孤独だった感情に対して「わかる」と言ってもらえる心強さ。

―― さくらさんは楽曲によって人称や表記を使い分けられていますが、何かこだわりはありますか? たとえば今回ですと「まばたき」は<君>で、「Just the way we are」は<きみ>ですね。

私はもう毎回フィーリングです。だから最後の最後、文字校正のときに、「あ、やっぱりここの表記は変えよう」とかも結構あります。音としては同じだけど、歌詞を文字で見たときの感覚として、カタカナ、ひらがな、漢字、使いたくなるものがなんとなく違って。ちょっと文学的な男性像だったら、漢字にしたくなったり。

あと<私>と<あたし>も曲によって違うんですけど、それは歌っているときの感じかもしれません。<あたし>って歌いたいときと、<私>って歌いたいときがある。深く考えてというより、感覚で決まりますね。

―― 歌詞を書いていてとくに難しいと思うのはどんなときですか?

いちばんは文字数ですかね。とくに「まばたき」のような曲は、ゆったりしたメロディーのなかに、ちゃんと歌詞をはめなきゃいけなかったりして。「この表現がすごく気に入っているのに、文字数がうまくハマらないなぁ…」と悩むことが結構ありました。そういうときには何回もいろんな言葉を出していきますね。

家では書けなくて、ノートを2冊ぐらい持って、よくひとりでカフェに行くんです。まず1冊目に書いてみて、そっちを見ながら、2冊目に違う言い回しで書いて、たまにiPhoneのメモにもつるっと書いてみたり。その繰り返しです。iPhoneだと消しちゃったら残らないので、ノートに言葉の軌跡を記録しながら書いています。

―― 作詞をする際に、使わないように意識している言葉はありますか?

難しい四字熟語とか見慣れない漢字ですね。詩集を読んだりして、小難しい表現に憧れていた時期もあるんですけど、自分の身体になじんでなさすぎてしっくりこなくて。今は、わりと簡単な言葉だけれど、うまく表現するひとに惹かれます。

たとえば、星野源さんの書く歌詞が好きで。小学生でもわかるような言葉だけど、使い方によって深い意味を持ったりするじゃないですか。いつもすごいなと思っています。英会話とかでもよく言いますけど、中学英語ですべて表現できる世界観というか、そっちのほうが自分に合っている気がするし、そういう曲を書きたいですね。

―― これまでいろんなタイプの楽曲を書いてこられたかと思いますが、ご自身が描く主人公像に何か共通する特徴や性質ってありますか?

共通するというより、自分が変わってきているから、どんどん主人公も強くなっている気がします(笑)。昔はもっとしょぼんとした女の子の像が多かったと思うんですけど、ちょっと悟ってきている。広くなってきている。ほとんど自分の実体験や感情しか書かないアーティストは、他にどんなあるあるがあるんですかね。

―― 男性アーティストだと、「女々しくなりがち」というのはよく聞く気がします。

たしかに! 女々しい男性像が主人公の歌は多い気がする。そして女子はどんどん強くなっていく(笑)。そもそも元から強い男性って、曲を書かなくていい気もするし。私の曲はやっぱりどこかしらに自分の気持ちが入っていることが多いので、自分とかけ離れすぎている主人公は最近書いてないんですけど、あまり統一感はないかもしれないですね。

―― 主人公に統一感がないというのは、さくらさんご自身も「私はこういうタイプ」という固定を作らないからかもしれないですね。

photo_01です。

そうかもしれないですね。あと、関わるひとによって、全然違う私が出てくるんですよ。いろんな一面が。家族の前の私なんて、めちゃくちゃわがままで(笑)。子供の頃の動画とか見ても本当にひどい。でも、そういうところも愛してもらえるとわかっている相手には、自分の見せ方が変わってくるじゃないですか。それと同じで、いろんなひとに対しての曲があるから、出てくる私も主人公像も違う気がしますね。

―― 先ほども少しお話をお伺いしたように、さくらさんは役者としても活躍されていますが、演じている役として歌詞を書かれることもあるのでしょうか。

ドラマ『ラヴソング』で佐野さくら役をやったあとに、『PLAY』というアルバムを出したんですけど、そのときは彼女に想いを馳せて曲を作ったりしましたね。あと、男の子目線の歌詞とかも、自分自身の感情というより役を想像するような感じで書くことがあります。それは自分とは違う人格だなと思いますね。

―― それは役の人格がご自身のなかに残っている感覚ですか?

いや、呼び起す感覚です。役者さんによると思うんですけど、私は日常生活でも役の人格を引きずっちゃうみたいなことはなくて。撮影中にその場その場で、「どういう気持ちなんだろう」って考えながら演じている感じなんですね。だから歌詞を書くときにも、「きっと今はこういうふうに過ごしているんじゃないかな」とか「その子が幸せだったらいいな」って感覚を呼び起こしています。

―― さくらさんにとって、歌詞とはどういう存在のものですか?

音楽を聴いている方と、自分の考えを共有できて、繋がれるものですね。ブログとかもやっているんですけど、もう2~3年更新してないので(笑)。こういうインタビューだったら、自分が深いところで感じていることを、曲を紹介する上で話せますけど、日常生活のなかではちょっと恥ずかしいじゃないですか。でもそれが歌詞だと、自然に伝わるというか。それぞれの感情を一致させることができる存在だなと思います。

今回セルフカバーした「ゆめのなか」は、ファン投票で「この曲を歌ってほしい」という声がいちばん多かったので収録したんですけど、この曲もたくさん共感の声をいただいて。「わかる。私もそう感じてた」とか「自分の息子のことを思い出して、泣いてしまいました」とか言ってもらったんです。孤独だった感情に対して「わかる」と言ってもらえる心強さがありました。だからみんな歌うのかなって思うんですよね。

―― 実はブログよりも赤裸々に書けるものが歌詞なのかもしれないですね。

そうですね。とくにこういう職業柄、恋愛のことなんてなかなか話さないじゃないですか。「今、彼氏と喧嘩しているんですけど…」とか(笑)。でも不思議なことに、歌詞はいろんな捉え方ができるし、すべてが自分の実話に基づいているわけじゃないからこそ、本当のことを自然にアウトプットできちゃうんです。ポエムを誰かに見せるとなったら、超恥ずかしいのに、それが歌なら歌えるって、おもしろい仕事だなぁって思ったりしますね。

―― ありがとうございます。最後に、これから挑戦してみたい歌詞を教えてください。

最近、くるりさんが出された「真夏日」という曲が好きで。歌詞に描かれている情景とかも素敵なんですけど、8分半くらいあるんですよ。大きな展開が続くわけじゃないのに全く聞き飽きなくてすごいなぁと。私はそういうちょっと戯曲的な作品って作ったことがないので、いつか挑戦してみたいと思いました。

そういう曲でMVとか作ったら、映画とまではいかなくても、みんながより没入できる世界観を作れるんじゃないかなって。やっぱりいつもは文字制限があるから、入れたかったけど省く感情もあるし。もっと長いスパンでいろんなことを描いた歌詞を書いてみたいですね。


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