はみ出し者の自分だからこそ、“あなた”に歌いたい。全6曲入りミニアルバム!

 2025年7月30日に“シンガーズハイ”がMini Album『HeartBreak』をリリースしました。今作には、「サンバースト」や「燁」をはじめとする全6曲を収録。今回は内山ショート(Vo.&Gt.)にインタビューを敢行。失ったものへの想い、自身と向き合うなかで気づいたこと、そして“わかりあいたい”という願いが込められた楽曲たちについて、お話を伺いました。言葉に慎重で、他者が怖い。そんな彼が音楽と出会い、現在の歌詞が生まれるまでの軌跡とは。そして今、どんなマインドで歌を書いているのか。ぜひ今作とあわせて、歌詞トークをお楽しみください。
(取材・文 / 井出美緒)
延長戦作詞・作曲:内山ショートまだまだまだ言えないで居る あの言葉がまだ言えないで居る
過って、堪えて 腐して、眺めても蹲るだけ
まだ貴方のこと見えないでいる まだ心は奪われないで居ようとする
平行線、抵抗して
そうして
もっと歌詞を見る
ずっと怖いです。他者が。

―― 内山さんにはこれまで多くの歌詞エッセイを「今日のうた」で執筆いただいております。もともとご自身の考えなどを言語化することは得意だったのでしょうか。

いえ、まったくそんなことありません。むしろ僕は小さい頃、なかなか言葉がうまく出てこないタイプで。MCとか極度に緊張する場面では、頭の文字を何回も繰り返してしまうし。ひとと真剣に話さなければいけないとき、喧嘩をするときなんかも、自分がどんな言葉をかければいいのかわからなくなって黙り込んでしまうことが多くて。喋ることはとくに苦手です。とはいえ、文字にするのもすごく難しい。

―― 言葉にすればするほど、本当の気持ちとズレていく感覚ってありますよね。

そうなんですよ。LINEでやりとりしていても、字面だけだと相手の気持ちも読み取れないじゃないですか。だからうちのバンド内でもよく、「その言い方だと感じ悪く捉えてしまうかもしれないから、とりあえず“!”マークだけでもつけようぜ」って話をしたり。できれば会って話したい。とにかく言葉に対して慎重になってしまうんですよね。それは悪く言えば、言葉狩り癖があるということなのかもしれません。

―― 以前、エッセイに、「小さい頃から他人の感情にとにかく敏感でした」と綴られていましたね。そういった面も言葉に対する向き合い方に影響を与えている気がします。

シンガーズハイ 内山ショート アーティスト画像1

まさに。あと、自分が無意識に口にした言葉で、誰かをイヤな気持ちにさせてしまったり。逆に、相手が悪意なく言ったことにも、僕は過敏に反応してしまったり。そういう経験が積み重なったことで、ますます慎重になっていった気がします。中学時代なんかは、もう考えすぎて疲れてしまうから、ひとりでいることが多かったです。それがきっかけで、家でギターばかり弾いている少年になっていったので(笑)。

―― いちばん最初に音楽に心を動かされた記憶というと、何を思い出しますか?

ギターを始めたきっかけでいうと、NHKの『SONGS』にスピッツが出ていたのを観たことです。小さい頃から、母が車内でよくスピッツを流していたので、僕も大体の曲のサビは口ずさむことができるような感じだったんですね。でも、初めてテレビで、「こういうひとたちが歌っているのか」と知って。

最初、僕はベースの田村明浩さんに惹かれました。スピッツは優しい音楽のイメージがあったのですが、そのなかで田村さんだけは衝動的に激しく動いていらっしゃった。その姿が強くてカッコよくて。ただ、僕の地元は田舎なので、ベースを始めても一緒にバンドを組める仲間がいなくて。だから、まずはひとりでも弾けるギターを始めたんですよね。

―― ギターを弾くようになり、そこからどのようにご自身で曲を作る方向へ?

もともと自分が好きな曲を歌うことができればいいと思っていたので、高校時代はコピーバンドや弾き語りしかやっていませんでした。それから大学で軽音楽系サークルに入って、他校との関わりも増えて。当時、仲よくなった友だちが、「自分たちで曲を書いていて、ライブハウスで演奏しているんだよね」という話をしていて。気になったので、僕も1回遊びに行かせてもらったんですけど…。失礼ながら、下手くそというか、荒削りで(笑)。

「もしかして俺でもできるんじゃないかな」と思いまして、「おもしろそう、俺もそういうのやってみたい」と軽く言ってみたんです。するとその友だちが、「じゃあ、うち主催のイベントに出てよ」って。僕は勢いのまま二つ返事でOKしてしまいました。でも、曲もないし、ましてやバンドも組んでなかったので、とにかく手探りで急いで曲を作って、歌詞を書きました。本当に行き当たりばったりで、ひょんなことからとはこういうことですね。

―― では、人生でいちばん最初に書いた歌詞がその当時のものになるんですね。

はい。それまではポエムですら一切、書いたことがありませんでした。僕が初めて作ったのは、シンガーズハイの最初のミニアルバム『Love and Hate』に収録されている「アカクソメル」という楽曲です。当時書いた曲は、なんだかんだ今でもシンガーズハイで歌っていますね。

―― シンガーズハイの“内山さんらしい歌詞”はどのように培われたのでしょうか。たとえば、スピッツだったり、ご自身がよく聴いてきたアーティストから影響を受けていたり?

