どれだけ一緒にいたかではなく、どれだけ瞬間を固められたかが大事だと思った。

―― タイトル曲「まばたき」はどのように生まれた楽曲ですか?

リリース時期が決定して、「久しぶりに恋愛の曲を書いてみるのもいいかもね」ってスタッフの方たちと話して着手したんですけど、曲自体はもっと前に作っていて、そこに歌詞を乗せていった感じで。だから結構、デモの雰囲気に引っ張ってもらったところも多かった気がします。主人公が自分とかけ離れているわけではないけれど、音に助けてもらってイメージを広げたというか。

どんなラブソングにしようかと考えたとき、自分が失恋の曲を書くなら、どんな気持ちになるのか、何度もデモを聴きながら書いていきました。淡い別れの時間の、絶妙な心のコントラストを描いたことって今まであまりなかったなと思ったりして。そしてこの曲で最も言いたい、「最後を見逃したくない」という気持ちをタイトルにしたいなと、最後に「まばたき」とつけました。

―― さくらさんは現在、ドラマ『束の間の一花』のヒロイン・一花を演じられていますが、そこからラブソングモードのスイッチが入ったところもあるのでしょうか。

photo_01です。

あ、それもあるかもしれません。『束の間の一花』の台本を読んでいくなかでも、自然と一花と先生にリンクするものを感じるんですよ。もちろん人間はいつか必ず死ぬし、出会いには必ず別れがあるじゃないですか。だけどいざ、「あと余命はこれしかありません」って言われたとき、残りの時間の過ごし方、人生の考え方ってまったく変わってくる。そういう哲学的な要素もあるドラマで。

そのなかで私は、「何気なく過ごしちゃうと、時間って何気なく過ぎていっちゃうけど、ぎゅっと固められたら、時間も固められるのかな」みたいなセリフがすごく印象的だったんです。どれだけ長く一緒にいたかではなく、どれだけ瞬間を固められたかが大事だと思ったし、それはすべての出来事に応用できるんじゃないかなって。ほんの数週間の出来事だとしても、その思い出が死ぬ間際まで残っていることってきっとあるじゃないですか。

―― きっとありますね。たとえ短くとも濃密だった瞬間が一生のお守りになるような。

そういう気持ちが「まばたき」に乗ったらいいなと思いました。歌詞を書いたとき、『束の間の一花』をすごく意識したわけではないのに、自然と二人にも通ずる内容になっていましたね。最後の残り香を大事にするようなラブソングにしたかったんです。

―― 最後の残り香のなかだからこそ、<まばたきなど したくないよ 今日は>というフレーズがいっそう際立ちます。

もう少しで別れるとわかりつつも、まばたきすら惜しいほどの今の光景を写真に残しておきたい、という恋心も描きたかったんですよね。失恋して、「こんな気持ちになるなら、最初から出会わなければよかった」ってひともいますけど、私はそうは思わないタイプで。そのひとに出会ったことで、自分の考え方が変わったりしたことも、大事な経験で。忘れることはないし、無駄じゃなかったと思えるんじゃないかなって。だから、もの悲しいけれど、寂しすぎる絶望ではないような曲にしたいなと思いながら作りましたね。

―― <まだ触れてるような温度で しまっといてよ>というフレーズは、自分にとっての<君>の温度だけではなく、相手にとっての自分の温度も冷めていってしまうこともわかっている切なさがありますね。

ちょっと遠距離恋愛みたいなものも考えて作ったところもあります。お互いに<重なって分かる君の 胸の奥の 熱い夏も 遠くでは霞んじゃう>ところがあって、どんどん相手の気持ちがわからなくなっていって。近くにいるとわかったような気になるけれど、それでもわからないところがあって。そういう物理的な距離、精神的な距離を考えながら作ったので、「遠く」と「近く」、「熱さ」と「冷たさ」みたいな対比を多用していますね。

―― さくらさんが「まばたき」でいちばん好きなフレーズを教えてください。

自分にいちばん近いなという意味で、最初の<寂しいと思ったときに 強がったり 大人になって 子供みたいなの>ですね。やっぱり大人になっても、どうしても子どもみたいな部分があるんですよ。私は今こうやって、愛がなんたらとか語っていますけど(笑)、実際は強がってしまったり、素直に言えばいいのに言えなくてこじれたりすることが今でも全然あるので。

まぁでも、むらがあるほうが人間くさくていいんじゃないかなとも思うんですよね。こういう女性になれたらカッコいいなって理想を抱いたりもしますけど、それはもう私じゃない気もするし。自分の弱いところ、わがままなところ、子どもっぽいところともうまく付き合いながら、ぶつかり合いながら、他者と関係を築いていくしかないんだろうなと思っています。

―― 個人的には<何だかな…って一体 何度繰り返せば 足りないことに慣れてしまえるだろう>というフレーズも好きです。この<何だかな…>の余白で揺れている感情って複雑ですよね。

人間関係って本当に難しいなぁって思うとき<何だかな…>って言いたくなりますよね。友だちともそういう話ってするじゃないですか。恋愛に限らず、仕事の話とかでも。「何だかなぁ…、うまくいってるっちゃいってるんだけど、ここがなぁ…」みたいな。で、そういう話をしているときは、「あ、大丈夫かもしれない。次も前を向いてやっていける」って思ったりするんです。だけど夜になるとまたすごい波打ってきて…。

―― まさに<心の波を 縫い付けて 沈めてほしい 海へ>って思うことあります。

本当に。もう何にしてもそうなんですよ。波をグッと沈めて、冷静になって話せたらいいのに、イラっとしたときについ「え?」とか言っちゃう。しかも私の場合、怒ってガーッて言うより、泣いちゃうことが多いんですよ。感情が溢れちゃって。1回波を落ち着けて、話したいなって思うことがたくさんあって。そういう気持ちも<伝わって もっと早く 欲張っては 泣けてきちゃって 困らせちゃうよね>と書いていたりします。

でも多分これって私だけじゃなくて、結構みんな感じたことがあるんじゃないかなって。どれだけ大人なひとでも、心のなかでかちんとくることはあるでしょうし。「まばたき」で描いた、ひと言では表せないような絶妙な感情が、いろんなひとに当てはまればいいなと思っていますね。

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