【歌詞が良いアーティスト】と言えば、パッと“槇原敬之”という名が浮かぶ方、多いのではないでしょうか。歌ネットのインタビューでもこれまで「歌詞に影響を受けたアーティストは?」という質問に対し、ケラケラ、奥華子、miwa、May J、といったアーティストたちが彼の歌詞について語っております。また、今年1月8日に放送された『マツコの知らない世界』の【失恋ソング】特集では、マツコ&HY・仲宗根泉もマッキー楽曲を絶賛。放送直後には、お二人がタイトルを口にしていた3曲がグッとアクセス数を上げました。(「SPY」・「ズル休み」・「彼女の恋人」)
 さて、今回の特集では、そんな槇原敬之のロングインタビューをお届けいたします!2月13日にリリースするニューアルバム『Design & Reason』収録曲への想いを中心にお話を伺いました。長時間の取材にも関わらず「どんな質問でも答えますので、いくらでも聞いてください!」と笑ってくださった槇原さん。みなさんすでにご存知かと思いますが、実際にお会いして一層、その明るさ優しさを実感いたしました。そんなお人柄も伝わるであろう内容を、じっくりとご堪能ください…!
(取材・文 / 井出美緒)

―― まずは率直に、槇原さんはどうしてこんなに素敵な歌詞を長年、書き続けられるのでしょうか。

いやー、もうそんなふうに思ってもらえることが嬉しい!一生懸命に書いてきた甲斐があります。結構ね、泣きそうになりながら書いているときも多いんですよ。ツライ気持ちとか、自分がシリアスに感じていることを書き始めると、その世界に入り込んでしまうので孤独ですし。あと僕は詞先で曲作りをするので、たっぷり時間をかけて歌詞を書くんです。だから「歌詞が良い」って言ってもらえると本当に嬉しい。素敵かどうかはわからないけれど、ただただ「自分が感じたことをどういうふうに言葉にすれば伝わるかな?」というところを、とことん書き尽くすこと、書き損なわないこと、だけは気をつけていますね。

―― また、SMAPをはじめ、平成が終わりに近づくにつれ、いろんなアーティストの解散・引退・脱退・活動休止が増えてきておりますが、ご自身も引き際のようなものを考えたりしますか…?

ねぇ…。みなさん少なからず、自分の引き際って考えると思います。でも、僕の場合は昔から周りが一生懸命に受験勉強をしたり、就職活動をしたりしているときに、音楽に没頭しちゃってこの仕事に就いたので、辞めるという考え方が全くなくて。もちろんシンガーであり続けられるかは、健康の問題も出てきますので(笑)。たとえば身体が物理的にどうしても歌えなくなってしまうという日が来たら、それは仕方ないなぁと思いますけど、やっぱりずっと歌い続けたいですね。

―― よかったです。ファンのみなさんその言葉、嬉しいと思います。

photo_01です。

そうだといいなぁ!僕はラッキーなことに、性格もボヤ~ッとしていて、わりと楽観的なので、もう「これしかできないこと」と「好きなこと」をやり続けているだけなんですよ。だから僕の選択肢は一生、音楽しかないと思います。たとえ自分が歌えなくなってしまったとしても、誰かに歌ってもらったり、ミュージカルも作ってみたかったりもするし、そういう形で自分の作品を投影していくかもしれませんね。今のところ、よーっぽど嫌なことがない限り、音楽やめません!

―― 最近は、いきものがかりの水野良樹さんと『文藝春秋』で対談もされていましたね。槇原さんは、良い歌詞が出来ると「ピコーン」という音が鳴る感覚があるんだとか。

そうそう!神様からの「はい、オッケーでーす!」という通知音です。これが本当に不思議で。たとえば自分の中ではすごく良い歌詞が書けたはずだけど「あれ、そういえばピコーンって鳴らなかったなぁ…」と思ったまま、曲をつけようとしても、いつまで経ってもまったくメロディーが出てこないんですよ。そこで「あぁ…だから鳴っていないんだ」と。そして「ピコーン」が鳴るまで歌詞を書き直すと、ちゃんとメロディーがでてくるということがよくあります。これは水野くんも同じだったみたいで嬉しかったです。

