なにげない一言で、救われることもあるんだよ

死ぬるまで言いつづけるよなまじないの言葉をひとつ
よびにあとひとつ
(今橋愛)

 こちらは歌人・今橋愛さんの作品。みなさんにも、胸の内で唱える<まじないの言葉>ってありませんか? 身近な誰かが言ってくれたこと。映画やドラマのセリフ。歌のワンフレーズ。人それぞれ、その言葉があるだけで、いざというとき、挫けそうなとき、心に魔法がかかるのです。さて、今日のうたコラムではそんな<まじないの言葉>に通じる新曲をご紹介いたします。2018年4月12日に“福耳”が配信リリースした「イッツ・オールライト・ママ」です!

 福耳とは、オフィスオーガスタ所属のアーティストからなるスペシャルユニット。新曲の作詞は岡本定義(COIL)が、作曲は松室政哉が担当。さらに、山崎まさよし、大橋卓弥、竹原ピストル、長澤知之、秦基博、さかいゆう、浜端ヨウヘイといった男性アーティストがソロパートを歌唱。あらきゆうこのドラムや山崎のハープがサウンドに彩りを添え、杏子、元ちとせ、村上紗由里の女性シンガーがコーラスで盛り上げるポップなナンバーとなっております。

つまらない出来事で 凹みがちになるけど
なにげない一言で 救われることもあるんだよ

いつでも使える魔法の呪文を唱えよう
「イッツ・オールライト・ママ」/福耳

 まず、歌詞の冒頭に綴られている通り、わたしたちは日々<つまらない出来事で>心に穴が空くんですよね。時には出来事以上に“凹”が深く大きくなってしまったり、どんどん“凹”が増え続けてしまったり。だけど、そんなときに必要なのが<なにげない一言>です。その言葉が“凹”を埋める“凸”になってくれる。そして“凸”は自分にとって一生モノの<魔法の呪文>になることだってあると、この歌は教えてくれます。

ありふれた あたりまえの言葉を
素直にあなたに言えたらいいな
ずっと前から頑張ってるってことも
わかっているから面映ゆいんです
「イッツ・オールライト・ママ」/福耳

 サビは<あなた>の立場として聴いても、自分にとって大切な<あなた>を思い浮かべて聴いても、あたたかい想いが込み上げてきますね…。ここでは<魔法の呪文>を具体的に描いてないところも魅力。たとえば頑張っているとき、「頑張れ」が励みになる人もいれば、逆に「頑張りすぎないで」に救われる人もいます。だからこそ<あなた>に贈るべき<あたりまえの言葉>を考えて考えて<面映ゆい>気持ちになるのです。その“考える時間”こそが人の心の穴を埋める“凸”の愛の源なのではないでしょうか。

ささやかな幸せに 気がつくだけでいいんだよ
かけがえのないものに ただ包まれているんだよ

誰でも変われる不思議な鏡を覗き込もう
「イッツ・オールライト・ママ」/福耳

飾らないまま ありのまま
流されるまま なすがまま
さりげないまま ありのまま
なにげないまま なすがまま…
「イッツ・オールライト・ママ」/福耳

 また、この歌の大きなキーワードは、タイトルにも含まれている様々な【まま】です。飾らないまま、ありのまま、流されるまま、なすがまま、さりげないまま、なにげないまま。心がそんな【まま】の状態で在ることで<ありふれた あたりまえの言葉を 素直に>伝えられたり、なにげない一言が<魔法の言葉>であることに気づけたりするのでしょう。しかし、きっと【まま】=【何も変わらなくていい自分】ということではありません。

 むしろ【変わる】ことによって、自然と【まま】で生きてゆくことができるようになるのです。それは<ささやかな幸せに 気がつく>くらいのちょっとした意識の変化であり<誰でも変われる不思議な鏡>を覗き込むようなもの。このように一つ一つのフレーズで福耳のメンバーたちは、わたしたちが【まま】に生きるためのささやかな秘訣を教えてくれているのだと思います。

飾らないまま ありのまま (Let it go…)
流されるまま なすがまま (Let it be…)
さりげないまま ありのまま (Let it go…)
なにげないまま なすがまま…
「イッツ・オールライト・ママ」/福耳

 こうして幕を閉じてゆく歌。楽し気に重なってゆく歌声に合わせて、曲を口ずさんでみると、なんだかこの歌詞そのものが<魔法の言葉>のように思えてきます…!福耳「イッツ・オールライト・ママ」のほんのワンフレーズでも、頑張るあなたの日々にとってかけがえのないものになりますように。