夏休み中の僕らは画面越しでしか繋がれなかった。

 2022年1月19日に“moon drop”が1st Full Album『この掌がまだ君を覚えている』をリリース!キーボーディスト・SUNNY氏をプロデューサーに迎えた「水色とセーラー服」「リタ」など、ストリングスを中心としたバンドサウンド以外の音を巧みに組み合わせた意欲的な楽曲や、ライブハウスを中心に活動を続けてきたバンドの雰囲気がソリッドに表現された「君と夜風」など、全11曲のドラマチックなラブソングが収録されております。
 
 さて今日のうたコラムでは、そんな最新作を放つ“moon drop”の浜口 飛雄也(Vo.)による歌詞エッセイをお届け。今回は第1弾。綴っていただいたのは、今作の収録曲「水色とセーラー服」のお話です。画面越しで繋がる夏休み。君からの返信を待つ時間。そして新学期の不安と期待…。歌詞に描かれている物語と感情がより鮮明に伝わってくる歌詞エッセイを、是非、楽曲と併せてお楽しみください!



壊れかけた扇風機が刻む音と
麦茶に入った氷が溶ける音
僕を責めるように鳴くセミの声
カレンダーの空白に比例して大きくなるため息と一緒に今日を消費している
 
ただぼーっと
小さい部屋の冷たい床に張り付いて
うなだれて君を待つ
夏休みの日の長さを恨むのは
後にも先にもこの夏だけだろうと思う
 
“君を待つ”といっても
実際に目の前に現れてくれるわけではない
この長期休暇の楽しみといえば
君との何気ないLINEの会話だけだった
スマホの振動に飛び起きてはため息をついている
完全に操り人形、踊らされている
笑える
そう、夏休み中の僕らは
画面越しでしか繋がれなかった
費やす日々と、積もる想い
それほどに君色に染まっていた
 
新学期 いつもの通学路
錆びついた自転車を漕ぎながら
差し込む日差しを睨んでいた
君との下校の約束
待ち望んだ今日のはずなのに
不安と期待が入り混じって家に帰りたい
 
終業のチャイムが校内に響く
日焼け止めの匂い
黒い髪とセーラー服
いつも通り、いや、いつも以上に光って見える君が
僕の想いなんてそっちのけで平然と僕の前に立っていた
 
「待った?」
の一言に得意げに首を横に振る
泳ぐ目に気付かれないように
心動が伝わらないように
ゆっくりと二人並んで歩く
出来る限り歩幅を合わせて
近すぎず遠すぎず
君のペースで進んでいく
さっきまでの余裕なんて忘れ去ってしまった僕に
「乗せてよ」
自転車を指差して君が言う
 
君を後ろに乗せたまま
風を切って坂を下る
ガードレールを追い越して揺れるスカート
流れる汗となびく髪
加速する車輪と恋心
 
君を降ろして手を振った
 
「またね」
 
差し込むオレンジと心拍数
あの長い休みの間ずっと思ってたこと
きっと涼しい顔をして伝えられないけど
眠る前に思い出すのが僕じゃなくても
この夏が終わる前にどうしても言いたいことがある
 
ゆっくり二人を近づけるように
そっと吹いた暖かい夏の風に押されて君を抱きしめた
もうどうにでもなれと思った
全部夏のせいにしたかった
欲を言えばもう少しこのままで
もう少し君の近くへ
 
日差しの強かったあの日
そっと暖かい風が吹いて
僕らは水色の恋をした

<moon drop・浜口飛雄也>


◆紹介曲「水色とセーラー服
作詞:浜口飛雄也
作曲:浜口飛雄也・坂知哉