



70年代から80年代にかけて、角川書店が発行する小説を原作とする数々の映画が制作され、メディアミックスによる大規模な宣伝でヒットした。いわゆる「角川映画」である。その角川映画を代表する女優の一人が薬師丸ひろ子だ。中学生の時にオーディションで選ばれた彼女は「野性の証明」「ねらわれた学園」等に出演。同時にアイドル的な人気も拡大していった。1981年12月、17歳の時に公開され爆発的な人気となった主演映画が「セーラー服と機関銃」である。原作は赤川次郎の小説。ごく普通の女子高生が、父親の死をきっかけに弱小ヤクザの組長を継ぐことになり、敵対する組織との抗争に巻き込まれるストーリー。殴り込みをかけた先で麻薬の入ったビンの列に機関銃を乱射して粉砕し、「カイ…カン!」とつぶやくシーンはあまりにも有名だ。
映画主題歌は本来、シンガー・ソングライターである来生たかおが歌う「夢の途中」になるはずだったが、紆余曲折あって薬師丸が歌うことに。曲タイトルも映画と同じ「セーラー服と機関銃」に変更され、これが歌手デビューとなった。来生と薬師丸の歌う2曲は異名同曲として同じ11月に発売。2曲は基本的に同じだが、1番の歌詞が一部異なる。恋愛を通じて成長し、自分の元を去っていく女性に向けた男の気持ちを歌ったもので、映画のタイトルやストーリーとは関連がない。
当時、薬師丸は学業優先ということもあってメディアにはほとんど出ない戦略を取っていた。本人稼働による映画のキャンペーン活動は、公開直前のわずかな期間のみ。これがファンの飢餓感を煽った。11月29日に新宿アルタビルで行われた「セーラー服と機関銃」の主題歌発表イベントでは、彼女を一目見ようと集まった約2万人の群衆で新宿駅東口広場が埋め尽くされた。12月19日に劇場公開されると、本人による舞台挨拶が予定されていた大阪の映画館にはファンが殺到。人が道路にまであふれ、警察が出動する騒ぎになり、上映と舞台挨拶が中止になったほど、凄まじい人気だった。
主題歌は12月17日、「ザ・ベストテン」に10位で初ランクイン。薬師丸がTBSのスタジオに出演して初々しい表情で歌唱した。翌週12月24日には第2位に上昇したものの、彼女はスタジオに現れなかった。司会の久米宏は何度も頭を下げ、「女優業に専念させるため映画公開後は歌手活動しない」という、彼女が所属する角川春樹事務所の意向を伝えた。さらに最新情報として、もともと学業優先の彼女は大学受験のために1982年は完全に休業し、一切芸能活動をしないことも告げた。このように、薬師丸が「セーラー服と機関銃」をザ・ベストテンで歌ったのはただ一度きり。年明け1月14日の放送ではついに1位に上り詰め、ファンの強い要望に応え、12月に出演した時の歌唱映像が特別に再放送された。
一方、来生たかおの「夢の途中」もヒット。まず1月にザ・ベストテンにスポットライトで出演し、その後上昇してランクイン。2月から3月にかけて「セーラー服と機関銃」と「夢の途中」という異名同曲が2つともベストテン内に同時ランクインするという大変珍しいことになった。
薬師丸ひろ子はその後も女優として数々の映画に主演する一方、主題歌も担当し、「探偵物語」(大瀧詠一)、「メイン・テーマ」(南佳孝)、「Woman "Wの悲劇"より」(呉田軽穂=松任谷由実)等、一流のアーティストから提供されたクオリティーの高い名曲をヒットさせていく。
1990年を最後に長らくコンサート活動は休止していたが、2010年から徐々に再開。2013年にNHKの朝ドラ「あまちゃん」で、ヒロインの憧れるベテラン女優を演じ、歌声も披露したのは記憶に新しい。テレビ歌番組への出演も増え、透明感あるボーカルはますます円熟味を増し、高く評価されている。