やっとタイトルにできた「愛」と「平和」…!全12曲入りニューアルバム!

 2022年10月5日に“高橋優”が8th Album『ReLOVE & RePEACE』をリリース! 全12曲が収録されている今作。アルバムタイトルは、曲作りを進める上で、コロナ禍や戦争など身近なところから世界の情勢を鑑みてもう一度、人とのつながりを実感できたらという思いで名付けられました。12年前、リアルタイム・シンガーソングライターとしてデビューした高橋優は“今”をどう見つめているのか…。「何かを発信する=誰かを傷つける」かもしれないと、時に迷い、立ち止まりながらも、彼史上最ものびのび作れたという楽曲たちへの想いをじっくりとお伺いしました。
(取材・文 / 井出美緒)
勿忘草作詞・作曲:高橋優どこまでも続いていくのは 道でも日々でもないもの
こころざした日の約束は 今も蜃気楼
あなたの声が時を超えて私の名前を呼んだのは
間違いじゃなくつむじ風の悪戯 聞かせてくれよ何度でも
指差したのは 喜びを分かち合うための合図だった
あの空へと向けられた人差し指 青く溶け出してく 飛行機雲
もっと歌詞を見る
何を書いても、誰かを傷つけたことになってしまう世の中がやってきた気がした。

―― 先日、『SWEET LOVE SHOWER 2022』で、久しぶりに優さんの生ライブを拝見することができまして、最高でした。

ありがとうございます! しかも僕がライブをやらせていただいたあの瞬間だけ、少し晴れましたからね。暑くも寒くもなく、すごく心地のいい時間だったなと思います。

―― ようやく少しずつフェスが戻ってきた気がしますね。

嬉しい反面、やっぱりまだ考えさせられることも多いですね。お客さんは声を出せないから、煽っちゃダメだし。そこに対してSNSとかで賛否両論を言っているひとたちは、好きにやっていたらいいと僕は思うんです。だけど、フェスが開催されること自体、本当に怖がっていたり、身の危険を感じていたりするひとがたくさんいるのも事実で。それをどこかで気にしながら歌っている部分があって。

2年間で敷かれた僕らへの特殊な価値観みたいなものが、また完全に塗り替わって、会うことが100%嬉しいと言えて、フェスが開催されることがみんなにとっての救いや希望になるといいなって。ラブシャでもそんなことを思いながら歌っていました。あの日もMCで言いましたけど、このアルバムに入っている「HIGH FIVE」をいつかみんなと一緒に歌える日が来たらいいなと心から思いますね。

―― コロナ禍を経たことで、「明日はきっといい日になる」のサビの言霊力がより増しているようにも感じました。優さんご自身も、歌っていて感じる気持ちが異なることはありますか?

photo_01です。

歌うごとに気持ちが違うことのほうが多いですね。それをいちばん如実に感じたのは「福笑い」という曲で。リリースは2011年の2月だったんですけど、その前も1年間ぐらいライブでは弾き語りで歌っていたんですよ。そしていざリリースしたら、翌月に東日本大震災があって。そうしたらまさに今と同じように、聴くひとのシチュエーションが大きく変わったことで、2011年の上半期に最もラジオでかけていただいた曲になったんです。そのとき、「あぁ、曲って、聴くひとのものになるんだな」って強く感じました。

聴いたときのそのひとの状況によって、ヘヴィーに聴こえる日もあれば、ライトに聴こえる日もある。Aメロが刺さる日もあれば、サビに共感する日もある。それはやっぱり歌う側の僕も同じだなと思います。<明日はきっといい日になる>って歌いながら、「じゃあ今日はどうなんだ?」とか、ひとりで考えこんじゃうときもあるし。「福笑い」を歌いながら、自分が笑えているのか全然わからない日もあるし。だから、聴いてくれたひとのその時々の感想をいただけるのも幸せなことだなと思いますね。

―― ちなみに、今お伺いした「福笑い」は、今夏のフェスのセトリにあまり含まれていないですよね。珍しいなと思いまして。毎回、セトリのさじ加減はどのようにされているのでしょうか。

あ、たしかに今年「福笑い」をやってない。なんでだろう…。ただ、深い意図はないです(笑)。ワンシーズンでフェスに出させていただくとしたら、まずひとつ基盤となるセトリを決めるんですね。そこから、「このフェスでは1曲目と最後を変えよう」とか多少の調整があるくらいで。その基盤を決めるとき一応、代表曲というか、認知度がある曲が候補として先に来る感じです。

フェスの場合、どこかで聴いたことある曲が入っているほうが、たまたまステージを通りかかったひとにも楽しんでいただける可能性があるじゃないですか。こないだ山下達郎さんとお話させていただいたときも、「絶対に、何が何でも、「クリスマス・イブ」はやるんだ」とおっしゃっていて。同じ感覚はありますね。個人的にはやらなきゃやらないでもいいんですけど、みんなに盛り上がって楽しんでもらえることがいちばんだと思っています。

―― ざっくりした質問で恐縮ですが、最近の優さんは、どんなことを考えることが多いですか?

