名前も知らないあの人へ

あの夜私は 一人街角に立った すり切れたショールで 哀しみを隠して
道行く男達は 耳元で囁く いくらで寝るのさ あばずれ女

たとえ飢えて死のうと 見知らぬ男に 体を売るような 女じゃないわ

だけどその夜私は 男の誘いに乗った
たった10フランのお金が どうしても欲しくて
ベールビル通りの 寒いホテルで 男は無造作に 私を抱いた

たとえ殺されようと あんたなんかに 体を売るような 女じゃないのに

今日娘が死んだの たった2歳だった
そばには誰もいなくて 一人ぼっちのまんま
あの小さな手を 握ってくれる人もいなかった
あの小さな頬に キスもされないまま
一人ぼっちで 死んでいったわ
きっと今ごろあの空色の目で 私をさがしているわ
あのほそい声で 私を呼んでいるわ
ママずっとそばにいて 私を抱いて

だから今夜私は あんたに抱かれるわ
たった10フランのお金で お葬式を出すために
だから今夜私は 何を捨ててもいいの 子供を見捨てた 罪を償うために

だけど知っているわ すべては無駄なこと
罪をつぐなう事など 誰にも出来ない

そう もうすべては無駄なこと
罪をつぐなうなんて 誰にも誰にも誰にも出来ない

その夜 男は 黙って10フランをテーブルになげだすと
私を抱かずに 部屋を出ていった
最後に肩をすくめてこういったわ
C'est la vie, それが人生ってもんさ
C'est la vie,
C'est la vie
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