―― これも対談中の話題ですが、槇原さんの「シンガーソングライターとして本格的に音楽と向き合い始めたのは、実は2000年以降」という発言が印象的でした。

より深みにハマっていったのが2000年以降ですね。J-POPってどうしても“恋愛のお供”みたいなところがあるじゃないですか。でも、自分がちょうど30歳になるタイミングであったその当時、友達に言われたんですよね。「もうそろそろ恋愛以外のことも歌っていかないと、嘘なんじゃないの? お前が40歳、50歳になって恋愛の歌しか歌わないって、キショイよ!」って。それが意外と僕の中で「そうだよねぇ!? ずっとこのままじゃ寂しい男じゃん!」と、刺さりまして。その会話がひとつのきっかけだったように思います。

美しさは変わらない もしも変わるとすれば
それを映す人の気持ちが 変わるだけだから
「太陽」/槇原敬之(2000年11月29日発売)

そして、その変化が最初に反映されていると思う曲は「太陽」かな。そこから、SMAPの「世界に一つだけの花」が書けたりもして、恋愛以外の物事をどうポップスに落とし込んでいくかという楽しみが始まったんです。それまでの活動に本腰を入れていなかったわけではなく、開眼したという感じ。あ、まだまだ書けることある!って。そのほうが音楽家として長く続けられるだろうという未来も見えたので、決意できました。これからも自分が人生で感じることがある限りは、歌詞を書いていけるんだろうなぁって思っています。

―― では、ここからは“すべての物・事・形には、そうなるための理由がある”というテーマのもと作られた、ニューアルバム『Design & Reason』について、お伺いしていきます。

1曲目「朝が来るよ」
24時間のバーガー屋の 馬鹿みたいに熱いコーヒーを
少しすすって車の屋根の 上に置きポケットに手を入れる
トラックの通り過ぎる音が 遠くに響く薄暗い空に
明けの明星と月だけが 消し忘れたように光ってる

―― 冒頭のブレスからハッとさせられて、景色がブワーッと見えてくる楽曲です。これは実際に目にした光景なのでしょうか。

そうそうそう。この曲は、前回のアルバムで歌詞を書き切れなかったんですよ。今は完全に朝方の人間になったので、全然ドライブとかしなくなっちゃったんですけど、その頃は心にまとまらない気持ちがあると、よく明け方ひとりで車に乗ったりして。で、新橋あたりでコーヒーを買って(笑)。それをすすりながら、向こう側の築地を見ていたんですね。「あー、そういえばもうすぐ築地もここからなくなるんだなぁ。しかもオリンピックも目の前だよなぁ」とか思いながら。そうしたらなんか…随分、人任せに未来を描いてきたなって、感じまして。

要するに、自分も日本全体も、誰かが作ってくれた未来に乗っていこうみたいなムードが強くて、一方で何かを非難する状況だけが多くなっている。でもそんななかでも、やっぱり僕はやりたいことはやりたいし、やりたくないことはやりたくないし、何より「これは自分が選んだことだ」と意識しながら進みたいと思ったんです。前回のアルバムの段階では、その気持ちをまとめ切れませんでした。それが、今年なら書けるって思ったんです。なので、歌詞が生まれた系列が一番早いこの曲を1曲目に置いて、自分の“決意”をアルバムの入口にしました。

ささやかなことの中にも 隠された大事な意味に
気づけるような気がしたとき 朝日が昇り始めた

―― このフレーズはまさに、アルバムの核でもありますね。たとえば最近は、どのような<ささやかなことの中>に<隠された大事な意味>に気づきましたか?

一番よくあるのは、自分がモヤモヤモヤッとしていることを、友達に話している途中で「あれ?これって…自分勝手じゃん!?」と気づくことかなぁ。誰かに何かをしてあげたいとか、無償の愛だとかを大事にしようと生きていたつもりが、いつのまにか自分のことばかり考えているんです。とくに来年はおかげさまで30周年を迎えることができるわけですが、そこも「30周年って何をしなきゃならないのかな…」とか、気づくとそういう思考になり過ぎてしまっていて、イカンイカンイカン!って思うことが最近、多いです(笑)。あとは、うちの犬や猫の行動を見ていても、こいつらは意味なく行動しているわけじゃないんだなと気づかされます。

―― 動物にも“すべての物・事・形には、そうなるための理由がある”と。

はい。これが面白くて。僕が引っ越しをしましてね。そうしたら猫は自分のトイレがどこかわかるんですけど、犬はまだ迷うんですよ。自分の匂いがついてないので。キッチンマットで大きい方をしちゃって「うわー!違うよー!」ってことが結構あって。でも最近、猫が高いところから犬を見ているんです。キッチンの入り口に座っていたり。一体、何をしているんだろうと思って、僕は猫を観察していたら、どうやらそいつがウンコしているのを猫はずっと見ているみたいなんですよ(笑)。あ!この子はこの子なりに僕に協力しているのか!?と。

