番組の途中だったが僕はテレビを消し、ピアノの前に座った。

 2020年3月11日に“松室政哉”が最新EP『ハジマリノ鐘』をリリース!つらく苦しい日常が続いても、今の人生を、今の自分を、今生きているこの世界を愛したい。主人公の苦悩と葛藤を綴った【ハジマリ】のラブソングとなっているタイトル曲「ハジマリノ鐘」他、全5曲が収録されております。

 さて、今日のうたコラムではそんな最新作を放つ“松室政哉”本人による歌詞エッセイを、3週に渡りお届け!その第1弾で綴っていただいたのは、タイトル曲「ハジマリノ鐘」にまつわるお話です。上京する前の気持ち、上京したての頃の気持ち、そして今の気持ち…。彼のなかで“ハジマリノ鐘”が鳴ったのは、一体どんな瞬間だったのでしょうか。

~第1弾歌詞エッセイ「ハジマリノ鐘」~

 2012年、春。高校時代の同級生が運転してくれる軽自動車で僕は上京した。その日は爆弾低気圧の影響で暴風雨が東京を襲っていた。しかし荒れた天気とは裏腹に、僕はこれから始まる新しい生活への期待に胸を膨らませていた。

 14歳の頃から大阪で音楽活動を始め、10代の音楽コンテストでは数回全国大会に出場するなど、周りから見ると順調な音楽生活を送っていたのかも知れない。でも何故か満足できなかった。正確に言うと、満足してしまいそうな自分に満足できなかった。自分の音楽をもっと多くの人に届けたい。ただそれだけの思いで僕は上京することを決めた。22歳の僕には何のプランも無かったが、今の状況をガラッと変えて音楽と向き合あう事が必要だと考えたのだ。

 母に上京したいと伝えた時の話がある。大学も中退して、先の見えない音楽活動をしている僕が、もっと先の見えない選択である上京を決断したことには反対されるのではないかと思っていた。意を決して話し出すと、案の定、母は泣き出した。やっぱり反対されるか、と思ったが母の言葉は僕の予想とは真逆の答えだった。

「やっと言ってくれた。あんたが本気で音楽したいのなら、私は東京しか無いと思っていた。」

 反対されると思っていた10秒前の自分が急に情けなく思えた。こんなに近くで応援してくれている人の気持ちをちゃんとわかってなかったのだ。

 東京に活動の場を移した頃に出来たのが「ハジマリノ鐘」だ。テレビで隕石についての番組が放送されていて、僕はぼんやりと観ていた。地球の46億年の歴史の中で壊滅的な被害を及ぼす隕石は幾度となく落ちている。そしてこれからも隕石は地球に落ちてくると言う。その狭間で生命が誕生し、僕らは今生きているのだ。地球の歴史の中で見るとちっぽけな時間だが、だからこそ今僕らが生活していることが奇跡に思えた。番組の途中だったが僕はテレビを消し、ピアノの前に座った。Cのコードを弾きながら自然とメロディと言葉が出てきた。

“はじまりの鐘が鳴る”

 その言葉がどこから出てきたのかは正直あまり覚えていない。ただ、壮大なテーマを扱った番組を見た後だが、むしろすごく身近な世界を歌いたいと曲を作りながら思っていたのは覚えている。まだ上京したばかりで知り合いもいない、まさに一人を感じるあの時だったからこそ、自分の人生で身近に感じられる人々への思いが溢れていたのだと思う。
そしてこれからそんな風に思える出会いがいくつあるのだろうか、とも。

 上京という選択が、自分の人生の終わりに間違ってなかったと思えるために何をすれば良いのか。僕を送り出してくれた人々に喜んでもらうために何をすれば良いのか。そして自分が信じる音楽をたくさんの人に届けるために何をすれば良いのか。そんな事をこの曲を作りながら考え始めた。そして、それは今も考えている。

 曲作りは、僕の中に存在している言葉やメロディをその時の感情のうねりに合わせて吐き出していく作業だと思っている。「その言葉がどこから出てきたのかは正直あまり覚えていない。」と言ったが、いつからか心の中に浮かんでいたぼんやりとした何かが形になったのがサビの言葉なのだと思う。

 あの日、大雨の東京に降り立った僕の中ではじまりの鐘は鳴っていたのだ。

<松室政哉>

◆紹介曲「ハジマリノ鐘
作詞:松室政哉
作曲:松室政哉

◆EP『ハジマリノ鐘』
2020年3月11日発売
UMCA-10073 ¥3,300(税別)

<収録曲>
M1.ハジマリノ鐘
M2.にらめっこ
M3.My Hero
M4.どんな名前つけよう
M5.マーマレードジャム