シーソーゲーム

ミセカイ
シーソーゲーム
“ビジュアルからインスパイアされた曲を作る”をコンセプトにした、アマアラシと千鎖による男女混声ユニット・ミセカイが、2024年2月7日に1stアルバム『Artrium』をリリース! 今作には「アオイハル」や「104Hz」などこれまで発表してきた7曲に加え、アルバムのために書き下ろした新曲が収録。彼らの「足跡」と「未来」が詰まった作品となっております。 さて、今日のうたコラムではそんな“ミセカイ”のアマアラシによる歌詞エッセイを3週連続でお届け! 第2弾は収録曲「 唄を教えてくれたあなたへ 」にまつわるお話です。今までの悩みとはまったく異なるものと向き合ったこの曲。曲を書く上で大切にしたことは…。また、今回も音声版がございます。本人の朗読でもエッセイをお楽しみください。 今までのミセカイは、一枚絵もしくは一枚写真をインスパイア元として曲を描いてきた。 その中で今まで1番頭を抱えてきたのが“情報量の少なさ”だった。 好きなビジュアルを一枚決めて、そのビジュアルから受け取れる感情や目に入る物・季節・温度等なんでも良いので箇条書きで書き出してみる、というのを是非あなたもやってみてほしい。 きっと両手で収まるかどうかくらいの数になったんじゃないだろうか。 それらを4分前後の楽曲にしていく。 単純に言葉の数を考えたら、せいぜい1番サビくらいまででその情報は使い切ってしまう。 イラストや写真において“情報は多ければ多いほど良い”なんて事は決してなく、特に一枚絵は情報量が少ない方が伝えたいことの質が高まる場合も多いかもしれない。けれどそれを元に音楽に変換していくという事は、内容としては情報を元に、作り手なりの寄り道を沢山しながらも、初見で聴いた時には元ビジュアルとの相互性が≒の範囲で収まるようにしなければいけないと思っている。 その範疇を超えてしまうと、“インスパイア元”ではなく“影響を受けた作品達の一つ”まで成り下がってしまう。 そのラインのせめぎ合いの中で、“この人はこの作品とちゃんと向き合ったんだな”と聴き手に思わせられる楽曲を作る事が、僕のやるべき事でありインスパイア元への最大限の敬意だと信じて曲を描いてきた。 しかし、今回1st Album『Artrium』の歌唱曲最後を締め括ってくれる「唄を教えてくれたあなたへ」は今までとは違い、インスパイア元イラストが80枚近くあるという言わば真逆に違い状態で生まれた作品だ。 アルバム制作が決まりアルバム内容の話し合いになった時、僕たちの船出の作品「アオイハル」のインスパイア元イラストレーターであるまかろんKさんと一緒に何か新しい事が出来ないかという議題が1番最初に上がった。 ミセカイ関係者総じてまかろんKさんの作品、お人柄共に大好きで、“形式として新しい挑戦をするなら最も信頼のおけるイラストレーターの方と”と皆思ってたんだと思う。 そしてまかろんKさんを含めた会議の場を設けさせていただき、ことの顛末を説明した。 “昔からずっと描きたかった物語がある” そう、まかろんKさんは話してくれた。 それが「唄を教えてくれたあなたへ」のインスパイア元となった、イラストで物語を綴った『唄を知った灯台守』という作品である。 会議段階の時はまだ姿形なく、お互いに初めての大きな挑戦だった。 まかろんKさんからラフが届いた時の第一印象は“いやもう間違えて絵コンテに人生捧げちゃった人じゃん”だった。 マイナスな感情は少しもない、最大級の褒め言葉のつもりだ。 本当にその印象そのままの状況で、形式としてはアニメや漫画にする前段階の絵コンテと呼ばれる、言わば計画書みたいなものだった。 ただその並べられてるイラストのクオリティがよく見ると、いやよく見なくても明らかに高過ぎる。 それぞれ一枚絵で出すべきもの達だった。 さらに今回はまかろんKさんの想う物語も言葉でイラスト毎に添えられている。 “これはまずい。今までのやり方だとこのインスパイア元イラストだけでアルバム出来上がるくらいの曲数になってしまう。” と、今迄とは真逆の悩みが生まれた。 何を汲み取って、何を委ねるのか。 どの想いを言葉にして、どの景色を音に変えるのか。 定員が決まっている中で入れたり出したり、上げたり下げたりを繰り返す、まるでシーソーゲームをしているような感覚だった。 辿り着いた答えは ・清一郎側の視点で書くこと ・時間を司った言葉を紡ぐこと ・なるべくシンプルに この3つだった。 言ってしまえば、“余計な事をしない”である。 僕たちのコンセプトの大きな強みとして、 元ビジュアルがある事によって音楽だけでは想像できない情景や空気が補填されて、 僕の描きたい世界をより広く、そして深くあなたと共有することができる部分だと思っている。 その点で言うと、この曲は真髄ではないだろうか。 無論、僕の中ですらシーソーゲームにより判断が下された表現が沢山あるのだから、この曲が全く響かない・インスパイア元との親和性を感じられない人もきっといると思う。 ただもしこれを読んでくれている人の中でこの曲が響いた人がいるのなら、 あなたにとってミセカイの未来はきっと明るい。 それくらい僕にとって大切な曲になった。 今回のエッセイは楽曲の中身には極力触れぬよう書き連ねた。 言葉ではなく、作品として受け取ってほしいから。 ここまで言うのだから、“アルバムの一曲として音源が聴ける状態”だけではきっと終わらない。と思う。 そして視点の話も然り。 片方だけでは僕たちのコンセプトとしてまだ未完成だ。 少し伝え過ぎたかな。楽しみにしていて欲しい。 「唄を教えてくれたあなたへ」 Artriumという空間の静けさを担い、未来に繋げてくれる楽曲。 不完全であることは後ろ向きなことではないと、先の未来であなたと一緒に噛み締められる日を待ち望んで。 <ミセカイ・アマアラシ> ◆紹介曲「 唄を教えてくれたあなたへ 」 作詞:アマアラシ 作曲:アマアラシ ◆1stアルバム『Artrium』 2024年2月7日発売 『Artrium』特設サイト: https://misekaimusic.com/ <収録曲> 1.{ New World 2.アオイハル 3.104Hz 4.Ever 5.カラフル 6.C.A.E. 7.藍を見つけて 8.浮きこぼれ 9.催涙夜 10.コインロッカーベイビー feat.泣き虫 11.スクレ 12.Re-plica 13.唄を教えてくれたあなたへ 14.World End }