あの日、私が見たものは

あたらよ
あの日、私が見たものは
2025年10月8日に“あたらよ”がNew Mini Album『泡沫の夢は幻に』をリリースしました。今作には、「雫」「ツキノフネ」「忘愛」をはじめとした全8曲が収録。ジャケット写真は、タイトルの世界観が幻想的に表現され、朧げな夢のイラストが印象的で、空や水面は収録されている楽曲それぞれを象徴しております。 さて、今日のうたではそんな“あたらよ”のひとみによる歌詞エッセイを3回に渡りお届け。第1弾は収録曲「 朝凪 」にまつわるお話です。いつもと変わらぬ景色なはずなのに、目に映るものすべてが美しく見えたある日の早朝。その理由は…。ぜひ歌詞とあわせて、エッセイを受け取ってください。 ある日の早朝。まだ暑さの残る東京で私はそれを見た。 湿った空気、結露したコンビニの窓ガラス。 霞んだ空にオレンジ色の太陽。傾いた標識。路肩に置かれた自転車。鳴き声を上げながら自由に飛び回る鳥。ペットボトルのゴミの山。色褪せた郵便ポスト。朝日を受けてキラキラと輝くビル。ココアだけ売り切れの自動販売機。工事現場に置き去りにされた資材やトラックからは、微かに人の気配を感じた。今まさに街が目覚めようとしている、そんな時間帯だった。 いつもは何気なく通り過ぎる道が、目に映るもの全てが、その時の私には不思議と美しく見えた。視覚から取り入れた情報は、脳を伝って文字に変換され、そのまま吐き出されるようにしてスマホのメモに流れ落ちた。ぐちゃぐちゃでなんの統一性もないただの箇条書きの言葉の群れが、この「朝凪」という曲の核を担うことになるとは、その時はまだ知らなかった。 人は心に生かされていると私は思う。けれど、その時の環境や状況に応じて移り変わるその様を、私たちは見ることができない。心には形がないから。それでも私たちは視覚や聴覚等の五感を通じて些細な心の変化を読み取ることはできる。 だからだろうか。あの日、私が見たものは全ていつもと何も変わらない姿形でそこに存在していた。にも関わらず、まるで夢の中を浮遊しているかのような美しさを覚えたのはきっと、私の心が形を変えたんだ。 そうだ。変わったのは私の心だ。 それに気がついた途端、言い得ない虚しさが私を襲った。何故だか今までずっと、嘘を吐いていたかのような、そんな感覚だった。 <あたらよ・ひとみ> ◆紹介曲「 朝凪 」 作詞:ひとみ 作曲:ひとみ・Soma Genda ◆New Mini Album『泡沫の夢は幻に』 2025年10月8日発売 <収録曲> 01 朝凪 02 ツキノフネ 03 夜空を蝕んで 04 忘愛 05 溺れている 06 雫 07 しないで 08 夢現、夏風薫る







