最後の残り香を愛おしく想うラブソング…。全6曲入りシングルEP!

 2022年11月9日に“藤原さくら”がシングルEP『まばたき』をリリースしました。タイトル曲は、ABEMA『恋愛ドラマな恋がしたい in NEW YORK』の主題歌。さらに初音源化となる「Just the way we are」をはじめ、「「かわいい」」、「ラタムニカ」など代表曲の弾き語りバージョンなど、自身の原点とも言えるアコースティックサウンドを詰め込んだ作品となっております。インタビューでは、久しぶりの新たなラブソングについてじっくりお伺いしました。役者としても注目を集めており、現在、ドラマ『束の間の一花』ではヒロイン・一花を演じている彼女。そのドラマのセリフと「まばたき」の歌詞が、不思議とリンクした部分とは…。恋愛観の変化に伴う、作詞面の変化も必読です。
(取材・文 / 井出美緒)
まばたき作詞・作曲:藤原さくら何だかな…って一体 何度繰り返せば 足りないことに慣れてしまえるだろう
心の波を 縫い付けて 沈めてほしい 海へ
重なって分かる君の 胸の奥の 熱い夏も 遠くでは霞んじゃうの
まばたきなど したくないよ 今日は
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大人になって「まぁいろんなひとがいるから」って思えてしまう難しさもある。

―― ご自身がいちばん最初に書いた歌詞って覚えていらっしゃいますか?

小学生、中学生の頃から、ポエムみたいなものはずっと書いていたんですよ。フレーズまでは覚えていないんですけど、誰にも見せたくないようなポエムノートにブワーって気持ちを書いていました。今となっては、「そんなに悩みあったの?」って思うぐらい、一丁前に何かに対して悩んだり、怒ったりしていましたね。多分、書いて発散していたタイプなんだと思います。それは今でも同じで、文字を書くとちょっと気持ちが落ち着くんです。

―― お父さまの影響で初めてギターを手にされたそうですが、ご自身が初めて作った楽曲を聴いてもらったりもしたのでしょうか。

しましたね。初めて曲を作ったのは高校生の頃だったんですけど、ボーカルスクールの簡単な設備でレコーディングをして、完成したものを聴いてもらいました。お父さんはすごく親バカなので、当時も今も私の曲をべた褒めするんですよ(笑)。「これはもう世界を変える!」ぐらい言ってくれるので、ありがたいなと思いますね。

―― 歌詞はもう10年以上お書きになられていますが、ご自身で作詞面の変化を感じる部分はありますか?

photo_01です。

まさに最近、歌詞を書きながら、「あぁ自分、成長したな」って思うんです。いろんなひととの出会いや別れのなかで、考え方がどんどん変わってきている。10代の頃からラブソングも書いてきたんですけど、もうちょっと大人になったというか。「何が本当の愛なんだろう」とかをより深く考えるようになりましたね。そういう変化は自分でも感じますし、スタッフやファンの方からも言われることが多くて。

昔の私はかなり自分本位だったんですよ。まぁ今でもそういうところはあるんですけど。愛してほしいとか、「~してほしい」ばかりで。でも本当の愛って多分、「~してあげたい」なのかなって。自分の親が何も言わずに、私を東京へ送り出してくれたことも愛ですし。過剰に束縛したり、相手に何かを求めたりするのではなく、ただただ見守ったり、そっと水を注いだりするようなことが本当の愛なのかもしれないなって。そういうことにちょっとずつ気づくタイミングがあったんですよね。

―― ラブソングの“ラブ”の概念が変わってきたんですね。

そうですね。愛してほしいばかりだった自分が、愛する側になっている気がするんです。今回の「まばたき」みたいな歌詞は、10代の頃の私には書けなかっただろうなと思います。逆に、このシングルEPには昔の楽曲のセルフカバーも入っているんですけど、「これはもう今の私には書けないだろうな」とも思うし。歌ってみたときの自分のなかでの響き方も違ったりするんですよね。おもしろいな、ひとって成長するんだなと改めて感じました。