いや、むしろ「とにかく好きなアーティストに囚われないようにしよう」と思っていました。たとえ下手くそでも、誰かをマネすることから始めることが大事なのかもしれないけれど、それはまがい物になってしまうという意識が強かったので。ましてや僕は音楽を聴くとき、「ここは好きだけど、ここはちょっとな…」みたいなことを思ってしまう、面倒くさいタイプのリスナーだった自覚もありますし(笑)。

だから最初から、「自分の言葉で、自分のことを書こう」という感じでした。思ったことや経験、または自分が言ってほしい言葉とか。でも結局、そこまで難しいことは考えていなくて。どこかラッパーの方のフリースタイルに近いところがあったかもしれません。メロディーやビートを流して、それに合わせて即興で言葉を紡いでいくような感覚というか。

―― 活動のなかで、歌詞面で「シンガーズハイらしさが確立されてきた」と感じたタイミングはありますか?

やっぱり多くのひとに聴いてもらうきっかけとしては、「ノールス」や「Kid」が広まったタイミングかなぁ。そのあたりでなんとなくシンガーズハイらしい特徴が出てきた実感があります。たとえば、口をついて出てくる言葉が、喜怒哀楽でいう怒であったり。口の悪いパンチラインがあったり。僕自身、砕けた話し方をすることが好きだったりもするので。「べらんめえ!」みたいな(笑)。そういう面はひとつの個性になっていますね。

―― ただ、今お話していると“怒”が全面に出ているタイプの楽曲と、かなりギャップがあるように感じます。内山さんご自身はとても柔らかくて優しい話し方というか。

たしかに最近よく「丸くなったね」「落ち着いたね」と言われるんですよ(笑)。でも、実は学生時代など、とくに身近なひとに対して苛立ちを出してしまっていました。上京したのが2020年で、それまでは地元にいたんですけど、地元では面と向かってひとと話すこと自体を避けていたし。自分の言葉をうまく伝えられる自信がなかったんだろうな。そのもどかしさで怒りがさらに募って、いつもイライラしていたんですよね。

―― それが音楽活動によって徐々に変わってきたんですね。

上京してから、ひとにお世話になることや、こうしてお話させていただく機会が増えたことで、少しずつ変わっていったのだと思います。地元にいた頃のバンドでは、メンバーたちに対しても、ひととして接することができていなかったかもしれません。だからこそ、シンガーズハイではコミュニケーションを大事にしたくて。まずは一対一で話して、相手を理解しようとする努力や、自分のことをわかってもらおうとする工夫が必要だなと。

―― ちなみに内山さんにとって“他者”とはどういう存在ですか?

難しいな…。でも僕は、ずっと怖いです。他者が。

―― それは、傷つけられるかもしれない、あるいは傷つけてしまうかもしれないという気持ちからでしょうか。

それもあります。あと、僕たちは“人間”だから、集団で暮らす生き物じゃないですか。そこから弾かれることがすごく怖い。ひとりになるのがイヤだとか、そういうことではなく。自分がちゃんと社会に入って、誰かと歯車をかみ合わせて生きていけない人間だと思い知りたくないんですよね(笑)。だから未だに、休みがあってもまったく外に出ず、なるべく他者と関わらず、家のなかに引きこもっているので。

―― エッセイにも書かれていましたが、内山さんの歌詞には「わかりあいたい」という気持ちが表れていると。それは“他者が怖い”からこそ、より強くなっていくものなのかもしれませんね。

その怖さの影響がいちばん大きいと思いますね。僕は挫折や後悔が多い人間で。その原因を考えてみたとき、「ああ、自分が向き合えなかったからだ」と何度も感じてきました。しかも極端なところがあるから、愛想を盾にしすぎて表面上でしか喋らない相手と、素の自分を剥き出しにしてしまう相手と、二極化してしまっているのが自分でもわかるんです。その壁をなくすにはどうしたらいいのか悩むことも多くて。

子どもの頃って大体、困ったら誰かが助けてくれるじゃないですか。親や先生、リーダー的な存在のひと。でもそうじゃなくなった今、他者とわかりあうためには自分が変わっていかなければならない。だからこそ歌のなかでは、“ただ怒りをぶちまけて終わり”ではなくなってきたなと思います。自分が抱いた感情を吐き出した上で、「だからこうやっていくよ」という答えを出せるようになってきた。そんな気がしますね。

123