このコーナーでは、当時のランキングやエピソードと共に、「ザ・ベストテン」に出演した歌手のヒット曲を紹介していきます。第10回は1986年2月13日のランキングを紹介。 今月のスポットライトは、今から30年前、人気絶頂期に突然この世を去ったアイドル、岡田有希子さんを取り上げます。
その笑顔は永遠に… 時代を駆け抜けたアイドルのラストシングル
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 岡田有希子は、中学3年生の時に『スター誕生!』に応募し名古屋地区予選に合格。決戦大会に出ようとするが、受験生ということもあって家族から大反対される。親は諦めさせるために、テストで学年1位になること、第一志望の高校に合格すること等の厳しい条件を出すが、彼女は猛勉強。その意志の強さで見事に条件をクリアし、決戦大会に出場。チャンピオンとなり芸能界入りを果たす。

 1984年4月21日、16歳で「ファースト・デイト」で歌手デビュー。ベストテンへの最初の出演は5月31日。「スポットライト」のコーナーに、同じ日にデビューした菊池桃子と2人揃って出演している。同年10月、3枚目のシングル「恋、はじめまして」でベストテンに初ランクイン。第26回日本レコード大賞最優秀新人賞をはじめ、数々の音楽祭で新人賞を受賞。賞レースを文字通り総なめにした。新人歌手ながら、非常に明瞭な発声と正確な音程で歌うその歌唱力は、生の歌番組でも崩れることがなかった。デビュー曲から3作連続で竹内まりやが曲を提供しており、等身大の淡い恋心を歌った、この初期の楽曲が岡田のイメージを形づくったといえる。

 「ユッコ」と呼ばれ、愛らしい笑顔で男女問わず愛された岡田有希子。グリコのセシルチョコレートやカフェゼリーのCMをはじめ、大手企業のCMに多数出演。女優としても連続ドラマ「禁じられたマリコ」に主演するなど、アイドルとしての王道を歩んでいた。
 「くちびるNetwork」は8枚目のシングル。作詞のSeikoとは、当時同じサンミュージック所属で、前年に結婚し活動休止中だった松田聖子のこと。作曲は坂本龍一という豪華コンビの作品で、自身初のオリコン1位を獲得した。ベストテンには86年2月13日に第4位で初登場。この時、レコーディング時の松田・坂本との3ショットの写真も紹介。自己最高位を記録し3月13日まで5週連続でランクインした。しかし…。

 86年4月8日。岡田有希子は18歳という若さでこの世を去ってしまう。当時人気絶頂だったアイドルの突然の死が、世の中の若者に与えた衝撃はあまりにも大きかった。
 動揺が続く中、4月10日のザ・ベストテンは、司会の黒柳徹子も小西博之も黒い衣装を着て登場。番組は通常どおり明るく進行したが、「DESIRE」を歌う中森明菜の衣装は黒と白のシックなもので、どこか喪服のよう。トークも心ここにあらずといった様子であった。1位の少年隊が歌い終え、いつものようにスタジオで記念撮影を終えた後、黒柳徹子は視聴者に向けて語りだした。

「このベストテンに何度も出てくださいました岡田有希子さんがお亡くなりになったんです。今日、仲の良かった歌手のお友達も、悲しみをこらえて歌ってくださったんです。18歳でした。その悩みを分かってあげられなくて本当に申し訳なく、残念に思っています。ファンの皆さん、それからご家族の皆さんにとって悲しみはどんなに大きいかと思います。元気でいきいきとしていた時の有希子さんの姿をこれから皆さんとご一緒に見て、ご冥福を心からお祈りしたいと思います。あの明るい笑顔と美しいお顔が永久に皆さんの心に残ることを祈っています。有希子さん、本当にありがとうございました」

 エンディングにわざわざ時間をとっての異例のメッセージ。黒柳の言葉を聞きながら、明菜は悲しみに耐えるようにうつむいたまま。そして、これまでの岡田有希子の出演場面がダイジェストで流されたのであった。悲しみを共に受け止めようとする黒柳の言葉に、視聴者はどんなに心救われたであろうか。黒柳は後年のインタビューで、ファンから後日「あの時黒い服を着てくれてありがとう」という手紙が届いたことを明かし、「番組12年間の中でいちばん悲しい思い出です」と語っている。
 あれから30年。わずか2年の活動であったが、岡田有希子の歌にふれたすべての人たちの中で、 あの笑顔の輝きは今も失われていない。

ザ・ベストテン☆エピソード
毎週のランキングで、いわゆる「演歌」ジャンルの曲が1位になったケースはほとんどありません。ただし、最高位は高くなくても、ロングセラーとなってじわじわランクインを続けた結果、年間ランキングで1位になるケースがありました。79年は小林幸子「おもいで酒」、80年は五木ひろし「倖せさがして」、82年は細川たかし「北酒場」、83年は細川たかし「矢切の渡し」、84年は五木ひろし「長良川艶歌」、87年は五木ひろし「追憶」が、それぞれ年間1位になっています。
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