それは何でもないような一日、あの子が消えたこと以外は。

 2015年6月、史上初のハイレゾ先行配信によるシングル『ココロ予報』でメジャーデビューを果たしたシンガーソングライター・丸本莉子。“癒しの歌声”で聴く者の心に寄り添う楽曲は、これまで様々なメディアで注目されてきました。そんな彼女が、2016年12月に3枚目のミニアルバムをリリース!さらに、11月30日には先行シングルとして「誰にもわからない」を発売することも決定しました。歌ネットではシングルリリースに先がけて、歌詞の先行公開がスタート。早速、その新曲をご紹介いたします!

それは何でもないような一日
あの子が消えたこと以外は
急に親しかったような顔をして
大げさに嘆く人に なりたくなかった

ねぇ神様っていると思う?
救われる確率はみんなが平等?
どうでもいい願いを叶えては
最期に縋った手をまた 振り払った
「誰にもわからない」/丸本莉子

 そんなフレーズで始まるこの曲は、これまで丸本莉子が届けてきた“やさしく包み込むような”癒しの楽曲から一転。悲しみ、虚しさ、不安、言葉にできない想い、ヒリヒリとした感情が綴られております。いつも通りに忙しなく動いていく街の中で、主人公がずっと考えているのは、この世から消えてしまった<あの子>のこと。亡くなってしまった理由はわかりませんが、<最期に縋った手>とあることから、ずっと心の中で誰かに助けを求めていたような姿が浮かんでくる気がしませんか…?

悲鳴のような踏切の音が
なぜか今日は耳に刺さった
その気もないくせに目を閉じては
横切る風と深い闇に怯えていた

踏み外さぬよう歩くことは
こんなにも難しいの?

誰にも分からない
なにを幸せと呼ぶ
でもあの日夢を語っていた
あの顔ばかりが浮かんでくる
あの顔ばかりが浮かんでくる

それは何でもないような一日
いつもの街が動き出した
忙しく行き交う 人ごみの中で
今もすれ違ったような気がしたんだ
「誰にもわからない」/丸本莉子

 思い出すのは<夢を語っていた あの顔ばかり>なのに、なぜか<悲鳴のような踏切の音>や<横切る風と深い闇>に胸が痛む…。そこから<あの子>の“光”と“闇”どちらの面も見えてくるようです。そして、<あの子>の死を他人事には思えず、<踏み外さぬよう歩くことは こんなにも難しいの?>と自分に重ねてみる主人公もまた、誰にもわからない“何か”を抱えているのではないでしょうか。ただ、これまではその“何か”を自覚していなかったのかもしれません。

弱っているときにしか見えないものがある。
調子のいいときには飛ばしてしまっている
見たくないようなちっぽけなことが
弱っているときには壁のしみみたいに
じわっと浮かび上がってくる。
(よしもとばなな『ジュージュー』より)

 この曲を聴いていたら、作家・よしもとばななさんの『ジュージュー』という小説に綴られていたこんな言葉を思い出しました。きっと「誰にもわからない」の主人公も<あの子>の“死”という出来事によって、初めてこれまで見えなかったものを見たのです。飛ばしてきてしまった、見ないようにしてきた、“生”に関する“何か”が浮かび上がってきたのです。

 また、「誰にもわからない」には“僕”や“私”といった一人称が登場しません。そこには、リスナーひとりひとりが“主人公”の気持ちになって聴いてほしいという、丸本莉子からの想いが込められているのではないでしょうか…。あたたかな優しさだけが“癒し”ではないということを教えてくれるようなこの新曲。<なにを幸せと呼ぶ>…そのメッセージの答えをみなさんも是非、歌詞を読みながらじっくり考えてみてください。