いちばん恐ろしいのは論破合戦ではなく、誰もいなくなってしまうこと。

―― 優さんにはこれまで2度、アルバムタイミングで取材させていただいておりまして。2016年『来し方行く末』では「自分の全身をナタで叩き割って残したようなアルバムです」と、2018年『STARTING OVER』では「欠片とか一部分じゃなく、今の自分を全て出し切った」とおっしゃっていました。2020年『PERSONALITY』を経ての今作『ReLOVE & RePEACE』はどのような作品になりましたか?

まずコロナ禍って、インディーズの頃と生活サイクルがちょっと似ていたんですよ。部屋から出なくていい、というと言い方が悪いんですけど、みんな「ステイホーム」で。だけどミュージシャンってもともとそういうひとが多いと思うんですよね。ここ何年かありがたいことに、ラジオに出させていただいたり、表で活動させてもらうことも多くて。それがコロナ禍で、改めてインディーズ時代のような部屋に籠っての曲作りが叶った。

だから前作『PERSONALITY』のときは、作り方が原点回帰のようなところがありました。「もういっか!うんことかで書いちゃえ!(※「東京うんこ哀歌」)」みたいな(笑)。「絶対にタイアップ取りたい」とか「シングルにしなきゃ」とか思いながら書いていた時期もあるんです。でも『PERSONALITY』から、もっとのびのび自由に、どの曲もかなり自分らしく、先ほどお話したように、「まずはとにかく書いちゃえ!」って書き方ができるようになったんですよね。

―― その自由なのびのび感を経て、今作『ReLOVE & RePEACE』にたどり着いたんですね。

うん。だから今、「自分の全身をナタで叩き割って」とか言っていた時代もあったと聞いて、「そんなこと言っていたのか!」っておもしろかったです。『ReLOVE & RePEACE』は、今までのなかでいちばん自由に楽しく、のびのびと作れた気がします。

―― アルバムタイトルはいつ頃に思いつきました?

結構、最近です。先々週ぐらい(笑)。ただ、ずっとどこかにあった想いを言葉にしないまま、歌い続けてきた気がしていて。とくに今年に入ってから。曲には書いてきたんですけど、すごく「愛」と「平和」についてひとりで考えていたんですよね。いつもラブ&ピースの影がよぎっていた。それをやっとタイトルにできた感覚です。

―― 優さんのアルバムは毎回、1曲目のパンチがかなり強い印象があります。これまでだと「Mr.Complex Man」「美しい鳥」「八卦良」、そして今回は「あいのうた」です。

あ、たしかに。言われてみると、1曲目をバラードにしたことって1回もない。曲作りのときは、アルバムを意識しないで書くことのほうが多いんですね。でも、なんとなく自分のなかで、「あ、これは1曲目っぽいな」っていう感覚だけはあるんですよ。それはツアーの1曲目なのかもしれないけれど。やっぱり「あいのうた」を書いたときも、「あ、1曲目だ」って思っていたな。

―― 「1曲目っぽさ」とは、具体的にどんな性質なのでしょうか。

何だろう。1曲目って大事じゃないですか。その大事なところに持っていきたいパワーを持った曲というか…。あと活動を始めてからずっと、商業のことを考えるのは自分ではないって気持ちがあるんですね。ありがたいことに、僕はスタッフに恵まれているので、先ほどのNGワードの話も然り、タイアップを取ってきてくれたり、いろんなことを商業的にも考えてくれるんです。

photo_01です。

僕はそのなかで、のびのびと曲を書いて、好きなことを歌ってないと、バランスが取れなくなる。僕までサラリーマンになって、高橋優を金にすることを考えて作ったら、そんな歌を僕自身が聴きたくないと思う。なので、スタッフの「あぁ!それはさすがにやりすぎだ!」とか「それはいいんじゃないか!」という声を大事にしているんですよね。で、今回「あいのうた」を1曲目に、というのは僕以外にもそう言ってくれたスタッフがいて。

