このコーナーでは、当時のランキングやエピソードと共に、「ザ・ベストテン」に出演した歌手のヒット曲を紹介していきます。第26回は1984年7月26日のランキングを紹介。
今月のスポットライトは、弾けるような明るくノリのよい曲調で、夏の定番デュエットソングとして愛され続けている、石川優子とチャゲ「ふたりの愛ランド」を取り上げます。
男女のハーモニーが楽しい、とびきりポップな夏ソング
spot_photoです。

 高校の同級生だったチャゲ&飛鳥は、ヤマハ主催のポプコン本選会に1978年の第16回、および翌年の第17回と出場し入賞。これをきっかけに79年8月に「ひとり咲き」でデビューし、80年に「万里の河」が大ヒットした。一方、石川優子も第16回のポプコン本選に出場し、79年にデビュー。大阪・MBSラジオの人気番組「ヤングタウン」でアシスタントDJを務め、その明るいキャラクターも相まってアイドル的要素を持ったシンガー・ソングライターとして人気に。81年、自身が作詞・作曲した「シンデレラサマー」が大ヒットした。

 84年、JALの沖縄キャンペーンCMソング制作の依頼がヤマハにあり、プロデューサーが幾人かのアーティストに声を掛け、出来上がってきた作品のうちの一つが、チャゲの手による「ふたりの愛ランド」だった。チャゲがあくまで遊び心で作ったものであり、当時まだフォーク色が濃かったチャゲ&飛鳥が歌うにはあまりにポップ過ぎたこともあって、同じヤマハ所属で仲の良かった石川優子と組ませることに。

 チャゲがこの曲の制作に取り組んだのはまだ真冬の寒い時期。夏の気分を盛り上げるために、室内でストーブを焚き、南の島のビデオを見ながら作ったという。そんな中で、夏を待ち焦がれる気持ちを込めた「夏 夏 ナツ ナツ ココナッツ」という、絶妙にマッチした歌詞とメロディーが同時に誕生した。しかしここに思わぬ落とし穴が。「沖縄にココナッツ(椰子の実)はないので、CMソングとしてどうか」と指摘されてしまったのだ。ここまでハマった歌詞とメロディーを今さら変えたくないチャゲは、考え抜いた末、ココナッツを「ココ夏」にすることを思いつき、JAL側からも無事OKをもらったという。

 キャッチーなサビはJALのCMで流れるとインパクトが強く、たちまちヒット。「ザ・ベストテン」には、まず6月7日にスポットライトで初出演。弘前市民会館のチャゲ&飛鳥のコンサート会場に石川がゲストで出演し、中継で歌う形だった。翌週に第7位で初ランクインし、2人揃ってTBSのスタジオに登場。この時期、チャゲ&飛鳥も石川優子もそれぞれコンサートツアーを行っており、互いのコンサート会場にそれぞれ飛び入りして中継で歌うケースが多かった。しかしそれすらスケジュール的に困難な時もあり、TBSのスタジオで歌う石川と、熊本で歌うチャゲの映像をリアルタイムで合成したり、福島にいる石川と新潟にいるチャゲを2元中継で結んだりと、まったく別々の場所からデュエットさせる離れ技も。

 当時のチャゲはサングラスをかけておらず、この曲でテレビ出演する際はほとんどハーフパンツ姿。また、なぜかいつも台座がない状態のスタンドマイクを持って歌い、やんちゃなパフォーマンスを見せていた。2位にまで上昇した時、黒柳徹子から「1位まであと一歩となりましたが、もし1位になったら何をしてほしいですか?」と呼びかけられ、チャゲは持っているマイクを示して「金のコレを作ってほしい」、石川は「チャゲさんと私、南極と北極に分かれて歌うのを中継してほしい」と、夢のあるリクエストを。結局、最高2位止まりになってしまったものの、その後チャゲには番組から金のマイクが贈られた。同曲は11週ランクインし、年間ランキングでも10位にランクインする大ヒットとなった。

 石川優子は1990年に歌手活動から引退。しかし「ふたりの愛ランド」はその後もひとり歩きし、夏の定番曲としてカラオケ等で歌われ続けている。2016年4月、イベント「青春名曲グラフィティ~僕らのポプコンエイジ~」に石川優子が出演、26年ぶりにステージに復帰。この時チャゲと共演が実現し、「ふたりの愛ランド」を歌い、観客総立ちで盛り上がった。チャゲは「30年たってもこの歌が多くの人に歌われているなんて想像もしていなかった」「歌番組で、いろんな女性とこの曲を歌ってきたけれど、活動を続けてきたからこそ、こうやってまたユッコと歌えた。本当にうれしい」と喜びを爆発させていた。

 とびきりポップな曲調と、男女の秀逸なハーモニーが楽しい、日本歌謡史上屈指の夏ソング。これからも世代を超えて、広く歌われ続けるに違いない。

ザ・ベストテン☆エピソード
 「ふたりの愛ランド」は最高2位で、惜しくも1位にはなりませんでした。番組史上において、男女デュエット曲がトップに迫った例は少なく、平尾昌晃・畑中葉子「カナダからの手紙」が5位、ロス・インディオス&シルビア「別れても好きな人」が4位、ヒロシ&キーボー「3年目の浮気」が2位、Toshi&Naoko(田原俊彦&研ナオコ)の「夏ざかりほの字組」が2位、日野美歌・葵司朗「男の女のラブゲーム」が8位、武田鉄矢・芦川よしみ「男と女のはしご酒」が5位、斉藤由貴・来生たかお「ORACION」が10位。1位になったのはただ1曲、郷ひろみ・樹木希林の「林檎殺人事件」だけです。
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