今月のスポットライトは、人気シンガー・ソングライター岡村孝子が、大学時代に友人と組んだデュオ・あみん。美しいハーモニーと切ない歌詞が印象的な大ヒット曲「待つわ」を取り上げます。
1981年春、名古屋にある椙山女学園大学のキャンパスで、入学したばかりの岡村孝子と加藤晴子は出会う。五十音での並びが「お」と「か」でたまたま席が前後になり、履修届の書き方を岡村が加藤に尋ねたのがきっかけだった。高校時代から曲作りを始めていた岡村は、ヤマハ主催のポプコンに応募するためにデュオを組むことを提案。岡村の尊敬するさだまさしの楽曲「パンプキン・パイとシナモン・ティー」に出てくる喫茶店「安眠」からとって、「あみん」と名付けた。その秋に行われたポプコンに応募するも、全国大会には進めず。翌82年春、再びポプコンに挑戦した時に歌ったのが「待つわ」だった。5月の全国大会で見事グランプリに輝くと、7月21日にこの曲がシングルとして発売され、デビューする。
サビで何度も繰り返されて耳に残る「待つわ」のフレーズ。また、従来のデュエットのように交替で歌うのではなく、歌の大部分で岡村のボーカルに加藤のコーラスが重なる、美しいハーモニー。そんな“適度な難しさ”のハモリに、子どもから大人まで真似してチャレンジしたものだった。
あみんは、ザ・ベストテンに8月26日に6位で初登場。9月23日にはついに第1位を獲得した。4週連続1位、計12週ランクイン。この年の年間ベストテンで第3位、オリコンでは年間1位に輝き、売上枚数は100万枚に達する大ヒットとなり、年末の「NHK紅白歌合戦」にも出場した。デビューから半年足らずの快挙だった。
テレビ出演時の二人は色違いのお揃いの服を着て、左右に軽くステップを踏みながら歌うのが常。派手なドレスもアクセサリーもない姿はまったくアイドル然としておらず、真面目でおとなしい女子大生というイメージだった。司会者から話しかけられても二人で譲り合い、トークもぎこちなかった。
大ヒットによって、彼女たちの生活は激変。テレビ出演や各地のキャンペーン、コンサートなど、多忙なスケジュールに追われるように。大ヒットしながらも、二人は試験とレポートの提出に追われる普通の大学生だった。9月23日、せっかくザ・ベストテンで「待つわ」が初めて1位になったにもかかわらず、二人は「試験中」という理由で出演せず。翌週中継で出演し、あらためて1位を祝った。紅白への出場が決まった時も、同じ理由で記者会見を欠席している。二人とも名古屋に住んでいたため、大学の授業を終えてから新幹線で東京へ向かい、歌番組に出演、終わるとハイヤーに乗せてもらって大急ぎで翌日までに名古屋へ戻り、試験を受ける…ということもあった。
そんな日々が続き、加藤は音楽活動をやめて普通の学生に戻りたいと願うようになる。岡村は「自分が無理やり引き込んでしまった」という気持ちもあって同意し、特に解散を宣言しないまま、83年12月、あみんは活動を停止。岡村は、別のパートナーと組むことも周囲から提案されたが、あみんはこの二人以外に考えられない、と断ったという。デビューからの活動期間は、わずか1年半だった。
その後、加藤は卒業・就職。岡村も一般人に戻っていたが、歌への情熱は消えることなく、1985年にソロデビュー。才能を開花させ、美しいメロディーと共感を呼ぶ歌詞で、男女問わず支持を集めていった。やがて「夢をあきらめないで」「Believe」などをヒットさせて、人気シンガー・ソングライターとしての地位を築く。
その間も、岡村と加藤の親しい関係は続いていた。2002年、岡村の20周年記念アルバムに加藤がコーラスで参加。2007年、正式に「あみん」名義でオリジナルアルバムをリリースし、24年ぶりに活動を再開。紅白歌合戦にも出場し「待つわ'07」を歌った。2018年現在も「岡村孝子/あみん」という形で、各地でコンサート活動を行い、二人と同世代のファンを中心に歌でエールを送り続けている。