むしろ「制限よ、ありがとう」って思います。

―― リード曲「勿忘草」は、なんだか涙が出てしまうような温かさがありました。

うわー、嬉しい。この曲はスタッフも、好きって言ってくれるひとが多くて。去年の春ごろに書いていたんですよ。たたきをワンコーラス、打ち込みで作って。それをしばらく温めておいて。すごくスタッフのみなさんに愛してもらった曲だなと思います。

―― 歌い方も優しいですよね。たったひとりに語りかけている感覚というか。

うん。僕、風のなかに誰かを感じることが時々あるんですよ。あんまり神様とかスピリチュアルな話を強く信じるタイプではないんですけど。でもずっと会ってなくてもなんとなく、「あのひと元気かな」って急に思い出したり。そういう、一瞬の風に誰かがよぎる感じ。一瞬のなかの永遠…っていうと矛盾するような言葉だけど。ずっと大切にしていたものが、その一瞬のなかにあったりするのかも、という発想から生まれた曲ですね。

―― 選ぶのが難しいと思うのですが、アルバム収録曲でとくに思い入れが強い楽曲というと?

雪の筆跡」かなぁ。この曲は高橋推しなんですよ。俺が入れたいって言わなかったら、入らなかったかもしれない。入れたかったのはまず、雪の曲をあまり書いてこなかったから。僕は秋田県で生まれたんだから、地元愛というか、雪景色を歌ってみないとって気持ちがあったんですよね。でもいざ歌うとなったら、何を書けばいいか全然わからなかった。雪って当たり前の景色すぎて。だからこの曲を書き終えるのに3~4年かかりました。

その結果、もっと当たり前のことが書けました。「雪は汚い」って(笑)。ただ、雪が汚いのは、ひとがいるから。誰もいなかったら、雪は結晶のまま美しくて白銀世界が保たれるのに、ひとが住み始めた途端に汚くなる。ってことは、ひとがいることで、必ずしも世の中が綺麗になるわけではない。そして、綺麗な景色を汚すことも、ひとつの生きている証であり、人間らしさなんじゃないかと思ったんですよね。

ノートに何か書いていても、消しゴムの跡が残っていると汚いじゃないですか。跡だけ見たら。でもそういうところに人間の余白があるというか。それはSNSの文字だけの世界にはないもので。汚さと美しさを表裏一体で歌いたかったんです。子どもの頃から雪を見てずっと思っていたことをこの曲で書けた気がします。

―― 「雪の筆跡」にはいろんな現実・感情・情景が描かれていますが、どのフレーズから書き始めたのでしょうか。

サビの<ゴールを描いたこの日々を 誇っているか 恥ずかしいのか ただそれだけさ 人生なんか>というフレーズを最初に書いた気がします。多分、<人生なんか>って歌いたかったんですよ。即興に近い作り方をしてみたんですけど、うまくいかなくて。全然いい言葉も出てこない。でもほとんどダメななかで、このサビだけは活かそうと思ったんですよね。そこから<人生なんか>って結ぶ言葉を考えて、「あ、これは広がるかもしれないから」って、粘って、粘って、何回か書き直して。そうやって作っていった曲ですね。

―― 雪、氷つながりで言うと、「氷の世界」の冒頭の描写も素晴らしいなと思いました。

嬉しいです。歌詞はね、楽しんで書いていました。<君の中にある寂しさ>から<という名の氷山の一角が>って、ちょっと韻を踏んでいるというか。僕は時々、パズル方式で曲を書くんです。最初の、タラララ、タラララ、ララッター♪って、大体12文字じゃないですか。で、なんとなく、タラララ(4文字)、タラララ(4文字)、ララッター(4文字)で分けて。その各4文字のなかに、たとえば「高橋」とか入れていくんです。それで、<高橋ドリンク飲んでった~♪>って一応、曲が書ける(笑)。変に芸術脳を使わず作ることができて楽なんですよね。

―― なるほど…! そのパズル方式からこの一連の秀逸な表現が生まれたのですね。

こうやって向き合って話していることを曲にしたい、と思って。でもそこを真っすぐ考えすぎちゃうとつまらない。普通のことを書いちゃう。だから、向き合っているのに、言葉の節々に寂しさを感じるニュアンスを表現したいなと。そこでさっきのパズル方式のときに、<君の中にある寂しさ>の次に来るワードを<という名の氷山の一角>と書いてみて、「こうするとより相手を奥ゆかしく感じるかな…」とか。そういう遊び心も入れながら、とくに楽しみながら作った曲ですね。

―― では、優さんがこのアルバム収録曲のなかで、「書けてよかった」と思うお気に入りフレーズを教えてください。

お気に入りはねぇ…「STAND BY ME!!!!」の<土産の玉手箱開けてフニャチンじゃん>。

―― これはNGワードにならなかったんですね(笑)。

そう(笑)。でもこの曲も他の部分でNGがあって、書き換えたフレーズがありました。フニャチンは大丈夫だったのに。

―― 楽しいテイストのサウンドですが、ワードはわりと際どいですもんね。

そうそう。だからこそ、丸くしすぎてしまったら失敗なんですよね。NGにならないギリギリのラインで、より意図に準じている言葉を探す。そういうクリエイティブの戦いがあった1曲です。むしろ「制限よ、ありがとう」って思います。制限してもらったおかげで、もっといいものができました。…って言わないと、ただただ悔しいことになってしまうので!

