常に“そうではない側のひと”を気にしてしまう。

―― 3曲目「延長戦」では、いろんな感情や景色が渦巻いていて、さらにシンガーズハイ「明日にはきっと」のワンフレーズも引用されていますね。

この歌は、自分がギターを弾いていて楽しいと思えるコードを思い出すところから作っていきました。いちばん僕のバックボーンに近い曲調だと感じたので、ひとりでいる時間が多かった高校時代や、その当時に聴いていた音楽も振り返りながら。でも、今を俯瞰して見ると、意外と昔から大きくは変わってないんですよね。バンドも音楽も、結局はひとつの延長線上にいる。

毎日いろいろと考えてはいるけれど、自分自身の向き合い方や納得感にゴールはないのだと思います。何かひとつ解決したところで、また新たな課題が生まれますし。僕は困り続ける人生を送っていくのかもしれない。それはある種、自分との戦いであり、ずっと続いていく延長戦だなと。

―― <夏の終わり 夜空の向こう、見上げた花火 下駄箱に置き忘れたあの手紙も忘れて>というフレーズは、どこか甘酸っぱい思い出も感じるのですが、どのようなイメージで書かれたのでしょう。

ここも昔を思い出してみただけなんです。中学時代、文通というものをしていたこと。別に好きでもないのに、人混みのなか花火大会に行ったこと。そういう“自分らしくないこと”をしていたのも、あの時期ならではだったなという気持ちで。

―― それらの経験を<どうか、どうか、どうか 初めから何一つ無かったことなら もうそれでいいのに>と思ってしまうのですか?

シンガーズハイ 内山ショート アーティスト画像3

そうだなぁ…。よくも悪くも、「こういう人生を送りたいと思って生きてきたわけではない」という気持ちがあるんですよ。好きなことをやって生活できているのは、ありがたいんですけど。もともと僕は、できれば普通に大学を卒業して、ちゃんと社会人として生きていくつもりだった。だから、「どうして今こうなった? いつから何が狂った?」と思ったりもして。今の僕じゃない世界線にも期待してしまう、というのが正直なところですね。

―― また、この歌では二人称が<貴方>と漢字表記である点も印象的です。

あ、本当だ。たしかにこの歌だけだな。この<貴方>は他者というより、当時なりたかった自分。もっと純粋な気持ちでいたときの自分。そういう存在なのかな。今、その<貴方>にちゃんと顔向けができるのか、という気持ちが表れているのだと思います。

―― 何か表記の使い分けでこだわっている面はありますか?

僕は漢字が好きだったので、初期は意地でも<貴方>や<貴女>にしていた気がしますね。でも、シンガーズハイとして活動をしていくなかで、「普遍的な曲を歌いたい」「いろんな捉え方をしてほしい」という気持ちがどんどん強くなっていって。最近は二人称を<あなた>とひらがなで統一しているように思います。恋人や友だち、家族、自分自身、それぞれの<あなた>を思い浮かべてもらえたらなと。だから「延長戦」の<貴方>は無意識で。

あと、5曲目「Liquid」は、一人称を<私>にしているのですが、僕自身が思っているというより、中性的な表現にしたいという意図がありました。6曲のなかでも特殊な存在というか、歌い方も弱々しい感じで。生きることに限界がきたひとの、最後の砦のような歌になればいいなという気持ちで作った歌ですね。

―― 今作の収録曲は、“救われたい”というより“救いになりたい”という気持ちのほうが強く表れているように感じます。

やっぱり、はみ出し者の自分みたいなひとに届いてほしくて歌っているんですよ。どこに行っても“居場所がない”と感じているようなひとを思って書いている。それが、“救いになりたい”という気持ちになって表れるのかもしれません。最近の僕の歌詞の軸として、間違いなくあるものですね。

―― 内山さんがとくに、「書けてよかった」と思うフレーズを教えてください。

」のAメロ<世の中じゃ誰かを簡単に 変えられる魔法があるんだって 冴えられない、穿っては居ない ただ何かが違う気がして 素晴らしい世界だって 誰かが歌っている 素晴らしい世界だって あの子が泣く気がした>というフレーズは、いちばん僕らしいなと思いますね。「SHE」という楽曲では<世界は美しいんだって>と歌ってしまっているんですけどね(笑)。

常に“そうではない側のひと”を気にしてしまうんですよ。たとえば、フェスに出させていただくときも、僕たちを観に来てくれているお客さんではなく、それ以外のひとたちがどう観ているのか考えてしまう。外側の“そうではない側のひと”に対してずっと働きかけている在り方がこのAメロに出ていますね。

―― 最後に、内山さんにとって歌詞とはどのような存在ですか?

お守りのようなものです。自分のなかで唱え続ける、そっと持っておく、そういうもの。よく「座右の銘」とか言いますけど、パッと出るひとって少ないじゃないですか。でも、「好きな歌詞」を訊かれたとき、誰しもワンフレーズは胸の内にある気がして。シンガーズハイの歌詞もそういうものであったらいいなと思いますね。


123