このコーナーでは、当時のランキングやエピソードと共に、「ザ・ベストテン」に出演した歌手のヒット曲を紹介していきます。第39回は1982年9月23日のランキングを紹介。
今月のスポットライトは、人気シンガー・ソングライター岡村孝子が、大学時代に友人と組んだデュオ・あみん。美しいハーモニーと切ない歌詞が印象的な大ヒット曲「待つわ」を取り上げます。
普通の女子大生だった二人 運命を変えた大ヒット
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 1981年春、名古屋にある椙山女学園大学のキャンパスで、入学したばかりの岡村孝子と加藤晴子は出会う。五十音での並びが「お」と「か」でたまたま席が前後になり、履修届の書き方を岡村が加藤に尋ねたのがきっかけだった。高校時代から曲作りを始めていた岡村は、ヤマハ主催のポプコンに応募するためにデュオを組むことを提案。岡村の尊敬するさだまさしの楽曲「パンプキン・パイとシナモン・ティー」に出てくる喫茶店「安眠」からとって、「あみん」と名付けた。その秋に行われたポプコンに応募するも、全国大会には進めず。翌82年春、再びポプコンに挑戦した時に歌ったのが「待つわ」だった。5月の全国大会で見事グランプリに輝くと、7月21日にこの曲がシングルとして発売され、デビューする。

 サビで何度も繰り返されて耳に残る「待つわ」のフレーズ。また、従来のデュエットのように交替で歌うのではなく、歌の大部分で岡村のボーカルに加藤のコーラスが重なる、美しいハーモニー。そんな“適度な難しさ”のハモリに、子どもから大人まで真似してチャレンジしたものだった。

 あみんは、ザ・ベストテンに8月26日に6位で初登場。9月23日にはついに第1位を獲得した。4週連続1位、計12週ランクイン。この年の年間ベストテンで第3位、オリコンでは年間1位に輝き、売上枚数は100万枚に達する大ヒットとなり、年末の「NHK紅白歌合戦」にも出場した。デビューから半年足らずの快挙だった。

 テレビ出演時の二人は色違いのお揃いの服を着て、左右に軽くステップを踏みながら歌うのが常。派手なドレスもアクセサリーもない姿はまったくアイドル然としておらず、真面目でおとなしい女子大生というイメージだった。司会者から話しかけられても二人で譲り合い、トークもぎこちなかった。

 大ヒットによって、彼女たちの生活は激変。テレビ出演や各地のキャンペーン、コンサートなど、多忙なスケジュールに追われるように。大ヒットしながらも、二人は試験とレポートの提出に追われる普通の大学生だった。9月23日、せっかくザ・ベストテンで「待つわ」が初めて1位になったにもかかわらず、二人は「試験中」という理由で出演せず。翌週中継で出演し、あらためて1位を祝った。紅白への出場が決まった時も、同じ理由で記者会見を欠席している。二人とも名古屋に住んでいたため、大学の授業を終えてから新幹線で東京へ向かい、歌番組に出演、終わるとハイヤーに乗せてもらって大急ぎで翌日までに名古屋へ戻り、試験を受ける…ということもあった。

 そんな日々が続き、加藤は音楽活動をやめて普通の学生に戻りたいと願うようになる。岡村は「自分が無理やり引き込んでしまった」という気持ちもあって同意し、特に解散を宣言しないまま、83年12月、あみんは活動を停止。岡村は、別のパートナーと組むことも周囲から提案されたが、あみんはこの二人以外に考えられない、と断ったという。デビューからの活動期間は、わずか1年半だった。

 その後、加藤は卒業・就職。岡村も一般人に戻っていたが、歌への情熱は消えることなく、1985年にソロデビュー。才能を開花させ、美しいメロディーと共感を呼ぶ歌詞で、男女問わず支持を集めていった。やがて「夢をあきらめないで」「Believe」などをヒットさせて、人気シンガー・ソングライターとしての地位を築く。

 その間も、岡村と加藤の親しい関係は続いていた。2002年、岡村の20周年記念アルバムに加藤がコーラスで参加。2007年、正式に「あみん」名義でオリジナルアルバムをリリースし、24年ぶりに活動を再開。紅白歌合戦にも出場し「待つわ'07」を歌った。2018年現在も「岡村孝子/あみん」という形で、各地でコンサート活動を行い、二人と同世代のファンを中心に歌でエールを送り続けている。

ザ・ベストテン☆エピソード
 初の第1位獲得の翌週、9月30日にも「待つわ」は第1位となり、あみんの二人は京都・嵐山の老舗旅館の中庭から中継で出演しました。1位になった歌手は、お祝いとして、多少わがままな希望でも実現してもらえるのがこの番組の常でしたが、二人の希望は「支えてくれているスタッフのみんなと乾杯がしたい」という控えめなもの。スタジオの黒柳が理由を尋ねると「私たち、まだお酒を飲んだことがなかったので、一度飲んでみたかったんです」と意外な告白。日本酒をグラスに注がれ、黒柳の音頭で、スタッフと共に乾杯。生まれて初めて口にするお酒とともに1位を祝ったのでした。
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