「Runner」を取り上げます。
1981年8月、東京・中野サンプラザにて、ヤマハ音楽振興会が主催するコンテスト「EastWest」が開催された。この時最優秀グランプリを受賞した『爆風銃（バップガン）』と、優秀グループに選ばれた『スーパースランプ』が出会い、後にファンキー末吉、江川ほーじん、サンプラザ中野、パッパラー河合の４人によって結成され、２つのバンドの名前を組み合わせたのが「爆風スランプ」だった。
1984年8月25日に「週刊東京『少女A』」でデビュー。ザ・ベストテンには1985年6月13日、スポットライトのコーナーに「無理だ！」で初出演。サンプラザ中野はスタジオ内を走り回り、スキンヘッドをテレビカメラのレンズにぶつけたり、ランキングボードによじ登ったりと大暴れ。ソファーに座っていた他の歌手らが唖然と見守る中、息も切れ切れに歌い、最後は番組スタッフが中野の足にヒモをくくりつけて引っ張り上げ、天井から逆さ吊りに。もちろんゲリラ的に暴れて迷惑を掛けたわけではなく、事前に番組スタッフと打ち合わせ、要求に応えた上でのことだった。「無理だ！」のランキングは60位程度でしかなく、本来ならば出られるはずもなかった。ただ歌詞に「こんな曲を出したところでザ・ベストテンに出られるはずがない」という意味の自虐的なくだりがあり、スタッフの目に留まって面白がられたためだったという。
こうやって強烈なインパクトを残した彼らは、ユニークな歌詞に加え、ライブでの過激なパフォーマンスも相まって、コミック・バンドとして見られることが多かった。しかしその後、新しいプロデューサーを迎え、彼らは本格的なヒットを目指してシリアスな路線へ舵を切ることになる。
1988年秋。闘病中の昭和天皇の体調を心配し、日本中が自粛ムードに覆われていた頃、10月に発売されたのが「Runner」である。発売直後は目立った動きはなかった。しかしビデオのCMソングとして流れたほか、当時大人気だった『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』内で、とある高校のアイスホッケー部を追ったコーナーのBGMとして使用され、ヒットにつながる。この年の紅白歌合戦に爆風スランプは初出場し「Runner」を歌った。やがて時代は昭和から平成へ。時を同じくして、89年1月の日本武道館公演を最後に、結成時からバンドを支えてきたベースの江川ほーじんが脱退。「Runner」の歌詞は、方向性の違いからバンドを去っていく彼に向けた思いを込めたものとも言われる。
紅白出場で勢いをつけた「Runner」はさらにヒットし、89年2月にザ・ベストテンに初ランクイン。「無理だ！」で大暴れしてから３年半、爆風スランプは文句なしのヒットを出して番組に帰ってきたのであった。学生の頃からいち視聴者としてベストテンのファンであったサンプラザ中野は大はしゃぎ。しかしこの時期、正式なベースがおらず、音楽番組への出演時には他の様々なバンドのベーシストがサポートに入っていた。「Runner」は11週間ランクインし、最高4位を記録する大ヒットに。
爆風スランプは、1999年に活動休止。しかし現在でも「Runner」は、高校野球の応援歌として演奏される定番曲になっているほか、テレビ番組で誰かが走る時のBGMに頻繁に使われるなど、世代を越えて知られている。2016年には携帯電話会社のCMで、80年代を象徴する曲の一つとして替え歌が流れた。さらに代表曲の一つ、日本武道館を舞台に少年の切なく悲しい恋の一場面を描いた名バラード「大きな玉ねぎの下で」は、2015年より東京メトロ東西線・九段下駅の発車メロディに起用。歌の風景を、駅の利用客に思い起こさせている。
爆風スランプの楽曲群は「青春」というキーワードで語られることが多いが、それは決してさわやかで美しい青春ではない。誰もが持っている、若さゆえの失敗や失恋の思い出、恥ずかしい妄想などを、少し大人になってから振り返るような、ほろ苦さに満ちている。それらが、不器用なほど真っすぐなサンプラザ中野のボーカルで歌われたからこそ、人々の心に突き刺さったのではないだろうか。