考えていることかぁ…。無難ですけど、健康。心身ともに。

―― 健康。

そう。ついこないだまで、僕の部屋が見るに堪えないほど散らかっていたんですよ。散らかっている意識すらないぐらい忙しくて。でも忙しいっていうのも変な話なんですよね。好きな曲を書いて、好きにレコーディングをやらせてもらって、好きなことしかやってないのに、それで眠れてなかったり。帰って作業していたら、あっという間に夜中になっちゃって、次の日も朝から作業だったり。そうしたら洗濯物はめちゃくちゃ溜まるわ、机の上は汚いわ。とくに机の上が汚いときって大体、僕がちょっと病んでいるときなんです。

―― わかります。連動しますよね。

まさに全部が連動しています。だから逆に、「あ、汚い」って気づけたってことは、ちょっと復活してきたんだなと思ったんですよね。完全なる制作期間の陰なモードから、またしっかり整えていこうって感じに。僕の場合は喉が楽器なので、それを無視して、酒タバコをやりながらロックンロール!って言えるカッコいいひとではなくて。ちゃんと健康で、血の巡りもいい状態に自分をしておかなきゃいけないって意識があって。

運動をしたりすると、自然と部屋も綺麗になっていくんですよ。だから最近はジョギングをしたり、ジムに行ったりしている時間がわりと長くなっています。家では、ごみを捨てたり、洗濯したり、汚れているところをたくさん拭いたりね。前はずーっとパソコンと向き合っていましたから。

―― 心身の健康を考えるようになったのは、最近のことですか?

ここ1~2年ですね。やっぱりコロナ禍で。コロナウイルスってなんか…誰かにとって都合いいルールのウイルスができたなと思っちゃったんですよね。罹るひともいれば、罹らないひともいるし、罹っても無症状なひともいれば、重症になる方もいて。変な考え方ですけど、説明の仕方で何とでも言えちゃうじゃないですか。じゃあ、いちばん大切なのはもう、自分の免疫力を上げることだと。メンタルにもいいし、何より喉にいい。いいことしかない。だからとりあえず、免疫力爆上げ作戦で行こうと。

―― また、優さんは常に世の中のリアルタイムを切り取って表現されてきましたが、コロナ禍は1~2年でとんでもなくいろんなことがあったじゃないですか。そのなかで「何を書くか」「何を書かないか」を選ぶのは、より難しかったのではないでしょうか。

うん、すごく迷いました。だから「何を書かないか」は最初の段階では考えないようにしたんですよ。たとえば、今回のアルバム1曲目「あいのうた」はもともと、世の中で起こった事件のことを、もう今ここでも話せないぐらいそのまま歌詞に書いたりしていて。それを1回歌って、スタッフにも聴いてもらえるぐらいの段階まで作った音源バージョンがあって。でも、このまま出すのは絶対に無理だと自分でもわかっていたので、スタッフに聴いてもらったあと、「ここは書き直すので安心してください」みたいな(笑)。

―― ご自身で俯瞰して「書かない」部分を調節するのですね。

そうそう。書いたあとで少し俯瞰する視点を持つことは、デビューしてからの12年で多少は養われたかなと思います。直接的に誰かが傷つく可能性があるものは、あんまりクリエイティブじゃないなと思うんですよ。それはやめるようにしています。

―― 以前、クリープハイプの尾崎世界観さんに取材した際、「昔の歌詞に対して「差別的だ」とあげつらわれたりもする。曲ってずっと残る良さがあると思っていたけれど、残る怖さもある」とおっしゃっていたのが印象的でした。優さんは歌詞を書く際、そういった面での迷いはあったりしますか?

ありますね。去年、曲が書けなくなった時期もありました。何を書いても、誰かを傷つけたことになってしまう世の中がやってきた気がしたんですよ。世の中で何かを発信する=誰かを傷つける、みたいな。それを考えるとやっぱり制作する身としてすごく難しい。誰かのことを誹謗中傷したいと思って音楽を作るわけないはずで。だけど、意図せず誰かを傷つけてしまったら嫌だなというところで、立ち止まってしまったことはありました。

―― 自分の意図しなかった楽曲解釈をSNSなどで見つけることもありますよね。そういう声はご自身の歌詞に反映されますか?

「あぁ、これはやめたほうがいいのかな」って思いはします。でも僕の場合、やっぱり一旦書いちゃうんですよ。自分はあまりバランスの取れている人間だと思っていなくて。とにかく作っちゃったりする。だから、スタッフの視点をすごく大事にしますね。「これを今、届けたい」とか僕の意見は言うけれど、絶対に聞く耳は持っていようと思うんですよ。

あと、実は今回のアルバム収録曲でも、大人の事情で結構、意外な歌詞のワードが「ここもダメ」「あれもダメ」ってあったんです。僕のなかでは、「大したこと…」って思っちゃうんですけど、何回も書き直しまして。多分、スタッフも僕に言わなきゃいけないのは、つらかったと思います。書き上げてきた曲に対して、「こことここの歌詞は誤解を生むかもしれません」みたいな。僕も難しいなと感じるところは多かったですね。

―― そうですよね。日常会話のなかでも、ちょっとしたひと言で誤解されてしまうことってありますし。

そうそう。だから逆に言うと、それこそ尾崎くんが言っていたような難しいことっていっぱいあるけれど、今はわりとリリースする前に、「これダメです」って言われるから、そこは事前に誤解を防ぐことができて幸いなのかもしれないですよね。リリースできたということは、「今の世の中上、大丈夫なものまでには仕上がりました」ということなので。

ただ一方で、歌って、意図しないものを受け取ってもらえることのほうが多いんです。僕がまったく考えもしなかった視点で感動してもらったり。逆に不快な気持ちにさせてしまったり。それが芸術の宿命だと思っているところもあって。多少のすれ違いは人間関係と同じなのかもしれないですよね。

123