たとえば「「かわいい」」は、好きなひとがいたときに書いた曲で。<そばにいるだけでもう十分だ 何もいらないや>と言いつつ、本当は<抱きしめてほしい>みたいな。こんなに衝動的でわがままでピュアな片思いソングは、あの頃だからこそ作れたんだろうなって。あと「ラタムニカ」は、かなり過激な歌詞で、最近はこういうタイプの曲も書いていないので、歌っていて新鮮でしたね。

―― 「ラタムニカ」の<誰も気付かず朽ちて死んでいけよ>などなかなか強烈なフレーズですもんね。

私の曲で他にないし、もう二度と書かないフレーズだろうなと思います。これは高校生のときに書いた曲なんですけど。すごくお父さんのことが好きだった友だちがいて、でも中学に上がってから、急に嫌い始めたんですよ。お父さんが家にあまり帰ってこなくなったりした時期みたいで。あんなに仲良かったのに、「もうあいつの顔も見たくない」とまで言い出すようになりました。私はそれをそばで見ていて、「でもこれって、ただ“嫌い”という感情だけじゃないよな」って感じたんですよね。

―― それもまた愛の裏返しというか。

そうなんです。ラストで<お願い 最後だけ 抱きしめてよ>って言ってるんですけど、やっぱり愛なんですよね。本当は好きなのに、家に帰ってこなくて嫌だとか、うまく伝えられないとか、いろんな感情が渦巻いている気がして。過激な言葉の裏側に、まったく違う気持ちを秘めていることって自分もありますし。そういう状況を10代だからこそ、少し攻撃的、衝動的に書けた歌詞である気がします。意外とファンの方にもライブで歌ってほしいって言われることが多い曲だったりするんですよ。

―― さくらさんは、どんなときに曲を作りたくなったり、歌詞を書きたくなったりすることが多いのでしょうか。

自分の感情か、誰かの話が腑に落ちたときな気がしますね。私は頭のなかに漠然と何かがあるんだけれど、うまく言葉にできない段階が長く続くんです。そういうとき友だちに会って、「今の私、こうなんだよね」って相談をしていくなかで、「あ、こういう感情なんだ」って気づくことが多くて。逆に話を聞いていて、「そういう考え方もあるんだ」って思ったり。会話をしていて、「いいかも、このフレーズ」ってメモすることがわりとあります。

あとタイアップではない場合のラブソングは、やっぱり自分が恋愛しているときにリアルタイムで出てきますね。喧嘩したときとか、別れたときとか、すごく幸せでたまらないけれど、ちょっと不安なときとか。

―― 幸せ100%のときより、ネガティブな感情が混ざっているときのほうが生まれやすいんですね。

そのとおりです。あまりにも幸せだったら歌詞を書かなくてもよくなったりする。一時期コロナ禍で、引っ越してすごくポジティブだったとき、歌詞を書けなくなりました。結局、ハッピー!幸せ!みたいな曲を書いたんですけど(笑)。そういう時期は制作スイッチを切り替えないと出てこなくなっちゃいますね。アーティストの友だちと話していても結構、「今幸せだからあんまり浮かばない」とか聞きます。あと、もちろん今だって何かしらの不満はあるんですけど、10代の頃に比べると、どこか折り合いをつけられるようになってきたというか。

―― よくも悪くも、他者を受け入れられるようになってきますよね。

うんうん。視野が広がってきて、「子羊たちよ…」みたいな目線で人間を見ると、憎まなくなったりするじゃないですか(笑)。つまり、大人になって「まぁいろんなひとがいるから」って思えてしまう難しさもあるんですよ。

それは一見いいことだけれど、尖っていた昔のほうが、「なにくそ!」って歌詞にできていた気がして。大人になったがゆえに「ラタムニカ」のような曲はもう書けない。それは寂しいなと。やっぱり負の感情があるときにこそ、言葉が湯水のように出てきたりするから、音楽を続けている上では自分を不幸に置いておいたほうがいいのかもしれない…、と思ったりもしますね。

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