このコーナーでは、当時のランキングやエピソードと共に、「ザ・ベストテン」に出演した歌手のヒット曲を紹介していきます。第35回は1987年4月30日のランキングを紹介。
今月のスポットライトは、長い髪とロングスカートが似合い、「ナンノ」の愛称で親しまれた南野陽子の可愛らしい魅力が詰まった「話しかけたかった」を取り上げます。
清楚で可愛らしいナンノの魅力全開! アイドルとしてステップアップ
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 南野陽子は兵庫県出身。1985年6月23日(18歳の誕生日当日)に「恥ずかしすぎて」で歌手デビュー。同年11月から放送開始された「スケバン刑事II~少女鉄仮面伝説」で主演し、二代目スケバン刑事・麻宮サキを熱演した。斉藤由貴主演の初代スケバン刑事の流れを受け継いで大人気となり、全国の視聴者が、土佐弁の決め台詞「おまんら、許さんぜよ!」を真似したものだった。当時大人気だったおニャン子クラブのメンバーが実名で登場するエピソードが挟まれるなど、ドラマと現実が交錯する企画もファンを喜ばせた。

 その「スケバン刑事」の挿入歌として流れていた「さよならのめまい」がランキングを上昇し、南野は86年2月6日、「ザ・ベストテン」のスポットライトに初出演。その後「悲しみモニュメント」「接近(アプローチ)」がランクインしているが、それぞれ1週・2週のみのランクインで大ヒットには結びつかず。「スケバン刑事II」は86年10月まで一年間放送された後、87年2月に劇場版が公開された。その主題歌となった「楽園のDoor」は、哲学的な歌詞が不思議とマッチしてヒット。ランクイン週数は8週間と大きく飛躍した。

 「スケバン刑事」関連曲から一転し、明るくアイドルらしい曲調になったのが7枚目のシングル「話しかけたかった」である。ウキウキする心を表現したような、春にピッタリの軽快なアレンジとリズムにのせて、恋する乙女心を歌ったもの。片思いしている彼を街で見かけたのに、はねた髪が気になって話しかけられなかった…という、実に初々しく可愛らしいフレーズは共感を呼び、女性ファンを増やすきっかけに。何より、それまで悲恋をテーマにマイナー調の曲をクールな表情で歌うことの多かった南野が、はにかみながら笑顔いっぱいで歌うことで、新しい魅力を開花させていた。

 「話しかけたかった」は4月16日に6位で初ランクイン、3週目の4月30日には自身初の第1位に輝いた。この日は髪のリボンからシャツ、ネクタイ、スカート、靴まで全身真っ白なコーディネートで出演。初の1位を祝い、上京する前の高校時代の女友達3人がサプライズで登場し花束をプレゼント。南野の母親からは炊き込みご飯とお赤飯のおにぎりが届けられた。松下アナが読み上げる母からのメッセージを、涙をこらえて聞く場面も。歌は、かつて南野が「学生服を着ている男性が素敵」と発言したのを受けて、バンドのメンバー全員が学生服姿で演奏。カメラスタッフや、司会の2人も学ランを着ていた。さらに、学生服とセーラー服の70名もの男女ダンサーがステージに登場し、南野と共にダンスして盛り上げた。翌週も1位をキープし、6週ランクイン。

 その後も「はいからさんが通る」「吐息でネット」「秋からも、そばにいて」などをヒットさせ、80年代後半のアイドルシーンを代表する存在となった。ザ・ベストテンは彼女にとっても目標の番組であり、数々の歌番組に出ていた中でも特に強い思い入れがあったようで、新しい衣装やトークネタを披露するのはこの番組が最初と決めていたという。とはいえ出番を待つ間から番組終了まで、息ができないほど緊張したそうだ。中でも緊張に拍車をかけていたのが、ミラーゲート。「出ていく直前、鏡のドアに写る自分の姿を見て、衣装の細かいところや、表情が硬いことが気になってしまっていた」と後年のインタビューで語っている。

 現在に至るまで女優として活躍中で、数々の映画・ドラマ・舞台に出演。また歌手としても時々ステージに立っている。2018年には、88年に「武田信玄」で湖衣姫を演じて以来、30年ぶりにNHK大河ドラマ「西郷どん」に出演。島津藩から徳川家に輿入れした篤姫の教育係・幾島を演じ、存在感を放っている。

ザ・ベストテン☆エピソード
 1988年11月3日、「秋からも、そばにいて」がランクインした南野陽子。枯葉が敷き詰められたセットの中、シックなドレス姿で歌っている途中、歌詞を忘れて歌えなくなってしまいます。司会の黒柳徹子は咄嗟に、番組台本の歌詞が載っている部分を見ながら大声で叫んだといいます。歌い終えた南野は「どうもすみませんでした。ごめんなさい…!」と深々と頭を下げました。後に「あの瞬間に、歌手生命が終わったと思いました」と語るほど苦い記憶に。しかし真摯に謝罪した姿とあわせ、視聴者には、それだけ彼女が歌に真剣に向き合っていることが伝わったのでした。現在の歌番組では、口パクで歌ったり足元のディスプレイに歌詞を映し出したりすることも多くなっていますが、当時の歌手たちはそんなサポートもなく、緊張と闘いながら生放送で歌っていたのです。
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