―― お気に入りフレーズは、フニャチンだけでいいですか?

よくないです(笑)。あとは「沈黙の合図」の<地球規模の自己紹介>とかも書けて嬉しかったな。

―― そもそも「沈黙の合図」はどのように生まれたのでしょうか。

ある日、僕はひとりでご飯を食べていたんですけど、おそらくマッチングアプリで知り合ったであろう男女が、僕の隣に座っていまして。ご飯のおいしいお店なのに、ふたりともコーヒーしか頼んでなくて。なんでもなかった僕の昼下がりが、そのふたりのおかげでめちゃくちゃ楽しい昼になったんですよ。そこから始まりました。

―― 実際にこのような雰囲気だったのですね。

そう、めちゃくちゃ気まずかった。隣にまで伝わってくる重い空気。最高でした。女のひとがかなりバリアを張っていたので、そこをこの曲でも表現させていただいて。別の知り合いで、マッチングアプリをよく利用している女性がいるんですけど、本当に帰りたくなることあるらしいです。アイコンは大体みんなイケメンなんですって。加工して盛るから。まぁ女子もやっているじゃないか!と思いますけど(笑)。で、それを見て、車で会いに行って、窓をコンコンッってやられて、バッって見たら…そのアイコンとは似ても似つかないひとがいて。窓も開けないまま帰ったことあるって。

―― それは強い…!

ね! そういう経験をたくさんしているひとの話も聞かせていただきました。残念ながら僕はマッチングアプリをやったことがないので、フィクションにはなっちゃうんですけど、これはもう完全に現代の恋愛の形ですよね。今のカップルは全員マッチングアプリで出会っていると聞いたので(笑)。そこに向き合わないわけにはいかないなとこの曲が生まれました。

―― 最後に<でも帰っても一人 もう一軒くらいなら…>と、脈ナシとも限らないニュアンスが残っているところもいいですね。

そこが大事だなと思いました。実際、一概にそのふたりがダメになるとも思わなかったんです。メロディーの譜割り的には<ああもう帰りたい お腹も空いてきた>で終わりなんですよ。でも、アウトロに入ったところに<でも帰っても一人 もう一軒くらいなら…>と最後つけ足したんです。それがないと救いがないから。マッチングアプリに限らず、そうじゃないですか。「絶対にあのふたりないだろ!」と思ったカップルがいきなり子ども作って帰ってきたり。だからその意外性というか、可能性を残しておきたいなと。

―― ありがとうございます。最後に、優さんがこれから挑戦してみたい歌詞を教えてください。

それこそいろんなひとから論破合戦されるような歌詞を書きたいですね。みんなきっと求めているじゃないですか。至らぬひと。ちょっと間違っているひと。そういうひとがいたら袋叩きにしたいじゃないですか。僕は袋叩きにされたくないですけど…。でも以前、森山直太朗さんが「生きてることが辛いなら」で<生きてることが辛いなら いっそ小さく死ねばいい>と歌って、世の中から批判というか、賛否両論があったじゃないですか。

―― ありましたね。

森山さんも当時いろいろ悩んだらしいです。でも、そういうふうに話題にあげてもらえること自体がありがたいことだなって。話が戻るようですけど、ゼロがいちばん残酷ですから。だから自分も、「高橋、お前それは違うよ!間違ってるよ!」ってみんなに言ってもらえるぐらいの言葉を書けているうちは、まだやっていけるかなって逆に思えるっていうか。

―― 「生きてることが辛いなら」も最後までちゃんと聴けば、<死ねばいい>って歌ではないとわかるのですが、難しいですよね。

そう、めちゃくちゃいい歌ですから。もしかしたら、文句を言うひとは、最後まで聴く余裕も時間もないのかもしれない。だからこそ、そういうひとたちも否定しないように、悪にしないようにいたいんですよね。音楽は誰かを「敵」か「味方」か決めるものではないと思うから。さっきお話したように、グレーをいかに美しく歌うか、グレーに近い部分をどう切り取っていくかが、今後の僕が書きたいものなんだと思いますね。

―― これからも優さんの歌詞を楽しみに読みます。

あ、読みますって言ってもらえるのすごく嬉しい! 歌詞カードを読んでくれるひとも今、少ないと思うんですよ。だから「沈黙の合図」はわざを男性マーク♂と女性マーク♀をつけて、歌詞カードを開いてくれたひとだけのお楽しみを作りたいって思いもあったんです。ぜひ、これからも楽しんでいただきたいですね。


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