作詞家をはじめ、音楽プロデューサー、ミュージシャン、詩人、などなど【作詞】を行う“言葉の達人”たちが独自の作詞論・作詞術を語るこのコーナー。歌詞愛好家のあなたも、プロの作詞家を目指すあなたも、是非ご堪能あれ! 今回は、“水曜日のカンパネラ”の音楽担当であり、アーティスト楽曲やCM・劇伴なども幅広く担当。Kenmochi Hidefumi名義でも活動している「ケンモチヒデフミ」さんをゲストにお迎え!
作詞論
音楽と歌詞の組み合わせのギャップを大切にしています。
特に作曲と作詞を両方ともやらせてもらえる場合、「かっこいい音楽」なのに「おもしろい歌詞」がのっているというアンバランスな感じが好きで、それをいつも目指しています。
[ ケンモチヒデフミさんに伺いました ]
  • Q1. 歌詞を書くことになった、最初のきっかけを教えてください。

    20代の頃は日本語の歌詞の曲があまり好みではなく、ずっとインストの音楽を作っていました。しかし30歳になったある日、たまたまももいろクローバーの「ココ☆ナツ」を聴いてJ-POPの面白さに開眼し、自分もこんな音楽が作ってみたいと思って水曜日のカンパネラを始めるに至りました。

    歌メロと同時に、デモ段階のメロディを説明するための仮歌詞を自分でも書くようになりました。

    それまで歌詞を書いたことなどなく、書き方もわからなかったため、都内の地下鉄の駅をただ羅列した歌詞を書いたりしていました。それがなぜか好評でそのままリリースされてしまい、今の作詞スタイルへとつながっていきます。

  • Q2. 歌詞を書く時には、どんなところからインスピレーションを得ることが多いですか?

    CMや広告のキャッチコピーなどは、口馴染みも良くラップなどに使いやすいです。
    また、最近の漫画やライトノベルなどは話の設定がユニークで、タイトルを見ただけで
    「なるほどなぁ…」と思ったりすることが多々あります。

  • Q3. 普段、どのように歌詞を構成していきますか?

    まずは大きな題材・テーマを考えます。

    (例)本当は発明家になりたかったのに、たまたまノリでやっていたバンドが売れてしまったため不本意ながらミュージシャンをやっている『エジソン

    (例)世田谷区に「給田(きゅうでん)」という地名がある。世田谷区に宮殿(きゅうでん)があるという設定の歌詞を書いてみよう『バッキンガム

    といった形で、コントのネタみたいなものを最初にぼんやり考えて、そのテーマから連想される言葉をスプレッドシートにいっぱい書き出します。それらをメロディと組み合わせながら語感とストーリーをパズルのように作っていきます。

  • Q4. お気に入りの仕事道具や、作詞の際に必要な環境、場所などがあれば教えてください。

    車、電車、飛行機などの移動中にスマホにメモを取ったりして、時間のある時にスプレッドシートにまとめてあります。

    でも最後は結局、納期ぎりぎりになって、作業部屋にこもってコーヒーをがぶ飲みしつつ、PCの前でうんうん言いながら完成させています。

  • Q5. ご自身が手掛けた歌詞に関して、今だから言える裏話、エピソードはありますか?

    水曜日のカンパネラ/『シャクシャイン
    1. 北海道の地名の響きがとてもユニークなので、それを羅列してお経や呪文のようなフレーズを作りました。

    2. その後、Twitterでみんなから「北海道あるあるネタ」を募集し、「キッコーマンめんみ」や、「焼きそば弁当」などのご当地ネタも入れました。

    3. それでも歌詞が足りず、街をぶらぶらしていたとき、旅行代理店のHIS広告が目に入り、「ズワイガニと4種ジンギスカン食べ放題」「アザラシと出会える流氷の旅」などのコピーが歌詞にハマりそうだと気が付き、取り入れました。

  • Q6. 自分が思う「良い歌詞」とは?

    「良い歌詞」 かどうかはわかりませんが、
    楽しくて、耳に残る、自分らしい、歌詞が書けたら良いかなと思っています。

  • Q7. 「やられた!」と思わされた1曲を教えてください。

    岡村靖幸/『ぶーしゃかLOOP
    音の響きとGroove感を最大限に活かすために、言葉の意味を無力化しているところがすごいと思います。特に「たぶん23歳」という語感がとても良い。岡村靖幸さんの他の曲でも度々出てくるので、大事にされている言葉なのだと思います。やられたというか、作詞はこんなにも自由で良いのかと感じた曲です。

  • Q8. 歌詞を書く際、よく使う言葉、
         または、使わないように意識している言葉はありますか?

    よく使う言葉は、歌詞のテーマになっている業界の専門用語や固有名詞、製品名などでしょうか。理由は歌詞の中でも目立つ、浮く存在になるからです。それで世界観が壊れる場合もあるので諸刃の剣ですが笑。上手くハマれば大きなインパクトになります。他の人はあまり使いたがらない言葉だと思うので逆に積極的に入れるようにしています。

    使わない様に意識している言葉は、特にないです。

  • Q9. 言葉を届けるために、アーティスト、クリエイターに求められる資質とは?

    誰にでも当てはまることではないかもしれませんが、自分の「型(かた)」を意図的に作ってみるといいかもしれません。「この人って毎回こういう歌詞書くよな~(良くも悪くも…)」と認知されていくと、その型に合った仕事ばかりが来るようになります。ある意味仕事はやりやすくなる。

    いくつか歌詞を書いてみてみると、自分にしかない特徴やクセなどが見つかってくるかと思います。それが面白いと感じられたら、複数の作品に意図的にそのクセを取り入れてみると良いです。やがてそれが自分らしい歌詞のネームタグになります。

    意味や思いを伝えたいがあまり、音楽を阻害している歌詞になっていないか、などを気をつけると良いのではないでしょうか。

    音のハマりが良いだけで、歌詞としては価値もあると思います。

    音楽を邪魔することなく、調和する言葉と響き。逆に、良い意味で違和感があって印象に残る一言
    そのバランスなのかなと思います。

    他の人が題材にしないテーマを取り上げる。くだらなさ、しょうもなさを残す。

  • Q10. 歌詞を書きたいと思っている人へのアドバイスをお願いします。

    「書きたい」 と思っているなら今日書きましょう。それを世に出して、人に見せてみましょう。
    作詞の最初で一番大事なものはその気恥ずかしさを振り切る思い切りと度胸です。

歌 手
水曜日のカンパネラ
タイトル
ウォーアイニー
アニメ『らんま1/2』のOP曲として書いた本作。恋の駆け引きの様子を麻雀と中華料理に置き換えて表現してみました。いろいろなキャラの心情を織り交ぜた歌詞にしたので、パートごとに歌い方を変えてもらったりもしています。

サウンドプロデューサー/トラックメイカー/DJ/作詞家/作曲家。「水曜日のカンパネラ」の音楽担当。femme fatal、電音部、ano、iri、xiangyu、などのアーティスト楽曲やCM・劇伴なども幅広く手掛ける。『Kenmochi Hidefumi』名義ではHydeout Productionsよりクラブジャズ系のアルバムをリリース。現在はシカゴフットワークを織り交ぜた独自のライブ/DJなどで活動中。


INFORMATION

水曜日のカンパネラ
『可愛女子』
2025年9月24日発売
WPCL-13708 
¥2,500 (税込)
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