―― そこのジャッジを任せられるのは心強いですね。

今回は曲順もスタッフ3人にアンケート取りましたもん。そうしたら「あいのうた」は、たしか3人中3人が、序盤だったんですよね。

―― 「あいのうた」冒頭の歌詞は、毎日のようにTwitterのタイムラインなどで目にする論破合戦の模様がリアルです。

みんな…元気だなって思います(笑)。そこに向けるエネルギーがあるってことですからね。いちばん恐ろしい状態は、誰もいなくなってしまうこと、無になってしまうことだと思うんですよ。何にも興味がなくなっているひと、実は多いんじゃないかなって。僕もわりとそうなりがちで。本当に好きなこと以外はどっちでもいいし、どうでもいいって思っちゃう。でもそれって論破合戦しているひとたちからしたら、寂しいじゃないですか。

―― 「あなたの意見はどっちなの? 参加してよ!」って。

そうそう。僕はもともと、白黒はっきりつけることに興味がないというか。白でも黒でもないところのグラデーションを曲にしたくて。そういうひとの美しさに魅力を感じているんです。だけど論破したいひとたちって、白黒つけたかったり、大きい声で何かを言いたかったりするじゃないですか。それは元気じゃないとやれないなと思って。だから別に傷つくひとがいないなら、好きにやればいいんじゃないかなとも思うんですよね。

―― 優さんは逆に、声にしないひと、声にできないひとの気持ちを大事にしたいのかもしれないですね。

うん。僕、昔「(Where's)THE SILENT MAJORITY?」って曲を出したことがあるんですけど、本当に<声なき声>というか、物言わぬ多数派が日本人あるあるじゃないですか。僕も音楽をやってなかったら、SNSであーだこーだって言うタイプではなかっただろうし。だから、言えるひとたちって、ちょっとこう…すごいなぁって。

―― その論破合戦の次のフレーズ<君が笑顔でいてくれたらそれでいい とか歌い出して草 生える大草原を駆け抜けてゆくよ>のフレーズは、高橋優vs高橋優な気がしました。

僕は結構、ひとつのことに熱くなっちゃいがちなんですよ。それこそ「君が笑顔でいてくれたらそれでいい!」って言いたいみたいな。でもデビューしていろいろ歌っていくなかで、いつからかそういう自分を横から、「うわー、マジになっちゃってんじゃん」って見ている自分がいて。それに対して、「いやいや、今こそマジになろうぜ!」って言っている自分もいる。どっちも本当にいるんですよね。それが戦っている感じなのかな。

―― 白橋優 vs 黒橋優 みたいな感覚でしょうか。

あー(笑)。今年、そのタイトルでライブ(※『弾き語り武道館~黒橋優と白橋優~』)をやらせていただきまして。お客さんが、「今回の曲は黒橋だ」「これは白橋だ」ってめっちゃ言うんですよ。その言葉を逆輸入というか、お借りしてね。でも実は自分では、黒橋だとか白橋だとか思って書いてないんですよね。それこそ今おっしゃられたみたいに、「あいのうた」のなかに白橋も黒橋も混在しているじゃないですか。だけど「あいのうた」はみなさん“黒橋の曲”って言うんじゃないかな。

―― でも確実に白橋もいるんですよね。

そうなんですよ! どの曲にもどっちもいるんですよ。個人的には「福笑い」も、黒橋だと思っているし。「明日はきっといい日になる」だって、今日がいい日だったひとは、<明日はきっと>って歌わないですからね。…って言い始めると、高橋優めんどくさい!ってなっちゃうんですけど(笑)。だから自分では一概に、この曲は黒橋だ、白橋だって言わないし、思ってもいない。1曲のなかでもグラデーションを楽しみたいところがあると思います。もっと言えば、白黒じゃなく、赤の日もあれば、黄色の日もありますからね。

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