひどく綺麗だったんだ 「祭りのあと」/山根万理奈 港神戸、海辺の花火。これからも<僕>は<ひとりきり>で何度もあの日を思い出すのでしょう。言い訳したり、後悔したり、たらればを考えたり、胸に焼きついたままの<ひどく綺麗>な横顔を恋しく思ったりしながら「祭りのあと」に浸るのです。眩しく美しい残像が消えるには、まだまだ時間がかかりそうです…。 そして、わたしたちも<あの時 言わなきゃよかったな>、<言えばよかったな>といつか思い出迷子にならぬよう、何気ない会話を大切にしていきたいですね。是非、山根万理奈「祭りのあと」を聴きながら、大切なひととの最近のやり取りを思い出してみてください。 ◆紹介曲「 祭りのあと 」 作詞:山根万理奈 作曲:山根万理奈 ◆ニューアルバム『愛の me』 2019年3月6日発売 BUCA-1044 ¥2,500+税 <収録曲> 01.新優等生 02.今が永遠 03.祭りのあと 04.星降る夜のプレゼント 05.小さな世界 06.島根県産きぬむすめの唄(CM ver.) 07.サクラサクセス 08.前へ当たれ 09.crossroad 10.43番地のポスト 11.島根県産きぬむすめの唄(未発表 ver.) 12.島根県立大学の唄 13.Rock'n Loach 14.また逢える日まで