詩の書き方が変わってしまった。

 2021年12月15日、澤部渡のソロプロジェクト“スカート”がニューシングル『海岸線再訪』をリリースしました。収録曲には、JBL「Tour Pro+ TWS」 WEB CMソングに起用された「海岸線再訪」を表題曲に、Paraviオリジナルストーリー『最愛のひと~The other side of 日本沈没~』イメージソングを含む、計3曲が収録されております。
 
 さて、今日のうたコラムではそんな最新作を放ったスカート・澤部渡による歌詞エッセイをお届け!綴っていただいたのは、今作の収録曲「海岸線再訪」のお話。以前と作詞の方法が変わった彼が、新しい方法でどのようにこの曲の歌詞を完成させたのか。ワンフレーズを引用しながら、その軌跡を明かしてくださいました。じっくりとお楽しみください…!



詩の書き方が変わってしまった。昔から紙にペンで書くことが多かったのですが、今回の『海岸線再訪』に収録されている曲のほとんどをPCで仕上げました。次第に環境が、時代がそれを許さなくなってしまった形です。
 
まず環境。実家を出て、はじめて暮らしたシェアハウスではどんなに部屋が汚くても、居間だけはきれいだったので、夜中にそこで書いたりしたものだけど、シェアハウスが解体されて以降はノートを広げられるきれいな机がない、というしょうもない悩みが発生。喫茶店を転々とした時期もありましたが、最終的には深夜営業のファミリーレストランに落ち着きました。
 
そして時代。働き方改革なのか、それとも採算取れないからなのか、とにかく各ファミリーレストランは深夜営業の終了を高らかに宣言。それと同時に新型コロナウイルスの蔓延。完全に八方塞がりになってしまいました。
 
1年はぼんやりすることができましたが、締め切りというものが確実に我々に近づいてきます。そこで私はPCでの作詞を決意します。Wordもあったけど、普段から原稿を書いていたテキストエディットを使用することにしました。昼間から書くことも挑戦しましたがやはり真夜中の方が集中できるようでした。
 
「どう悩んだか」が残るから、という理由で紙に書いていたので、せめて「どう悩んだか」がわかるように一回書いたら消さず、どんどん書き足して行って、スクロールせずに表示できるところまで書いたら新しくファイルを立ち上げる、という方法でなんとか完成しました。
 
たとえば「海岸線再訪」なら、最初に書いてあるのは<風は悪くはない><ああ 何を見たんだ><ひとつもありゃしない>というものです。これらはメロディを作っていた段階から思いついていた言葉でした。
 
少し具体的な話をすると<透かして見えたものは 通り過ぎただけの いつかの海岸線>という詩の部分は、もともと<いびつにゆがんだ景色はいつかの海辺じゃないか>というメロディーに当てる当てない以前の走り書きをもとに、<透過して見えるのは いつかの海辺じゃないか><透かして見えたものは (9文字) いつかの海辺じゃないか>と変化していきました。
 
ギリギリまで<いつかの海辺じゃないか!>という詩が当てられていていましたが、その前の(9文字)と書かれた部分に<通り過ぎただけの>というフレーズが入ったこともあってか、清書する段階で<海岸線>という言葉に変更され、「海岸線再訪」は完成しました。
 
PCで作業してみて、なぜ頑なに紙で書いてきたんだろう、とも思いますし、また引きこもりになってしまった、という気持ちもあります。私にとって外に出て、詩を書くということはなにか社会的な行為のつもりだったのでしょうか。
 
<スカート・澤部 渡>


◆紹介曲「海岸線再訪
作詞:澤部渡
作曲:澤部渡
 
◆New Single『海岸線再訪』
2021年12月15日発売
 
<収録曲>
M1.海岸線再訪 ※JBL『Tour Pro+ TWS』WEB CMソング
M2.背を撃つ風 ※Paraviオリジナルストーリー「最愛のひと~The other side of 日本沈没~」イメージソング
M3.この夜に向け ※「大きなサイズの店 フォーエル」 CMソング