―― そこで見張ることで、槇原さんに報告しているわけですね(笑)。

「あいつ、またやってますよー」みたいな(笑)。気まぐれに行動しているようで、ちゃんと意味があるんだなぁとビックリしました。そこで重要なのはやっぱり“ささやかなことを深く見入らないと、隠された大事な意味に気づけない”ってことなんですよね。みんな、よくご飯の写真を撮るじゃないですか。あれ内心「もう!早く食べないと冷めちゃうだろ!」って思いながらも、良いことだなとも感じるんですよね。そうでもしないと僕たちって、覚えていられない生き物だし、その写真を見返すことで気づけることってきっとあるから。とくに僕みたいな仕事は、その“気づく”ということを代行してやっているようなところがありますね。みんなが忙しくて意識を向けられないことを請け負うというか。ひとの言葉なんかも、よーく自分の心を見張って、大事なメッセージを取りこぼさないようにしています。それをシュッと掴んで、歌詞に落とし込むことは多いですね。

50を過ぎた友人に どんな気持ちか聞いたときに
出来ることと出来ないことが わかるから楽しいと笑ってたっけ

―― たしかに、この歌にも“会話”が歌詞に落とし込まれていますね。

この<友人>は、大阪でラジオ制作をしていて、僕がデビュー当時からお世話になっている付き合いの長いひとなんです。それで4~5年前くらいかな、興味本位で「どう?50歳になって」って実際に訊いてみたことがあって。そうしたら「あーなんか、出来ることと出来ないことがはっきりわかるから、楽で楽しい!」って。だけど、まだ自分は45歳を越えたくらいだったので、その感覚が全然わからなかったんですよ。それが、最近ふっとあのときの会話を思い出して「あ…なんかわかる気がする!」と思えたんです。

―― 槇原さんご自身は今49歳ですが、改めて振り返ってみて、40代っていかがでしたか?

男ってまだ何でもできるつもりでいるのが45歳くらいまでだと思います。だから「俺たちは全然30代の奴らと変わらないぞ!」みたいな気持ちでいるんですけど、突然わけのわからない身体の不調とかが出てくるんですよ(笑)。それまではこの曲のように<自分はいつまでも元気で 何でも出来ると信じ込んでた>のに。やっぱり「あれ、慢性的に腰が痛いな」とか「ずっと腕枕をして寝ていてこんなに手が痺れるのは最近だな」とか、日々そういう不具合にたくさん直面するようになって、徐々に40代という現実を受け入れていく感じはありましたね。

あと、人生が80年だとすると、もう30年しかないわけじゃないですか。僕が音楽活動をしてきたのと同じくらいの時間しか命の残りがないって、なかなか感慨深いものがありますよ。でもだからこそ、もっともっと新しいことと出会いたいなぁという気持ちが強まっていくんです。若い頃は、出会うもの全てが自動的に新鮮なものとして取り入れられていくけど、もう自分で努力して探していかないと、どんどん新しさって無くなっていってしまう。そういうところを意識するようになりましたね。でも逆に、物事の道理がパッとわかるようになった楽しさもありますよ。たとえば誰かの恋愛の話を聞いていて、もう3言目くらいで「あ、それダメだわ!」ってわかる感じ(笑)。

―― 説得力のある実体験が増えていったり、わからなかった言葉がわかるようになったり、なんだか年を取るのって楽しそうです。それはこのアルバムを聴いていても思いました。

そうそう!絶対にそう思ってほしいの!上の世代の使命は「年を取るのって良いものだなぁ」って思ってもらうことしかないので。以前、有名な女性の書道家で、90歳くらいなのに現役で個展をやっている方が「若者が大人になりたがらないのは、わたしたちが格好悪いからよ」ってインタビューでおっしゃっていたんです。その言葉が僕の中ですっごく響きました。そして、その言葉を受けて「僕も自分なりに憧れてもらえるような生き方をしよう」と思えたことも、若い頃にはなかった変化なんですよね。だから実は今、自分が憧れていたひとと会ったり、ご飯を食べたりして、喋るということをたくさんするようにしているんです。きっとそこからまた吸収できる新しいものがあると思います。


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